有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年7月号がオンラインで公開されています。
5件の総合論文に加え、長友先生(北大)の「MyPR」、矢島先生(お茶の水大)の「感動の瞬間」も掲載されています。
会員の方は、それぞれの画像をクリックすると、J-STAGEを通じてすべて閲覧できます。
巻頭言:実験項を読む,実験項を書く
今月号の巻頭言は、東京大学大学院薬学系研究科 金井 求 教授による寄稿記事です。
少し前から本誌の総合論文にも実験項が記載されていること、お気づきの方もいると思います。「実験項は, 実験科学の奥深さを浮き彫りにする大切な断章である。」という言葉は、実験科学者が大切にすべき視点でしょう。オープンアクセスです。
窒素ドープカーボン担持金属触媒による有機合成反応の開発と連続フロー法への展開
安川知宏*1,2、小林 修*1(1東京大学大学院理学系研究科化学専攻、2Monash大学理学部化学科)
窒素ドープカーボン担持金属触媒(NDC-Metal)を用いた合成反応について述べられています。環境調和型反応の実現を目指し、連続フロー合成や高効率な不斉触媒反応への応用に加え、NDC-Metalの特性を最大限に活かした電解合成についても紹介しています。
かご型炭化水素キュバン・クネアンの創薬応用を志向した精密有機合成化学
長澤翔太*、岩渕好治*(東北大学大学院薬学研究科)
創薬化学に利用されてきた分子骨格には芳香環が多数含まれますが、これを剛直な三次元骨格を有するカゴ型分子に置き換える創薬戦略が注目を集めています。本論文では、立方体構造をもつキュバンとその構造異性体であるクネアンの精密合成法および生物活性評価についてまとめられています。論文執筆時の苦労についても赤裸々に語られています。
ニトロメタン-過塩素酸リチウム系を反応場とする含窒素化合物の電解合成
岡本一央1、千葉一裕*2(1富山大学学術研究部理学系、2東京農工大学)
近年注目を集めている電解有機合成を用いた含窒素化合物、特にアザヌクレオシドの合成に関する研究を紹介しています。ニトロメタン溶媒中過塩素酸リチウムを電解質として用いることで、「高極性かつ弱配位性」という特殊な環境をうみだし、その特性を活かした合成研究を実現されています。電解有機合成のビギナーにも一読の価値がある論文になっています。
オクタフルオロシクロペンテンの炭素求核剤に対する反応性解明と機能性分子への展開
山田重之*、安井基博、今野 勉*(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科分子化学系)
ジアリールエテン類はフォトクロミック分子として注目されています。しかし、それらの基幹物質であるオクタフルオロシクロペンテンの反応性に関する研究は、これまで限定的でした。本稿では、筆者らが精査した炭素求核剤との反応性について紹介し、さらに得られた環状フルオロアルケンが二重状態蛍光分子や、報告例の少ないメロホスフィニンおよびホスフィニン色素といった機能性分子として有用であることを示し、新たな機能性分子の創出につながる可能性を提示しています。
Mytilipin Cの合成研究と全合成のための新規反応開発
梅澤大樹*(北海道大学大学院地球環境科学研究院)
Mytilipin C の主構造である、連続する第2級クロロ基を含む主鎖を合成する手法の開発について述べられています。鍵反応となるアニオンカップリングでは、「共存する官能基から、容易に副反応が進行することが予想できる、でもうまくいったら効率的な合成経路になる」工程を、反応機構の考察から後処理方法の工夫やアニオンの発生方法の工夫で乗り越えています。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスです。
・CO2を原料とする遷移金属触媒を用いた不斉カルボキシ化反応(東京理科大学理学部)金 玉樹
MyPR:環境が私を育み、私が環境を創る
今月号のMyPR(Message from Young Principal Researcher)は、北海道大学大学院薬学研究院 長友優典 教授による寄稿記事です。いつも快活な長友先生のバックグラウンドや悩み・葛藤、そして信条を知ることができ、ますます先生のことを好きになるMyPRでした。
感動の瞬間:光反応と共に歩む:金魚さんありがとう
今月号の感動の瞬間は、お茶の水女子大学基幹研究院 矢島知子 教授による寄稿記事です。金魚に投光器、研究は何がきっかけで進むかわからないからこそ面白い。
ぜひご一読ください。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズをご参照ください。









































