[スポンサーリンク]

化学工学

実例で学ぶ化学工学: 課題解決のためのアプローチ

[スポンサーリンク]

概要

本書は現在の化学工学系のカリキュラムを徹底調査し、限られた授業時間でも学生が化学工学ならではのアプローチ、すなわち「課題解決のためのアプローチ」を理解できる構成を試みた初めてのテキストである。第1編では化学工学の本質を実感してもらうことを目的に、社会的な問題や課題に対してどのように全体像を把握し解決の“鍵”をみつけていくのか,そのアプローチと考え方を学ぶ。 第2編は「課題解決のためのアプローチ」を実践するための基礎知識(単位,物質収支,熱収支,物質移動,熱移動,反応工学,プロセスシステム工学,機械学習,無次元数とアナロジー)を学ぶ。 第3編は第2編で学んだ基礎知識および第1編を用いて身近な生活に関わる例から地球規模に至る例を取り上げ、現実の課題を解決していく。化学工学の「課題解決のためのアプローチ」がさまざまな課題にどのように適用され、社会でどのように生きるのか理解できる(引用:丸善出版より)

対象者

本書は身の回りの実例を題材に、化学工学の基礎を解説しています。現象を定量的に示すために数式を多用されていますが、式変形が詳細に記述されているため、大学1,2年生から読み進められる内容です。物理化学を勉強していると本書を読むことでその理論が実世界でも役立っていることが実感できるため、化学科を卒業した方にも読んでいただきたい書籍です。

目次

  • 第 I 編 課題解決のアプローチ

1章 下準備:課題の明確化 1.1 検査面 1.2 理想像と課題
2章 問題解決のアプローチのための基礎 2.1 物質収支,エンタルピー収支と全体像の理解 2.2 目的志向で小さな検査面の間の情報をつなぐ 2.3 化学工学の現象モデル化に対するアプローチ 2.4 アナロジー 2.5 ブラックボックス
3章 化学工学の課題解決のアプローチ 3.1 本質,支配因子をつかむ 3.2 感度解析による繰り込み・簡略化 3.3 全体像の把握から課題解決の “鍵” を抽出
4章 全体がつかめたら,その解決のための発想を 4.1 課題解決:発明のための方法論 4.2 課題解決,システムインテグレーション,社会の設計へ
5章 まとめ:化学工学の本質

 

  • 第 II 編 基礎編

6章 化学工学量論 6.1 単 位 6.2 物質収支 6.3 熱収支
7章 物質移動 7.1 粘性と流れ 7.2 混合・攪拌 7.3 物質移動係数と境膜
8章 熱移動 8.1 伝導伝熱・熱伝導 8.2 対流伝熱
9章 反応工学 9.1 一次反応 9.2 回分式反応器 9.3 連続攪拌槽反応器 9.4 管型反応器 9.5 各反応器の比較 9.6 完全混合槽列モデル(多段CSTR) 9.7 複雑な反応の場合 9.8 まとめ
10章 システム化と化学工学設計 10.1 プロセスシステム工学 10.2 機械学習
11章 無次元数とアナロジー 11.1 移動現象のアナロジー 11.2 無次元数 11.3 まとめ

 

  • 第 III 編 応用編

12章 宇宙ステーションでの酸素循環 12.1 人間の酸素使用量 12.2 宇宙ステーションでの酸素循環システム 12.3 まとめ
13章 蒸留による分離 13.1 蒸留 13.2 気液平衡 13.3 フラッシュ蒸留 13.4 単蒸留 13.5 精留 13.6 まとめ
14章 地球温暖化の原理 14.1 地球と太陽 14.2 大気の影響 14.3 地球温暖化現象 14.4 まとめ
15章 ドリップコーヒーの淹れ方 15.1 ペーパードリップでの淹れ方 15.2 コーヒーの抽出の基礎 15.3 コーヒー粉の粉径と抽出時間 15.4 まとめ
16章 逆浸透膜プロセスによる海水淡水化 16.1 地球上で利用可能な真水 16.2 膜を用いた海水からの真水のつくり方 16.3 逆浸透法による海水淡水化 16.4 境膜物質移動係数の推算 16.5 膜分離プロセスにおける物質収支 16.6 まとめ
17章 固体高分子形燃料電池の操作条件 17.1 燃料電池の効率 17.2 膜中のプロトン伝導抵抗とその制御 17.3 燃料電池における水の生成と電池発電の制御 17.4 まとめ
18章 超臨界流体によるナノ粒子合成 18.1 過飽和度の制御 18.2 混合速度の制御 18.3 超臨界流体リアクター 18.4 超臨界流体を利用したナノ粒子合成 18.5 まとめ
19章 温泉熱エネルギーの地産地消 19.1 温泉とその熱利用 19.2 温泉熱エネルギーの回収 19.3 回収した温泉熱エネルギーの使途例 19.4 まとめ

内容

理学部で化学を勉強してきた自分は化学工学について本格的に勉強したことがなく、化学工学の基礎に触れてみようと思い今年発売された本書を購入してみました。タイトルの通り、身の回りの現象を例に挙げながら化学工学の現象を解説されていることが大きな特徴で、取り扱われている現象がどのように実世界の中で反映されているのかを理解しながら学習することができます。大学のテキストとしても使えるように例題が盛り込まれていますが、問題の直後に答えとなる解説が記述されており少し答えを考えてから解説を読み、自分の考えが同じだったかを見ていくくらいの扱いが自己学習では有用だと思います。

内容を章ごとに見ていくと、第 I 編の課題解決のアプローチでは、化学工学を勉強するにあたって重要な考え方がいくつか示されています。一例として示されているメタンと水からメタノールを合成する反応では、プラントで排出される二酸化炭素の削減を課題として、各反応ステップにおける反応温度の最適化や合理的なリアクター、排出物の活用方法などが紹介されています。特に、メタンと水から一酸化炭素を合成する反応では、反応率は1000℃以上でほぼ100%になるものの、実際のプラントでは二酸化炭素の排出が極小となる900℃で運転していることが興味深いと感じました。このように工業的な化学品の合成においては、プラント全体でエネルギーや物質の移動を考える必要があることを感じさせる内容となっています。

第 II 編の基礎編から化学工学の基礎的な事項が解説されています。この編の流れとしては予備知識として必要な化学工学量論から入り、次に、化学工学において重要な単元である物質移動と熱移動が解説され、その内容を発展させた反応工学とシステム化と化学工学設計、無次元数とアナロジーで完結するという流れでまとめられています。熱移動の中では二重窓について触れられており、感覚的にはガラスをただ一枚増やすことの効果は懐疑的になりますが、熱移動を計算してみると二重のガラスで熱の移動が劇的で遅くなることを定量的に理解することができました。反応工学ではプラントで使われている反応器がいくつか紹介されており、どんな因子が反応率にどう影響するか式を用いて明示されています。単にバッチとフローだけでなく様々な種類の反応器があり、反応形態ごとに反応プロセスを使い分けていることが分かりました。システム化と化学工学設計では、プラントの設計について触れられており、そのコンセプトが時代ごとに変化してきたことを知ることができます。また機械学習のパートは金子弘昌 先生が担当されており、機械学習の要素が簡潔にまとめられています。

すでにここまでに数多くの事例が登場していますが、第 III 編 応用編では、8つの実例について深く取り扱っています。最も身近な実例はドリップコーヒーで、コーヒーの粉の粒径に起因する味の違いについて化学工学の観点から解説されており、コーヒーにこだわる方にぜひ読んでいただきたい内容です。また身近な現象ではないものの蒸留のパートも複雑な蒸留器がもたらすメリットについてグラフから気液平衡線に基づいて解説されております。

あとがきでコメントされているように本書は、網羅的な化学工学の教育が手薄になっていることに危機感を感じた化学工学会の方が中心となって出版されました。化学工学の知識はプラントだけでなく身の回りの現象やバイオ・医療、地球環境、宇宙での生活など幅広い分野に活用できることと、課題に対する化学工学的なアプローチの解決手段を本書から知ることができます。学習のためのテキストの面もありますが、解説文が多く気軽に読める書籍となっています。

化学工学に関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 最新ペプチド合成技術とその創薬研究への応用
  2. ノンコーディングRNA 〜 RNA分子の全体像を俯瞰する〜
  3. 交響曲第6番「炭素物語」
  4. 【書籍】イシューからはじめよ~知的生産のシンプルな本質~
  5. Guide to Fluorine NMR for Organi…
  6. 大学院講義 有機化学
  7. 有機化学1000本ノック【命名法編】【立体化学編】
  8. Classics in Total Synthesis

注目情報

ピックアップ記事

  1. できる研究者の論文作成メソッド 書き上げるための実践ポイント
  2. ゴム状硫黄は何色?
  3. 有機合成化学協会誌2018年8月号:触媒的不斉全合成・分子ローター型蛍光核酸・インドロキナゾリンアルカロイド・非対称化・アズレン・ヒドラゾン-パラジウム触媒
  4. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  5. ノーベル化学賞受賞者が講演 3月1日、徳島文理大学
  6. マクロロタキサン~巨大なリングでロタキサンを作る~
  7. グリーンケミストリー /Green Chemistry
  8. 創薬におけるPAINSとしての三環性テトラヒドロキノリン類
  9. ヘテロ環ビルディングブロックキャンペーン
  10. ルテニウム触媒によるC-C結合活性化を介した水素移動付加環化型カップリング

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年3月
月 火 水 木 金 土 日
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

2026ノーベル化学賞をOBが解説 –分子にも「右手」と「左手」がある? 10/31(土)14:00~15:30 県民センター(横浜駅3分) 【硤合教授ノーベル賞受賞記念】一般の方・中学生・高校生も対象に解説イベントを開催します(10/31)

bergです。2026年のノーベル化学賞が「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」…

【味の素ファインテクノ】新卒採用情報(2028卒)

当社は入社時研修を経て、先輩指導のもと、実践(※)の場でご活躍いただきます。…

MEDCHEM NEWS 35-3 号「2024年度 MCS 優秀賞」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、オープンアクセ…

【速報】2026年のノーベル化学賞は「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」へ

2026年のノーベル化学賞は、アンリ・カガン (Henri B. Kagan、フランス・パリ=サクレ…

柳沢 正史 Masashi Yanagisawa

柳沢 正史(やなぎさわ まさし、Masashi Yanagisawa、1960年5月…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年8月版】

2026年8月にケムステでは22本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP