[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

光レドックス触媒と有機分子触媒の協同作用

[スポンサーリンク]

Merging Photoredox Catalysis with Organocatalysis: The Direct Asymmetric
Alkylation of Aldehydes
Nicewics, D. A.; MacMillan, D. A. Science 2008, published on ScienceExpress doi:10.1126/science.1161976

プリンストン大学MacMillanらによる報告です。

以前、彼らは新規活性化方式としてのSOMO-Activation概念[1]を提唱し、有機分子触媒の新たなフィールドを切りひらきました。 すなわち、系中で生成するエナミン中間体を一電子酸化し、生じたラジカル中間体を化学結合形成に活用する、というものです。

 

今回彼らは、一電子酸化過程の触媒化に成功し、更なる発展を成し遂げました。キーポイントとなったのは、光レドックス触媒としてよく知られているRu(bpy)32+錯体[2]を共存させたことです。これによりSOMO-Activation形式で、アルデヒドの不斉α-アルキル化が進行します。Ru錯体が無いと反応はほとんど進行しません。

 

いくつかの適用例を下図に示しておきます。
オレフィンや、シクロプロピルフェニル(ラジカルクロック)基が反応しない事から、過去提唱されていたエナミンラジカルとは異なる中間体の存在が示唆されてます。α-ハロケトンは問題なく適用できますが、α-ハロエステルは電子求引基を持つほうが良いようです。とりわけ、置換反応には適用困難とされる、ラセミ体の三級アルキルハライドが適用可能というのは特筆すべき点であり、この反応の強力さを如実に示しています。

 

photoredox_macmillan_3.gif

安価な市販試薬を用いて室温下に行え、UVなどの強エネルギー光源を必要とせず、大量合成にも適用可能な優れた方法です。ただ、現在のところ、アクセプターはα-ハロカルボニル化合物に限られてしまうようです。

 

このような基質一般性、およびルテニウム錯体の酸化還元電位値を考慮し、彼らは「アルキルハライドから還元的に生成する電子不足アルキルラジカルが、電子豊富エナミンに付加する」という触媒サイクルを提唱しています。

 

photoredox_macmillan_2.gif
(クリックすると大きな画像が出ます:Science誌より転載)

ルテニウムの配位子を変更することで、酸化還元電位を調節しうる可能性についても論文中で触れられています。今後さらなるチューニングにより、基質一般性の拡張などが期待できます。
これまで関連が薄いと考えられていた分野の化学同士を結びつけている、かなり意欲的な研究の一つではないでしょうか。

 

関連論文

[1] Beeson, T. D.; Mastracchio, A.; Hong, J. B.; Ashton, K.; MacMillan, D. W. C. Science 2007, 316, 582. DOI: 10.1126/science. 1142696
[2] (a) Kalyanasundaram, K. Coord. Chem. Rev. 1982, 46, 159. (b) Juris, A. et al. Coord. Chem. Rev. 1988, 84, 85.

 

関連試薬

Aldrich


mfcd03426983.gifMacMillan触媒
: (5S)-(?)-2,2,3-Trimethyl-5-benzyl-4-imidazolidinone monohydrochloride

分子量:254.76

CAS:278173-23-2

製品コード:569763

用途:不斉有機分子触媒

説明:2000年に報告された、触媒的不斉Diels-Alder反応を皮切りに、MacMillanらは、1,3- 双極子環化付加反応や、Friedel-Crafts アルキル化反応、α- 塩素化反応、α- フッ素化反応、分子内Michael 反応などを高いエナンチオ過剰率で進行させることが可能な触媒を見出した。このイミダゾリジノン触媒を基本骨格として、さらに様々な触媒的不斉合成反応を見出している。

文献:Jen, W. S.; Wiener, J. J. M.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc.
2000, 122, 9874.

その他のMacMillan触媒に関する記述: 有機分子触媒(Aldrichオンラインカタログ, PDFファイル)

 

関連リンク

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ケムステV年末ライブ2022を開催します!
  2. 触媒のチカラで拓く位置選択的シクロプロパン合成
  3. 常温常圧アンモニア合成~20年かけて性能が約10000倍に!!!…
  4. 相田卓三教授の最終講義をYouTube Live配信!
  5. 第29回光学活性化合物シンポジウム
  6. カンブリア爆発の謎に新展開
  7. 神経変性疾患関連凝集タンパク質分解誘導剤の開発
  8. 有機合成化学協会誌2021年8月号:ナノチューブカプセル・ナノグ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. アンモニアの安全性あれこれ
  2. 大麻複合物が乳がんの転移抑止効果―米医療チームが発見
  3. 化学物質研究機構、プロテオーム解析用超高感度カラム開発
  4. カバチニク・フィールズ反応 Kabachnik-Fields Reaction
  5. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(4)
  6. 配位子で保護された金クラスターの結合階層性の解明
  7. ケムステV年末ライブ2021開催報告! 〜今年の分子 and 人気記事 Top 10〜
  8. 人工DNAから医薬をつくる!
  9. 典型元素を超活用!不飽和化合物の水素化/脱水素化を駆使した水素精製
  10. 第8回 野依フォーラム若手育成塾

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学,情報科学,実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

光と励起子が混ざった準粒子 ”励起子ポラリトン”

励起子とは半導体を励起すると、電子が価電子帯から伝導帯に移動する。価電子帯には電子が抜けた後の欠…

三員環内外に三連続不斉中心を構築 –NHCによる亜鉛エノール化ホモエノラートの精密制御–

第 628 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科 分子薬科学専…

丸岡 啓二 Keiji Maruoka

丸岡啓二 (まるおか けいじ)は日本の有機化学者である。京都大学大学院薬学研究科 特任教授。専門は有…

電子一つで結合!炭素の新たな結合を実現

第627回のスポットライトリサーチは、北海道大有機化学第一研究室(鈴木孝紀教授、石垣侑祐准教授)で行…

柔軟な姿勢が成功を引き寄せた50代技術者の初転職。現職と同等の待遇を維持した確かなサポート

50代での転職に不安を感じる方も多いかもしれません。しかし、長年にわたり築き上げてきた専門性は大きな…

SNS予想で盛り上がれ!2024年ノーベル化学賞は誰の手に?

さてことしもいよいよ、ノーベル賞シーズンが到来します!化学賞は日本時間 2024…

「理研シンポジウム 第三回冷却分子・精密分光シンポジウム」を聴講してみた

bergです。この度は2024年8月30日(金)~31日(土)に電気通信大学とオンラインにて開催され…

【書籍】Pythonで動かして始める量子化学計算

概要PythonとPsi4を用いて量子化学計算の基本を学べる,初学者向けの入門書。(引用:コ…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2024年版】

今年もノーベル賞シーズンが近づいてきました!各媒体からかき集めた情報を元に、「未…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP