[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

ホイスラー合金を用いる新規触媒の発見と特性調節

[スポンサーリンク]

第174回目のスポットライトリサーチは、東北大学 学際科学フロンティア研究所・小嶋隆幸 助教にお願いしました。

今回の研究は「ホイスラー合金」と呼ばれる触媒応用には元来着目されていなかった材料群に対し、触媒としての価値を見いだした成果になります。本成果はScience Advances原著論文およびプレスリリースとして公開されています(冒頭画像はプレスリリースより引用)。

“Catalysis-tunable Heusler alloys in selective hydrogenation of alkynes: A new potential for old materials”
Kojima, T.; Kameoka, S.; Fujii, S.; Ueda, S.; Tsai, A.-P. Sci. Adv. 2018, 4, eaat6063. DOI: 10.1126/sciadv.aat6063

研究室を主催されている蔡 安邦 教授から、小嶋さんについて以下の様な人物評を頂いています。異分野に積極的に切り込み、構想を実現させて行く意志の強さが感じられる人材です。それでは、今回のインタビューをご覧下さい!

小嶋君はもともと磁性材料の研究を行っていたが、触媒材料に興味をもって当研究室に参入し、金属触媒の開拓に励んできた。研究に対して、自分の発想をいかに実現するか、装置の組み立てから実験の段取りを自ら取り組んできた。10月にプレスリリースしたホイスラー合金触媒の開発は正に本人の意志と努力による賜物である。研究に積極性と緻密性を併せ持つ新進気鋭であり、金属と触媒という二つのキーワードで、新しい材料を開拓していくことが大いに期待される。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

磁性・スピントロニクス材料、熱電材料、形状記憶合金として有名な「ホイスラー合金(X2YZ)」は元素の組み合わせが多く、第四元素置換により特性制御が可能という特長があります。これを触媒に応用し、貴金属を含まないCo2(Mn or Fe)Geが、アルキンの選択水素化(工業的にはPd系触媒が用いられる重要な反応)に対して優れた特性を持つことを発見しました。また、従来の合金触媒では難しかった第四元素置換による触媒特性の系統的制御に成功しました。この精密制御性は実用上有効なだけでなく、これを利用した基礎研究により、合金の触媒機能についての一般則を見出せるかもしれないと期待しています。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

私は元々、磁性薄膜の研究をやっていて、そこから新しく触媒の研究に挑戦しました。分野を変える時、今のボスの蔡安邦先生に持ち込んだのがこのテーマでしたが、学振PDも現職の公募も次点で落ちてしまいました。翌年に別テーマで学振PDも現職も通りましたが、一番最初に考えた今回のテーマで画期的な成果を出すことができて本当に嬉しかったです。やはり自分は正しかったのだと。工夫した点はとにかく不確定要素を排除することでした。コンタミに細心の注意を払い、粒径をちゃんと揃えて、swagelok継手の隙間から流入した極微量の空気もしっかりパージして、というように少しでも気になる点を全て潰して基礎研究を行いました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

分野を180度変えたので、触媒の研究に慣れること自体がまず大変でした。どのように測定してどのようなことに気をつければ、定量的な議論ができるのか、ということを見出すまでかなり苦労しました。ホイスラー合金の中に優れた触媒が眠っているはずだし、これを利用して触媒機能のメカニズム解明の基礎研究もやれるはずだと目論んでいましたが、どのような反応に有効なのか、どのような反応を使えば基礎研究をやれるのか、ということを見出すのに苦労しました。乗り越えられた理由は、とにかくあきらめずに頑張ったというだけです(笑)。目先の成果のためでなく、大きな目標を立てたチャレンジングなテーマだったので頑張れたと思います。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

元々化学の人間ではないし、今でも「化学者」だとは思っていません。高専時代からずっと材料について学び、いろんな分野の材料を研究してきましたので、「材料(物質)」が関係することなら分野にとらわれず研究していきたいと考えています。触媒はその中の一つであり、化学についてはまだまだ素人だからこそ、普通の化学者とは違った発想ができると思っていますので、誰もやっていないような触媒研究に取り組んでいきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回私が用いた「ホイスラー合金」は化学の人には全く馴染みが無い物質だと思います。また、触媒の人は基本的に微粒子を扱うので、今回のようなバルク試料の作製法などもご存知無いかと思います。もし私の研究にご興味を持ってくださいましたら、気軽にお問い合わせや触媒学会等で声を掛けていただけると嬉しいです。また、これを機に材料分野にも目を向けていただければ幸いです。何か化学に役立つ新しいアイディアが浮かぶかもしれません。

研究者の略歴

小嶋 隆幸 (こじま たかゆき)
東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教
(多元物質科学研究所 蔡安邦研究室に居住)

研究テーマ: 触媒、(金属)材料、磁性、バルク、薄膜、機能性材料全般、スピントロニクスなどをキーワードに異分野融合研究に取り組んでいます。

詳しい経歴はこちら

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 中学入試における化学を調べてみた 2013
  2. マテリアルズ・インフォマティクスの基本とMI推進
  3. 3.11 14:46 ③ 復興へ、震災を教訓として
  4. アメリカで Ph.D. を取る -Visiting Weeken…
  5. 分子の聖杯カリックスアレーンが生命へとつながる
  6. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方と…
  7. 光レドックス触媒と有機分子触媒の協同作用
  8. 博士号とは何だったのか - 早稲田ディプロマミル事件?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. マリウス・クロア G. Marius Clore
  2. 光学分割 / optical resolution
  3. 芝浦工業大学 化学エネルギーのみで駆動するゲルポンプの機能を実証~医療デバイスやソフトロボット分野での応用期待~
  4. ノーベル賞・田中さん愛大で講義
  5. Whitesides’ Group: Writing a paper
  6. 光有機触媒で開環メタセシス重合
  7. ブライアン・ストルツ Brian M. Stoltz
  8. 海外で働いている僕の体験談
  9. 新課程視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録
  10. 電子1個の精度で触媒ナノ粒子の電荷量を計測

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP