[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アロタケタールの全合成

[スポンサーリンク]

環状アデノシンモノリン酸cAMPのシグナル伝達を活性化する生理作用を持ち、複雑な三環スピロケタール構造を持ったアロタケタールの全合成が報告[1]されました。海綿のなかまから単離されたこの化合物、First Synthesisの合成戦略やいかに!?

 

アロタケタール(alotaketal)は、パプアニューギニアに生息する海綿のなかまから単離[2]されました。このアロタケタールには、環状アデノシンモノリン酸(cyclic adenosine monophosphate; cAMP)のシグナル伝達を正に制御する生理活性があります。哺乳類培養細胞にcAMPに応答するレポータ―遺伝子を組み込み、これを指標にして、アロタケタールは単離されています。微量でよく効く上に、特有の三環スピロケタール炭素骨格を持ち、アロタケタールは合成標的としても魅力的な構造をしています。

 

インドネシアと国境を接するパプアニューギニア

 

環状アデノシンモノリン酸cAMPは、細胞内で機能するセカンドメッセンジャーのひとつです。セカンドメッセンジャーとは、細胞膜のような場所にある受容体タンパク質に情報伝達物質が結合した際に、新たに細胞内で生合成されて濃度変化で信号を伝え、細胞のふるまいを調節する役割を持った物質のことを言います。

環状アデノシンモノリン酸cAMPの構造式

 

今回[1]、報告された全合成では、立体選択的な合成戦略で、アロタケタールAに加えてアロタケタールB、近縁の海綿から単離されたホルバケタールA・ホルバケタールB・ホルバケタールCの合成に成功するなど、収束性の高い合成経路になっています。

終盤のハイライトはこちら。ヨウ化サマリウムSmI2の仲介の下、多環構造を持った部位と、もう一方の部位について、炭素骨格をつなげあわせています。保護基を外したのち、トシル酸(p-toluenesulfonic acid; pTSA)の酸性下で、スピロケタール環を巻いていきます。

遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、と、一番乗りのFirst Synthesisを誇りたいならば、生理活性試験はしっかりやっておきたいところ。蛍光タンパク質を組み合わせて蛍光共鳴移動を基盤とした高感度な実験系で、cAMP依存タンパク質キナーゼ活性の増加と、細胞内cAMP濃度の増加を検出しています。

 

論文[1]より

アロタケタールの合成法が確立されたことで、アロタケタールがどの生体分子を標的にしてcAMP濃度上昇を起こしているのか、分子機構の解明にも、大きな躍進となりそうです。

 

参考論文

[1] アロタケタールの全合成

“Total Synthesis of the Potent cAMP Signaling Agonist (−)-Alotaketal A” Jinhua Huang et al. J. Am. Chem. Soc. 2012 DOI: 10.1021/ja303529z

[2] アロタケタールの単離

“Alotaketals A and B, Sesterterpenoids from the Marine Sponge Hamigera Species that Activate the cAMP Cell Signaling Pathway” Roberto Forestieri et al. Org. Lett. 2009 DOI: 10.1021/ol902066e

関連書籍

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 第99回日本化学会年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part…
  2. 官能基「プロパルギル基」導入の道
  3. 材料開発の変革をリードするスタートアップのプロダクト開発ポジショ…
  4. 自己治癒するセラミックス・金属ーその特性と応用|オンライン|
  5. 電子学術情報の利活用
  6. 製薬系企業研究者との懇談会
  7. 「Python in Excel」が機能リリースされたときのメリ…
  8. システインの位置選択的修飾を実現する「π-クランプ法」

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第64回「実際の化学実験現場で役に立つAIを目指して」―小島諒介 講師
  2. 不斉Corey-Chaykovskyエポキシド合成を鍵としたキニーネ・キニジンの選択的合成
  3. マーティンスルフラン Martin’s Sulfurane
  4. お茶の水女子大学と奈良女子大学がタッグを組む!
  5. リーベン ハロホルム反応 Lieben Haloform Reaction
  6. カール・ダイセロス Karl Deisseroth
  7. デヴィッド・リー David A. Leigh
  8. 分子光化学の原理
  9. 第59回―「機能性有機ナノチューブの製造」清水敏美 教授
  10. π電子系イオンペアの精密合成と集合体の機能開拓

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

紅麹問題に進展。混入物質を「プベルル酸」と特定か!?

紅麹問題に進展がありました。各新聞社が下記のように報道しています。小林製薬(大阪市)がつ…

【十全化学】新卒採用情報

当社は行動指針の一つとして、「会社と仕事を通じて自己成長を遂げ、仕事を愉しもう!…

【十全化学】核酸医薬のGMP製造への挑戦

「核酸医薬」と聞いて、真っ先に思い起こすのは、COVID-19に対するmRNAワ…

十全化学株式会社ってどんな会社?

私たち十全化学は、医薬品の有効成分である原薬及び重要中間体の製造受託を担っている…

化学者と不妊治療

これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参…

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒で…

紅麹を含むサプリメントで重篤な健康被害、原因物質の特定急ぐ

健康食品 (機能性表示食品) に関する重大ニュースが報じられました。血中コレステ…

ユシロ化学工業ってどんな会社?

1944年の創業から培った技術力と信頼で、こっそりセカイを変える化学屋さん。ユシロ化学の事業内容…

日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

日本化学会の年会も終わりましたね。付設展示会キャンペーンもケムステイブニングミキ…

ペプチドのN末端でのピンポイント二重修飾反応を開発!

第 605回のスポットライトリサーチは、中央大学大学院 理工学研究科 応用化学専…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP