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スポットライトリサーチ

酵素の動作原理を手本として細孔形状が自在に変形する多孔質結晶の開発

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第572回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科 塩谷研究室に在籍されていた林 龍之介(はやし りゅうのすけ)博士にお願いしました。

塩谷研では、生命システムの仕組みを視野に入れつつ、分子の自発的な集合によって構築されるナノからサブミクロンサイズの新しい超分子構造体およびそれらが生み出す超空間の創製と機能化を目指しています。このプレスリリースの研究は多孔質結晶についてで、本研究グループでは、酵素の構造や活性を制御するアロステリック効果の動作原理を手本として、局所認識部位へのエフェクター分子の結合に応答して細孔形状が自在に変形する多孔質結晶、Metal-macrocycle framework(MMF)を開発しました。

多孔質結晶材料MMFにおける細孔の形状と機能のアロステリック制御(出典:東京大学プレスリリース)

この研究成果は、「Nature Communications」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Effector-dependent structural transformation of a crystalline framework with allosteric effects on molecular recognition ability

Ryunosuke Hayashi, *Shohei Tashiro, Masahiro Asakura, Shinya Mitsui, *Mitsuhiko Shionoya

Nat Commun 14, 4490 (2023)

DOI:doi.org/10.1038/s41467-023-40091-6

本研究を現場で指揮された田代省平 准教授より林博士についてコメントを頂戴いたしました!

林 龍之介さんは、いつもよく考えながら着実かつ効果的に実験・研究を進める姿が印象的で、特に今回の論文では教員の期待を上回る成果を出してくれました。このテーマは、以前に別の卒業生(三井さん)が偶然見つけてくれた成果を種として、また別の卒業生(朝倉さん)と林さんがそれを大切に育んでくれたものです。特に林さんは、膨大な量の単結晶X線構造測定を行い、数多くのタフな結晶構造を地道に解析して本研究の堅牢な土台を築きました。それだけでも驚きですが、その膨大なデータを合理的かつ統計的に解析する手法を確立して、今回の成果に繋げてくれました。我々教員も、林さんと卒業生の努力の賜物を論文として発表することができてとても嬉しく思っています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本論文では、小分子に応答して酵素のように孔の形が変わるユニークな多孔性結晶について報告しました。生体内で働くアロステリック酵素は、活性サイトから離れた位置にあるアロステリックサイトにエフェクターと呼ばれる小分子が結合することで酵素構造が変形し、活性サイトでの基質結合能を制御します。我々のグループでは、環状金属錯体が水素結合等によって集まってできた多孔性結晶Metal-macrocycle framework (MMF)の開発とその機能開拓を進めてきましたが、今回、MMFの一次元細孔の下隅にある局所認識ポケットがアロステリックサイトとして機能し、ここに捕捉される小分子(エフェクター)を交換することで、細孔が可逆的かつ自在に膨張・収縮することを発見しました。さまざまな小分子を網羅的に検討した結果、40種類以上のエフェクターを統計学的手法に基づいて体系的に分類できたとともに、二種類の酵素的な動作機構に基づいて構造変形が誘起されることが分かりました。また、アロステリック部位は細孔の一部にすぎないので、エフェクターの局所認識によって細孔形状を変形させることで、残されたナノ空間内でのゲスト分子の配列が制御できることを明らかにしました。これらの結果から、酵素が示すユニークな構造柔軟性の一端を多孔性結晶に組み込むことができたと考えています。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

結晶構造変換現象を、酵素の動作原理に紐づけて意義付けた点です。本研究に着手したきっかけは、以前のテーマに従事していた際の条件検討中に単結晶X線回折測定を行ったところ、普段と異なる集積パターンを持つ結晶構造が偶然得られたところにあります。その後、結晶構造変換が小分子の局所認識を契機としていること、また小分子の結合様式によって多様に制御されることも実験により分かってきましたが、この特異な現象が学術的にどんな意味を持つのか不明瞭なままとなっていました。このような宙ぶらりんな状況下、田代先生と議論を重ねる中で生体のアロステリック効果に着目するというアイデアをいただきました。この新たな観点から、酵素の動作原理について自分なりに調査を進めることで、MMFの構造変換が二種の機構が複合的に作用する酵素の構造制御を高度に模している点に意味を持たせることが出ました。単なる現象論とするのでなく、私たち独自の学術的意義を与えたことで、この度の論文採択に繋がったと感じています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

得られた40種類以上の多孔性結晶構造をいかに解釈し比較するかという点です。今回のように水素結合等の非共有結合を介して組み上げられた多孔性結晶構造を多様に制御したという先例は少なく、それらの構造の差異を定量評価し比較する手段は知る限りありませんでした。構造の対称性が低く、非対称単位に含まれる原子数も多いMMF構造を比較可能な形に落とし込む試みは当初難航しましたが、ここでも生化学の論文を参考に、タンパク質の構造解析法をアレンジした私たちなりの構造評価を行いました。結果として、複雑な結晶構造データを二次元空間に縮約し、40以上の結晶構造を体系化できたことで、変換機構の議論にも繋がりました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本年度の春からは、化学メーカーで研究職として働き始めており、大学在学時からはガラッと変わる研究テーマに新鮮な気持ちで業務に取り組んでいます。今後も日々勉強の精神で一つの専門性に囚われることなく、多種多様な経験を積んでいきたいと思っています。これまでに学んだ化学の知識や考え方をベースとしながらも、幅広い分野にまたがる俯瞰的視点を持つようにし、本研究のように自分なりの形で化学に貢献できればと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで記事に目を通していただき、誠にありがとうございます。今回本テーマが、スポットライトリサーチに取り上げていただくことになり、大変光栄に思っております。本記事が将来的に、生体システムに迫り凌駕するような、より魅力的な人工材料の開発に少しでも役立つことがあれば嬉しい限りです。

最後になりましたが、本テーマを遂行するにあたり多大なお力添えを賜りました塩谷光彦教授、田代省平准教授、並びに塩谷研究室メンバーの皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます。また、貴重な研究紹介の場を提供してくださったChem-Stationスタッフの皆様にも厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

研究者の略歴

名前:林 龍之介(はやし りゅうのすけ)

所属:東京大学大学院理学系研究科化学専攻 塩谷研究室 令和4年度博士卒

研究テーマ:多孔性結晶の構造変換と分子配列能のアロステリック制御

略歴:

2018年3月 東京大学理学部化学科卒

2020年3月 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了

2023年3月 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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