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陰イオン認識化学センサーの静水圧制御に成功~高選択的な分子検出法を確立~

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東京工業大学 理学院 化学系の木下 智和 大学院生、福原 学 准教授、立命館大学の前田 大光 教授らの研究グループは、化学センサーの積極的な制御を目指し、陰イオン認識化学センサー(フォルダマー)の構造変化や発光特性、イオン認識能の動的制御が可能であることを見いだした。これまでのイオン認識化学センサーの一般的な制御法は、温度、溶媒和、光励起などを用いるものが一般的だったが、今回、静水圧による包括的な制御に成功した。静水圧を用いた分子認識の動的制御は、有用なセンサーとして機能するため、次世代スイッチングメモリーやドラッグデリバリーシステムなど、幅広い応用が期待される。(引用:JSTプレスリリース4月15日)

分子によっては、光や温度といった外部刺激や環境で構造が変化するものがあり、アゾベンゼンは紫外線の照射でシス・トランス異性することが広く知られています。今回は、溶液の圧力を変化させると構造が変化してイオン認識能が変わることを発見した論文について紹介します。

近年、ドラッグデリバリーやアポトーシスセンシング、分子スイッチなどに応用することを目的に、外部刺激で分子の構造をコントロールすることは超分子化学の一環で盛んに研究が行われています。一方、圧力を使って分子の構造を可逆的に変化させる試みは1960年代から行われている古いトピックですが、基底状態における熱力学的平衡だけでなく、励起状態における光反応、光化学反応をもコントロールすることができるため再び脚光を浴びています。本研究ではフォルダマーと呼ばれる、折りたたむ構造を持つオリゴマーに着目しました。フォルダマーは、その特異的な構造からレセプターとして中性やイオン性の分子を取り込むことができ、先行研究ではピペラジンやテルペンとの相互作用が6500MPaといった高圧下で確認されています。しかしながら溶液中での分子認識については研究例がなく、本研究にてその振る舞いの解明を行いました。

実験方法は溶媒に下記の構造のフォルダマーやキラルイオン対を加え、その溶液を特注のセルの中で加圧し、UV/Vis吸収、CD、蛍光スペクトルと蛍光寿命を測定しました。

(a)フォルダマーの構造 (b)キラルイオンの構造 (c)フォルダマーがアニオンを認識した時の構造(引用:原著論文

まず、溶媒の効果を確認するために、溶媒とフォルダマーの溶液に対して圧力を変化させUV/Vis吸収と蛍光スペクトルを測定しました。すべての溶媒において0-0遷移に帰属される吸収極大が長波長側にシフトしましたが、これは加圧により溶媒の密度が変化しπ共役の軌道がずれたことで変化したと考察されています。一方、アセトニトリル溶媒では、圧力が低いと507nm付近の0-0遷移に帰属される吸収が低く、加圧状態にて吸収の極大が表れる挙動が観測されました。先行研究の結果や、他の溶媒よりも短波長側にシフトしている事実などから、アセトニトリル溶媒の低圧条件ではフォルダマーが折り畳んだ構造をとっていると主張しています。そしてこの特異性は、極性が高いアセトニトリルで疎媒性効果により鎖の会合を引き起こしていると推測されています。

左が吸収スペクトルで右が404nmの励起光での蛍光スペクトル(a)トルエン(b)クロロホルム(c)ジクロロメタン(d)アセトニトリル(引用:原著論文

分子の構造の違いに着目すると、広い表面積を持つ溶媒和された伸びた分子は折り畳んだ分子より簡単に解放されるため、圧力によって構造が変化することができるとメカニズムが考察されています。

基底状態と励起状態における構造の違い(引用:原著論文

次に蛍光スペクトルですが、すべての溶媒において長波長シフトが観測されました。これによりフォルダマーは光照射によりFranck-Condon 状態へと遷移した後、溶媒の再配向によって緩和状態に変化し発光していると考えられます。一方、蛍光寿命を測定すると、アセトニトリルのみ0.6–0.7 ns と 6.5–8.1 nsの2種類の蛍光寿命が観測されました。よってそれぞれの伸びた構造と畳んだ構造それぞれでFranck-Condon 状態、緩和状態があり、その光学特性は圧力でコントロールできることを示しています。

405nmの励起光を使った蛍光減衰時間の測定(a)トルエン(b)クロロホルム(c)ジクロロメタン(d)アセトニトリル(引用:原著論文

次に、キラルイオン対を加えて吸収スペクトルを測定しました。イオンの濃度が高くなるほど、0-0遷移に帰属される519 nmの吸収が低下していることからフォルダマーが畳んでイオンと相互作用を示していることが確認できます。

(a)クロロホルム中でのキラルイオンSS·Brの濃度別の吸収スペクトル(b)519nmの吸光度を濃度別にプロットしフィッティングした結果(引用:原著論文

さらにイオンごとに圧力を変えて同様の実験を行いました。この結果より相互作用による体積変化が算出され、キラルなビナフチルアンモニウムカチオンでは体積の増加が確認された一方、アキラルなTBAカチオンでは体積の減少が確認されました。

溶液の圧力別結合定数(a) RR·Cl, (b) SS·Br, (c) TBA·Cl (d) TBA·Br(引用:原著論文

これは、ファンデルワールス体積や双極子モーメントの違いにより、溶媒和の挙動も異なるためだとコメントされています。

溶媒和の影響を示した様子(引用:原著論文

キラル性を評価するために、CDスペクトルや異方性スペクトルを測定しました。異方性スペクトルでは圧力の上昇に伴いGファクターの減少が認められ、イオン対の距離が圧力によって変わることが示唆されました。

上部:吸収スペクトル 中部:CDスペクトル 下部:異方性スペクトル  (a) SS·Cl (120 μM) and (b) SS·Br (130 μM)

このように、フォルダマーの挙動が溶媒や圧力によって変化し、それが光学特性やイオン対捕捉に対して影響することが確認されました。この発見の将来的な応用としては、圧力変化をトリガーとしたイオン認識やスイッチングメモリーなどが考えられるそうです。

圧力によってフォルダマーとイオン対の相互作用の強さが変わる

圧力に応答してイオン認識能が変わるということで、論文の結論にもある通り生体向けの応用に役に立つ研究だと思いました。温度や光に応答する場合、人体が耐えられる範囲はとても狭く、その狭い変化範囲でうまく応答させるのは難しいと予想されます。一方、圧力の場合、人体は血圧がありその圧力も部位によって異なります。血管以外にも流体から圧力を受けている部位があり、薬を局所的に作用させるのに有用な技術だと思います。人体以外の応用として、圧力の可視化が挙げられ、流体の圧力を計器なしで管の外から知ることは難しいですが、この技術を使って圧力の違いが流体の色に反映されれば、ケミカルエンジニアリングの観点から何かに応用できる可能性があります。超分子にはまだ未開拓の応用があることを認識させられた論文でした。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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