[スポンサーリンク]

ケムステニュース

中国化学品安全協会が化学実験室安全規範(案)を公布

[スポンサーリンク]

2019年10月12日、中国化学品安全協会(CCSA)は「化学実験室安全管理規範(意見募集案)T/CCSAS 005-2019」(以下、規範と略称)を公布しました。この規範はCCSAによって制定した団体標準であり、2019年11月12日まで意見を募集しています。  (引用:Chemlinked 10月22日)

中国化学品安全協会(CCSA)は危険化学品登記の政府主管部門である国家安全生産監督管理総局(SAWS)傘下の業界団体であり、化学品にかかわる規制や基準を作成し、化学物質の安定的かつ安全な生産の促進を推進しているようです。1993年、中国化工安全衛生技術協会として発足し、2006年に中国化学品安全協会と名称を変更しました。会員となっている企業は、300以上にのぼりSinopecやPetroChinaといった大手企業も参加しているようです。Webサイトは、中国語のみなので詳細は分かりませんが、規制のデータベースや安全教育に関するセミナーの案内、事故の事例の共有、化学関連のニュースなどコンテンツは多岐にわたり日本化学工業協会のサイトより実用的な内容が充実しているような印象を受けました。

今回CCSAが公布したのは、化学および化学研究所の安全管理規則で、これにより実験室の安全管理レベルを改善させ、事故を予防することを目的に下記の目次のような内容について基準が設定されています。一通り翻訳して読んでみましたが、実験室の設備、作業者の服装、安全葬儀、危険物の保管方法、高圧ガスシリンダーの取り扱い、有害物質の廃棄方法などについて具体的な数字をあげて示してあります。

1:範囲
2:規範的な参照
3:用語と定義
4:実験室安全管理慣行
4.1: 管理システム
4.2:組織と責任
4.3: 人事管理
4.4: 化学物質管理
4.5: 機器/ 機器管理
4.6: 施設管理
4.7: 環境管理
4.8: セキュリティリスク識別評価
4.9: セキュリティリスク管理
4.10: 緊急管理
付録A (参考情報)一般的に使用される危険な化学薬品の保管非適合材料の構成表
付録B (参考)廃棄する必要がある廃液の最小濃縮、収集、および処理

特に気になったのは、

  • 20m2以上の部屋には2個以上の消火器を設置
  • 危険物を取り扱う部屋では15L/min・m2以上の水圧で90分間以上給水されるスプリンクラーを設置
  • 75m2以上の部屋には2つ以上の出入り口を、200m2以上の部屋には2つ以上の非常口を設置
  • 70デシベル以上の発生させる危機については騒音低減策を実施
  • ドラフト内にソケット、プラグ、および端子ブロックを設置または配置することは非推奨
  • 実験室には熱傷クリーム、絆創膏、ヨウ素、綿棒、包帯、止血帯などの医療用品を設置
  • 実験室の固定オフィスエリアは、実験操作エリアから隔離されなければならない
  • 作業を行う者は必要に応じて保護服、ズボン、手袋、ゴーグル、マスク、およびその他の必要な保護具を着用するものとする。長い髪はプラッターまたはキャップを着用する必要があり。ハイヒール、サンダル、スリッパ、ショートパンツ、ショートスカートなどを着用してはならない。

という指針内容で、非常設備の充実と作業者の安全確保を強く訴えている基準書であることがわかります。日本には業界による基準書はなく各大学が実験室の指針を公開しているに過ぎませんが、それと比較しても同等、あるいはこの規則のほうが厳しいように感じました。また化学品のラベルなど、より詳細な基準については、国家基準GBを参照するように記載されていて、化学品を取り扱う現場でもトレーニング資料として使える内容だと思いました。

このような規則を策定する背景ですが、中国の化学業界サイドから安全な化学実験環境をどの職場でも整えるためだと考えられます。化学系学科の大学を卒業した人の場合、学生実験を行う際に基本的なルールを学び、大学の研究室で実験を行う時にさらに深く学ぶため、社会人になった時にはある程度の安全に関する知識は持ち合わせています。しかしながら異なる専門を学んだ人が化学実験やラボの管理、研究所の設計に従事することも当然あり、常識レベルのルールが書かれた基準書が重宝されることは多々あります。そのようなときにこの安全管理規則は役に立つのではないかと思います。また、新しいラボを設計する際にも、安全性と予算、利便性で折り合いをつける必要が出てきます。その時に上記に挙げたような基準を最低ラインとして設定することが可能であり、安全を確保したラボを構築できるのではと思います。

この規則はまだ案ですが、今後の改定作業でより良い規則となり、中国の化学業界がこれを遵守することでより良い労働環境になってほしいと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4621301845″ locale=”JP” title=”中国古代化学 新しい技術やものの発明がいかに時代をつくったのか”] [amazonjs asin=”4474059204″ locale=”JP” title=”製造・輸出国別でわかる!化学物質規制ガイド”]

ラボの安全に関連したケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 小学2年生が危険物取扱者甲種に合格!
  2. 5年で57億円かかるエルゼビアの論文閲覧システムの契約交渉で大学…
  3. 【第一三共】抗血小板薬「プラスグレル」が初承認‐欧州で販売へ
  4. 最少の実験回数で高い予測精度を与える汎用的AI技術を開発 ~材料…
  5. 三菱化学、より自然光に近い白色LED用の材料開発
  6. 厚労省が実施した抗体検査の性能評価に相次ぐ指摘
  7. 半年服用で中性脂肪3割減 ビタミンPと糖の結合物質
  8. 有機超伝導候補が室温超高速光応答材料に変身

注目情報

ピックアップ記事

  1. 相田 卓三 Takuzo Aida
  2. 速報・常温常圧反応によるアンモニア合成の実現について
  3. イライアス・コーリー E. J. Corey
  4. 第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」
  5. 「電子の動きを観る」ーマックスプランク研究所・ミュンヘン大学・Krausz研より
  6. 福住 俊一 Shunichi Fukuzumi
  7. 有機合成化学協会誌2020年1月号:ドルテグラビルナトリウム・次亜塩素酸ナトリウム5水和物・面性不斉含窒素複素環カルベン配位子・光酸発生分子・海産天然物ageladine A
  8. 規則的に固定したモノマーをつないで高分子を合成する
  9. 「誰がそのシャツを縫うんだい」~新材料・新製品と廃棄物のはざま~ 1
  10. Gaussian Input File データベース

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP