有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年8月号がオンラインで公開されています。
5件の総合論文に加え、三浦先生(岡山大)の「感動の瞬間」が掲載されています。
会員の方は、それぞれの画像をクリックすると、J-STAGEを通じてすべて閲覧できます。
巻頭言:「正解」は何? [オープンアクセス]
今月号の巻頭言は、富士フイルム株式会社 大林達彦 フェロー(2025年度有機合成化学協会関東支部長)による寄稿記事です。
積み重ねた技術と、それがどんな課題の解決に繋げられるかを考えること、それらの大事さがこれ以上なく伝わる寄稿です。
ヒドラジド化学を基軸とするペプチド・タンパク質合成研究
佐藤浩平*、鳴海哲夫、間瀬暢之(静岡大学大学院総合科学技術研究科工学専攻)
タンパク質・ペプチド医薬の伸長を背景にこれらのスクリーニング法が発展し、従来にない発想で分子設計されたタンパク質・ペプチドを化学合成する機会が増えています。その反面、タンパク質・ペプチドの化学合成は、煩雑さ、低収率、エピメリ化等の難題に直面してきました。そこで筆者らは、これらの難題に挑み、創意工夫を凝らした合成手法を本論文で紹介されています。
新奇アライン前駆体o-トリアゼニルアリールボロン酸の開発
伊藤元気*(明治薬科大学)
古くから知られる中間体「アライン」は、その単純で美しい構造からは想像もできないほど広い汎用性を誇り、今日でも多くの有機合成化学者を魅了し続けている。筆者もまたその魅力に引き込まれた一人であり、トリアゼニルアリールボロン酸を基盤とするアライン生成法を展開してきた。独自色溢れるアライン生成を、ぜひご堪能いただきたい。
天然物ライブラリーを基盤とする新規有機触媒モダリティの探索と応用展開
著者らが取り組んできたアルカロイド系有機触媒の開発研究について、その着想の源から応用に至るまでを詳しく解説しています。特に、「なぜシンコナアルカロイド類が不斉触媒として有用なのか」という本質的な問いかけに端を発し、アルカロイド全般を有機触媒として活用しようとする挑戦的な試みへと発展していく過程が、明快かつ魅力的に書かれており、非常に興味深い内容となっています。
不均一系白金-酸化モリブデン触媒を用いたカルボン酸とエステルの還元的変換反応
山口 渉、水垣共雄*(大阪大学大学院基礎工学研究科)
不均一系白金-酸化モリブデン触媒を用いたカルボン酸とエステルの還元的変換反応に関する総合論文です。筆者らは、モリブデン種の酸素との高い親和性に着目し、適切にデザインされた固体触媒を用いたカルボン酸やエステルの変換反応として、エーテル合成と還元的アミノ化を実施しています。反応は穏和な条件で進行し、使用する固体触媒はその特性を活かして容易に回収・再利用が可能であるため、非常に実用的です。また、検証実験によって得られた各反応における反応メカニズムについても興味深い内容となっています。
ニッケルまたはパラジウム触媒によるハロゲン化アシルの脱カルボニル化を伴う変換反応
田 天、西原康師*(岡山大学異分野基礎科学研究所)
ハロゲン化アシルを用いた遷移金属触媒による脱カルボニル型分子変換反応について体系的に概説されています。特に、フッ化アシルを用いた脱カルボニル化を伴う効率的な炭素–炭素、炭素–ヘテロ原子、炭素–ハロゲン結合の構築への進展に関して、著者自身による最新の研究成果を交えながら詳細に紹介されています。有機合成化学分野ではもちろんのこと、錯体化学・触媒化学といった関連分野に対しても、本論文は新たな知見を与える内容となっています。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスです。
・結晶または粉体として回収する医薬品原薬やファインケミカルズの連続生産技術 (産業技術総合研究所)小林貴範
感動の瞬間:少々変更 [オープンアクセス]
今月号の感動の瞬間は、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域 三浦智也 教授による寄稿記事です。
個々の論文を読むだけではわからない、研究を始めるきっかけや研究同士のつながりを教えてくれる寄稿です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズをご参照ください。









































