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櫛田 創 Soh Kushida

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櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、光物質相互作用、超高速分光、顕微分光、有機エレクトロニクス、ソフトマテリアルなど。第56回ケムステVシンポ 講師。

経歴

2014 筑波大学 理工学群 応用理工学類 卒業
2016筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 前期博士課程修了
2016 ドイツ学術交流会奨学生
2020 ハイデルベルグ大学 博士課程修了 (Uwe Bunz教授)
2020 日本学術振興会 特別研究員SPD (筑波大学)
2020 ストラスブール大学 外部雇用研究員
2023 筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教

受賞歴

2020 第81回応用物理学会秋季学術講演会講演奨励賞
2016 CEMSupra2016 Rising Star Award

研究業績

1. 共振器フォトニクス

図1. 共振器フォトニクスに関する研究の例

有機分子の自己集合化を利用して、光を媒質中に閉じ込める光共振器として機能させる研究を行ってきました。私の研究の特徴は、発光効率の高い共役高分子に対して結晶性を意図的に抑制する分子設計を施し、これを自己集合させることで滑らかな球状構造体(マイクロ共振器)を形成させる点にあります(図1a)[1-3]。この球体内部では光が旋回して閉じ込められ、Whispering Gallery Mode(WGM)共振器として動作します。一般的な色素ドープ型とは異なり、半導体そのものを用いることで、高利得かつ高屈折率の光共振器を実現でき、将来的には電荷注入型EL発光や、後述する光物質強結合系への応用も期待されます。さらに、このような共役高分子マイクロ球体を強励起することで、コヒーレントな光増幅によるレーザー発振も確認しています(図1b)[4]
近年では、光物質強結合にも取り組んでいます。光共振器モードと分子の遷移双極子モーメントが強く相互作用すると、励起子と光子の量子的な重ね合わせ状態であるポラリトンが生成されます。しかし、この強結合状態やポラリトンの基礎物理については、未解明の点が多く残されています。成果の一例ですが、私は特に液体状態における励起子ポラリトンの光ダイナミクスを過渡吸収分光により追跡し、光物質強結合系特有のエネルギー緩和ダイナミクスを明らかにしました(図1c)[5]。このほか、WGM共振器における光物質強結合や分子振動との強結合の研究も並行して進めています。[6]

2. 超高速分光

図2. 超高速分光に関する研究の例

フェムト秒レーザーを用いて、有機分子の光エネルギー移動や分子運動ダイナミクスの解析を行っています。成果の一例として、色素分子の共鳴励起波長を利用することで三次の非線形感受率が増大する現象を応用し、光カー効果分光法により溶質分子の回転緩和ダイナミクスを高精度に測定できる手法を開発・報告しました(図2a)[7] 。他にも広く、光カー効果を利用して分子の物理的なブラウン運動や相互作用を研究しています。
また、光エネルギーの効率的利用にも関心を持っています。図2bに示すようなエネルギー捕集型分子を対象に過渡吸収分光法を用いた結果、100フェムト秒以下の高速エネルギー移動およびほぼ100%に近いエネルギー移動効率を明らかにするなど、広義での人工光合成に向けた研究にも取り組んでいます[8]。また、上述の光物質強結合系におけるポラリトンダイナミクスについても、同様の超高速分光手法を用いて研究を進めています。最近では、中赤外パルス光を利用し、中赤外領域でのポンプ–プローブ測定にも取り組んでいます。

3. 超分子エレクトロニクス

図3. 超分子エレクトロニクスに関する研究の例

π共役分子の超分子構造、特にゲルやファイバーを用いた電子デバイス応用に関する研究を行なっています。一例ですが、π分子とイオン液体のみから構成される「πイオンゲル」という超分子ゲル材料を開発しました (図3a,b) [9,10] 。この材料はパイ共役分子が自己組織化したナノファイバーネットワークとそのネットワーク中に侵入したイオン液体のみからなります。このような特異な相分離構造を有することでイオン・電子両伝導性が担保されます。パイイオンゲルをそのまま電極間に形成することによって電気化学発光セル(LEC)や有機電気化学トランジスタ(OECT)などに応用し、電気化学デバイスの中では高速に応答するデバイスを開発してきました (図3c) [11,12]

 

コメント&その他

一緒に研究したい人いればぜひご連絡ください!

関連文献

  1. Kushida, S.; Braam, D.; Pan, C.; Dao, T.; Tabata, K.; Sugiyasu, K.; Takeuchi, M.; Ishii, S.; Nagao, T.; Lorke, A.; Yamamoto, Y. Macromolecules 2015, 48, 3928–3933. DOI: 10.1021/acs.macromol.5b00707
  2. Kushida, S.; Wang, K.; Seidel, M.; Yamamoto, Y.; Genet, C.; Ebbesen, T. W. J. Phys. Chem. Lett. 2025, 16, 8570–8579. DOI: 10.1021/acs.jpclett.5c02008
  3. Kushida, S.; Braam, D.; Dao, T.; Saito, H.; Shibasaki, K.; Ishii, S.; Nagao, T.; Saeki, A.; Kuwabara, J.; Kanbara, T.; Kijima, M.; Lorke, A.; Yamamoto, Y. ACS Nano 2016, 10, 5543–5549. DOI: 10.1021/acsnano.6b02100
  4. Kushida, S.; Okada, D.; Sasaki, F.; Lin, Z.-H.; Huang, J.-S.; Yamamoto, Y. Adv. Opt. Mater. 2017, 5, 1700123. DOI: 10.1002/adom.201700123
  5. Kushida, S.; Wang, K.; Seidel, M.; Yamamoto, Y.; Genet, C.; Ebbesen, T. W. J. Phys. Chem. Lett. 2025, 16, 8570–8579. DOI: 10.1021/acs.jpclett.5c02008
  6. Joseph, K.‡; Kushida, S.‡; Smarsly, E.; Ihiawakrim, D.; Thomas, A.; Paravicini-Bagliani, G. L.; Nagarajan, K.; Vergauwe, R.; Devaux, E.; Ersen, O.; Bunz, U. H. F.; Ebbesen, T. W. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 19665–19670. DOI: 10.1002/anie.202106534
  7. Kushida, S.; Wang, K.; Genet, C.; Ebbesen, T. W. J. Phys. Chem. Lett. 2022, 13, 9309–9315. DOI: 10.1021/acs.jpclett.2c02461
  8. Kumar, V.‡; Kushida, S.‡; Inoue, T.; Iwata, K.; Yamagishi, H.; Tsuji, H.; Yamamoto, Y. Adv. Funct. Mater. 2025, 35, 2502545. DOI: 10.1002/adfm.202502545
  9. Kushida, S.; Smarsly, E.; Veith, L.; Wacker, I.; Schröder, R. R.; Bunz, U. H. F. Macromolecules 2018, 50, 7880–7886. DOI: 10.1021/acs.macromol.7b02087
  10. Kushida, S.; Smarsly, E.; Bojanowski, N. M.; Wacker, I.; Schröder, R. R.; Oki, O.; Yamamoto, Y.; Melzer, C.; Bunz, U. H. F. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 17019–17022. DOI: 10.1002/anie.201808827
  11. Kushida, S.; Smarsly, E.; Wacker, I.; Yamamoto, Y.; Schröder, R. R.; Bunz, U. H. F. Adv. Mater. 2021, 33, 2006061. DOI: 10.1002/adma.202006061
  12. Kushida, S.; Kebrich, S.; Smarsly, E.; Strunk, K.-P.; Melzer, C.; Bunz, U. H. F. ACS Appl. Mater. Interfaces 2020, 12, 38483–38489. DOI: 10.1021/acsami.0c11951

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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