有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年6月号がオンラインで公開されています。
充実した総合論文はもとより、硤合先生、吉田先生の日本学士院賞受賞の祝辞記事に加え、星本先生のMBLA受賞講演ツアーの寄稿もあり、盛りだくさんな内容です
今月号のキーワードは、「カルボラン触媒・水中有機反応・芳香族カルボン酸の位置選択的変換・C(sp2)-H官能基化・カルビン錯体」です。
会員の方は、それぞれの画像をクリックすると、J-STAGEを通じてすべて閲覧できます。
巻頭言:我々は何をどう学ぶのか?
今月号の巻頭言は、京都大学化学研究所 山子 茂 教授による寄稿記事です。
情報革命を含め環境は日々変わっていきますが、研究に際しては自分の中の知識と経験が土台になる、そんな大局的な観点からの巻頭言です。オープンアクセスです。
祝辞: 硤合憲三先生に日本学士院賞
硤合憲三先生(東京理科大学名誉教授)が「不斉自己触媒反応の発見とホモキラリティーの成立起源に関する研究」により、日本学士院賞を受賞されました。講演を伺った際、鏡像体過剰率 (ee) がどんどん上がっていくことに衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。オープンアクセスです。
祝辞: 吉田久美先生に日本学士院賞
吉田久美先生(愛知淑徳大学教授,愛知工 業大学客員教授,名古屋大学名誉教授)が、「アントシアニンによる青色花色発現機構の研究」により、日本学士院賞を受賞されました。アサガオがなぜ多彩な色を示すのか、誰でも一度は疑問に感じたのではないでしょうか?その解明を通して化学の重要性も明快に示してくださっています。オープンアクセスです。
カルボラン触媒を用いたハロゲン化反応の開発
西井祐二*、平野康次*(大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻)
meta–カルボラン基盤のチオエーテル触媒を用いた芳香族ハロゲン化反応の開発を紹介しています。カルボランの特性を巧みに利用し、従来困難だった芳香族化合物に対して高活性、かつ高選択的なハロゲン化を実現しました。本反応開発の契機となったTrip-SMe触媒の背景や詳細な検討、具体的な応用例についても詳述しています。
水中特異的な有機反応の開発
北之園 拓*(東京大学大学院理学系研究科)(2023年度有機合成化学奨励賞受賞)
有機反応を有機溶媒から水へ置き換えることは、環境負荷の低減の観点で興味深い試みです。しかし、本論文は水を使って有機溶媒中と同じ成果を求めるのではなく、水を媒体とする反応場ならではの成果を追い求めた研究がまとめられています。また、水中触媒反応の理解のため、筆者らが考案した新たなモデルを提唱しており、読み応えのある総合論文になっています。
遷移金属触媒を用いる芳香族カルボン酸類の位置選択的誘導体化
佐藤哲也*(大阪公立大学大学院理学研究科化学専攻)
ロジウムやイリジウム触媒を用いる芳香族カルボン酸とアルキンとの脱水素カップリングにより、縮合多環芳香族化合物を合成する手法がまとめて紹介されています。カルボキシ基は、環形成の位置を決める「目印」となったあと、脱炭酸により消失するため、縮合芳香族炭化水素が選択的に得られます。
酸無水物に着目したC(sp2)-H官能基化反応
鈴木弘嗣*(福井大学テニュアトラック推進本部)
酸無水物が一人二役をこなすロジウム触媒C–H官能基化反応が開発されました!C–Hの切断をアシストするとともに、官能基をサーブします。C–Hのアルコキシカルボニル化、アシル化、アルキル化、アリール化など、酸無水物が魅せる多様な分子変換をお見逃しなく!
カルビン錯体の高周期14族元素類縁体の創出と反応化学
橋本久子*(東北大学大学院理学研究科)
カルビン錯体の高周期類縁体として、ケイ素やゲルマニウムと金属の三重結合を有する錯体は、構造、反応性の観点から極めて興味深い化学種です。筆者らは、従来法に比べて簡便な独自の合成法を開発し、得られた錯体の構造と反応性に関する系統的な比較を行いつつ、将来、触媒反応への応用が期待できる興味深い分子変換を報告しています。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスです。
・カルベノイドを活用した求核的モノフルオロメチル化反応 (東京理科大学理学部) 川越文裕
ラウンジ:研究者はどこかクレイジーでなければいけない~Lectureship Award MBLA 2024受賞講演ツアーを終えて~
Merck-Banyu Lectureship Award (MBLA) 2023受賞者である大阪大学大学院工学研究科 星本陽一 准教授(テクノアリーナ教授 兼任)による講演ツアーの寄稿記事です。星本先生の熱量とクレイジーさが感じられ、引き込まれるように読んでしまいました。ただ例年より訪問先が多いような、、、今後MBLA受賞を目指す皆さんは552ページを必ず読んでください!
なお有機合成化学協会のご厚意により、PDFが公開されているようです。詳しくは星本先生の研究室HP「Publication」をご覧ください!
感動の瞬間:狙った研究,狙っていなかった研究
今月号の感動の瞬間は、東京理科大学理学部 斎藤慎一 教授による寄稿記事です。研究は何かを狙って始めるものですが、「狙っていない」結果の中にも思わぬ面白さがあると伝えてくださる「感動の瞬間」です、オープンアクセスです。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズをご参照ください。