[スポンサーリンク]

一般的な話題

有機化合物のスペクトルデータベース SpectraBase

[スポンサーリンク]

有機化合物を取り扱っている研究者の皆様。構造決定の際にはNMRを代表とするスペクトルを測定すると思います。それでは既知の化合物のスペクトルを確認したいときはどうしますか?様々な方法があると思います。例えば以下の方法。

  1. SciFinderで構造検索をして、実際のスペクトルにアクセスする
  2. 「◯◯, 1H NMR」「◯◯, IR」などでググる
  3. 有名なスペクトルデータベース「SDBS」で調べる
  4. 1H NMRや13 NMR の場合ChemDrawの予測スペクトルで我慢する
  5. 化合物をもっているのならば自分で測定する
  6. そんなもの調べない。僕の頭の中にはすべてのスペクトルが入っている

構造決定が得意な研究者・学生ならば6で問題ないと思いますが、まあ一応見ておきたいものですよね。そんなときに重宝するのが無料のオンラインのスペクトルデータベース。知っている限り3にある「SDBS」がもっとも主流でした。最近、バイオ・ラッド(現在はワイリー社)から新たな第二のスペクトルデータベースが公開されました。その名も

SpectraBase

です。今回はこのデータベースについて紹介してみようと思います。

そもそもバイオラッド社って何者?

正直言って知りませんでしたが、バイオ・ラッド社は1952年に設立されたアメリカの会社で、ライフサイエンスや診断薬分野でなどではかなり有名な会社のようです。

PCR増幅器やバイオマーカー、タンパク質精製関連など、多くのアプリケーションをもっています。

そんなライフサイエンス関連会社がスペクトルデータベース?と思いますが、かなり昔から続けているサービスで、今回満を持して一部をオンライン公開したようです。

追記 2021年11月26日 2020年4月にWiley社がバイオ・ラッド社のKnowItAllソフトウェアとデータベースを買収、このSpectraBaseもWiley社が運営することとなっています。

無料の豊富なスペクトルデータベース「SpectraBase」

SpectraBaseでの全スペクトル数は約70万!IRやRamanが中心なようですが、NMR、MS、UVスペクトルも多数保有しています。これだけのスペクトルデータベースを無料で使えるのはすごいですね。外観はいたってシンプル。検索は化合物名やCAS番号で調べることが可能です。

スペクトルデータベース「SpectraBase」

では試しにステロイドホルモンのProgesteroneを調べてみましょう。検索バーで検索すると10個の候補がでてきました。デオキシ体などの類縁体ですね。Progesteroneをクリックすると以下のようなページがでてきました。表示されている構造式はmol形式でダウンロードも可能です。肝心のスペクトルデータベースはProgesteroneの場合、13C NMRスペクトルが13種類(各種重溶媒)、1HNMRが2種類に加えて、IR, ラマン、MSスペクトル、UV-Visスペクトルとすべて揃っています。

検索例:Progesteroneの場合

 

ただし、表示されているスペクトルはなんだか中途半端。完全なスペクトルをみるためには登録が必要なようです。ただし、登録は無料。Googleのアカウントなどでもすぐに登録できるので手間はかかりません。登録してスペクトル部分をクリックすると、別ページに飛び、continueをクリックすると10秒後にスペクトルが表示されます(ここがすこし面倒)。

実際表示されたスペクトル

 

もちろん拡大・縮小もできますし、面白いのが、自身のもっているNMRデータと重ね合わせができること。スペクトル上部のボタンOverlay Spectrumをクリックして、実際に測定したNMRデータ(ほとんどのNMRデータの拡張子に対応しているようです)を読み込めば、画面上でデータの重ね合わせができます。

というわけで大変高性能なスペクトルデータベースですが、1つ欠点が。

いくつか試してみたところ、一部の特にNMRデータが1本線でしか表示されていないところや、数が足りないところがありました。どういうことか問い合わせてみたところ、デジタル化前のスペクトルデータはデジタルデータが存在しなかったために、ケミカルシフト値のみのものもあるそうです。ケミカルシフトとして採用できるピークの明瞭なもののみを収録してデータベース化したとのことでした。なかなか完璧なものはないですね。まあしかし、無料で使えるスペクトルデータベースとしては知っておいて損はないと思います。構造解析の教育用にもよいかもしれません。

ぜひ皆さん試してみてはいかがでしょうか?

スペクトルデータベースKnowItAll

どうやらこのデータベースはKnowItAllというバイオ・ラッド社(現在はワイリー社)の販売しているスペクトルデータベースから一部無料公開しているようです。製品版は

  • トータル230万件以上のスペクトルデータベース
  • 264,000件以上の IR & ATR スペクトル集
  • 24,000件以上の Ramanスペクトル集
  • 921,000件以上のNMRスペクトル集
  • 1,100,000件以上のMSスペクトル集
  • 30,000以上のUVスペクトル集

とのこと。実際に測定したスペクトルを読み込んで、スペクトルからの類似検索ができるそうで、混合物の成分分析などに重宝されているそうです。KnowItAllでのスペクトル検索、混合物検索、実装されている自動スペクトル補正機能については、以下のムービーを御覧ください。また、教育機関のためには「構造式作図とスペクトル(NMR,IR,Raman)閲覧機能」が利用できるフリーソフトウェアが公開されています。 フリーソフトのダウンロード先はこちら

*:残念ながら、フリーソフトウェアは2021年11月に提供終了となりました。

・KnowItAll概要

お問い合わせ先

ワイリー・パブリッシング・ジャパン株式会社
ワイリー サイエンス ソリューション製品担当
〒160-0023 東京都新宿区西新宿8-4-2 野村不動産西新宿ビル8階
sciencesolutions.jp@wiley.com

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. その化合物、信じて大丈夫ですか? 〜創薬におけるワルいヤツら〜
  2. 核酸塩基は4つだけではない
  3. 化学者のためのエレクトロニクス講座~5Gで活躍する化学メーカー編…
  4. 日常臨床検査で測定する 血清酵素の欠損症ーChemical Ti…
  5. Keith Fagnou Organic Chemistry S…
  6. 二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ…
  7. 多角的英語勉強法~オンライン英会話だけで満足していませんか~
  8. その置換基、パラジウムと交換しませんか?

注目情報

ピックアップ記事

  1. ホウ素から糖に手渡される宅配便
  2. 位置多様性・脱水素型クロスカップリング
  3. エッフェル塔
  4. 逆電子要請型DAでレポーター分子を導入する
  5. 亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収
  6. 試験概要:乙種危険物取扱者
  7. 化合物太陽電池の開発・作製プロセスと 市場展開の可能性【終了】
  8. 2002年ノーベル化学賞『生体高分子の画期的分析手法の開発』
  9. カルボン酸に気をつけろ! グルクロン酸抱合の驚異
  10. 量子力学が予言した化学反応理論を実験で証明する

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP