[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第120回―「医薬につながる複雑な天然物を全合成する」Richmond Sarpong教授

[スポンサーリンク]

第120回の海外化学者インタビューは、リッチモンド・サーポン教授です。カリフォルニア大学バークレー校化学科に所属し、複雑天然物の全合成のための戦略および方法論の開発に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

ちょっと陳腐な話になりますが・・・私は西アフリカのガーナで育ち、医師である父が世界保健機関(WHO)と密接に連携して働いていました。その頃、西アフリカでは「河川盲目症」という病気が本当にひどかったのです。メルクという会社がイベルメクチンを持ってやってきて、基本的には無料でこの問題に対処してくれました。私も多くの人と同じように、とても感銘を受けました。父が持っていたメルクインデックスを開いてみると、化学物質が皆のためになるという、もちろん医学的なあらゆる利点に私の目は開かされました・・・。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

プロのテニスプレイヤーになりたいと思っていました。精神的にも肉体的にもコントロールしつつ勝負しなければならないというのが好みです。残念なことに、自分の精神的・肉体的才能に限界があり、その機会はありませんでした。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

私のグループは、複雑分子を作るのがとても上手になってきました。分子を合成する能力は非常に多くをもたらします。特に、生物学における化学的疑問に答えるために、合成可能な物を活用できる立場に私たちはあるのです。現在、私たちは、がんや喘息などの特定の問題に対処すべく、重要な機能性分子を作ろうとしています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

一緒に食事をしたい人はたくさんいます。プロとしてわがままを言うなら、複雑な分子合成にとりくむための戦略設計に長けていたR.B.ウッドワードです。今まさにこの分野で、論争の中心となっているいくつかの問題について、彼の意見をお聞きしたいです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

約1年前、Wittig反応という化学反応を行いました。ワークアップに必要な時間を勘定に入れず、非常に優秀な大学院新入生にそれを渡しました。彼女はこの中途半端な反応を一連の論文にしてしまいました・・・。研究室で仕事をするよりも、他のみんなが抱える問題を批判的に考え、仕事を続けるために必要な資金を得ることで、むしろ研究室の役に立っていると気づきました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

どれくらいの期間取り残されるかにもよりますが・・・もっとたくさんの本を常時ダウンロードできるよう、Kindleを持っていくことはできるでしょうか?まぁ、もし一冊に制限されるのなら、またしてもプロとしてのわがままな興味から、AnslynとDoughertyの『Advanced Physical Organic Chemistry』にするでしょうね・・・。

[amazonjs asin=”1891389319″ locale=”JP” title=”Modern Physical Organic Chemistry”]

音楽に関しては、マイケル・ジャクソンの『History』コレクションになるでしょう。彼は音楽の天才です!どんな気分にも合う曲を持っています。もし二枚組のCDがダメなら、Pat Methenyの『Still Life Talking』、TotoMichael FranksRick Astley(彼は完全に過小評価されています・・・)から数曲ずつ、1枚のCDに「焼く」でしょうね。

[amazonjs asin=”B0000029LG” locale=”JP” title=”History”][amazonjs asin=”B000CZ0Q5W” locale=”JP” title=”Still Life (Talking)”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

カリフォルニア工科大学のブライアン・ストルツ教授です。ポスドク時代のアドバイザーで、いつも楽しい色んな話をしてくれました。彼の話は、このブログを見ている人たちにとって、かなり刺激的なものだと思います。

原文:Reactions –  Richmond Sarpong

※このインタビューは2009年6月19日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第39回「発光ナノ粒子を用いる生物イメージング」Frank va…
  2. 第36回「光で羽ばたく分子を活かした新技術の創出」齊藤尚平 准教…
  3. 第17回 音楽好き化学学生が選んだ道… Joshua…
  4. インタビューリンクー住化廣瀬社長、旭化成藤原社長
  5. 第64回―「ホウ素を含むポルフィリン・コロール錯体の研究」Pen…
  6. 第143回―「単分子エレクトロニクスと化学センサーの研究」Non…
  7. 第161回―「C-H官能基化と脱芳香族化を鍵反応とする天然物合成…
  8. 第五回 超分子デバイスの開発 – J. Fraser…

注目情報

ピックアップ記事

  1. キャリアデザイン研究講演会~化学研究と企業と君との出会いをさがそう!~
  2. クレブス回路代謝物と水素でエネルギー炭素資源を創出
  3. 化学者の卵に就職活動到来
  4. 第42回―「ナノスケールの自己集積化学」David K. Smith教授
  5. アーント・アイシュタート合成 Arndt-Eistert Synthesis
  6. エーザイ、抗てんかん剤「イノベロン」、ドイツなどで発売を開始
  7. 細見・櫻井アリル化反応 Hosomi-Sakurai Allylation
  8. 亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収
  9. カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)ヒドリド:Carbonyltris(triphenylphosphine)rhodium(I) Hydride
  10. ミッドランド還元 Midland Reduction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年9月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP