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知的財産権の基礎知識

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bergです。今回は化学系の学生や研究者の方々にはなじみ深い知的財産権について簡単にまとめます。

知的財産権とは、発明など無形物の著作者が占有・行使できる権利で、特許権商標権などの産業財産権と、著作権・著作隣接権などに大別されます。誤解されがちですが、知的財産権は著作者の権利を恒久的に保護するものではありません。産業財産権は発明者等に独占権を与えて著作・発明を保護・奨励、出願された発明の技術内容を公開して利用を図ることで、産業の発達に寄与すること、著作権・著作隣接権は文化的所産の公正な利用に留意しつつ著作者等の権利の保護を図り、文化の発展に寄与することを目的としています。

日本国憲法の第29条(財産権)第1項では「財産権は、これを侵してはならない。」と規定されており、民法第709条(不法行為による損害賠償)では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」ものと定められています。知的財産権も財産権に包括されるため、他者に無断使用され損失を生じた場合には損害賠償を請求できる場合があります。

一方、民法1条(公共の福祉・信義誠実の原則・権利の濫用)第3項では「権利の濫用は、これを許さない。」とされており、適法な権利の行使であったとしても、濫用にあたる場合には行使できない(権利濫用の禁止)ことが定められており、注意が必要です(判例:宇奈月温泉事件)。

以下では主に産業財産権について記します。

特許権

特許とは、技術的思想の創作(=発明)に対して特許権を付与する行政行為を指します。特許権は原則として出願日から20年間存続します。医薬品など安全性試験などに膨大な時間を要する製品については例外的に5年間までの延長が認められます。

ここでいう発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義されており、自然法則を利用していないもの(数学上の公式など)、技術的思想でないもの(マニュアル、技能など)、創作にあたらないもの(天然の鉱石の発見など)、高度でないもの(実用新案など)のほか、産業上の利用ができないもの(医療行為など)も該当しません。また、公序良俗に反しないことも発明の要件となります。

実際の特許審査においてはこれらに加えて、新規性(公知の事実でない/公然実施されていない/頒布された刊行物に記載されていない)、進歩性(当業者が先行研究から容易に発明できない)ことが求められています。これらは学問の世界とも共通した考え方ではありますが、それゆえに難しいのが同一の発明について論文投稿と特許出願を同時に行うという状況です。このような場合には新規性喪失の例外規定が定められており、所定の手続きを経て例外適用を行う必要があります。(→関連記事)

また、日本をはじめほとんどの国では、同一の発明が特許出願された場合に出願日が早かったものに特許権を与える先願主義を採用しています。なお、米国は2013年まで長らく先発明主義をとっていましたが、特許権の取得を先送りして技術が普及するのを待ってから特許権を取得・公開することで莫大な損害賠償を獲得することを目的とした、いわゆるサブマリン特許の跳梁を許すこととなり、現在では先願主義に改定されています。

日本では特許制度を欧米から輸入しましたが、民間になかなか定着せず、優れた発明でも特許を取得しなかったものが多数あります。代表的な事例に、日本の高柳健次郎氏が世界に先駆けて開発しながら特許取得で先を越されたテレビ[1]や、ノーベル化学賞にも輝いた鈴木宮浦クロスカップリング反応[2](→関連記事)、最近では3Dプリンター[3]などがあります。

このうち鈴木-宮浦カップリングのように特許を取得しなかったことで結果的に技術が普及した事例もありますが、Na、K、Ca、Mg、B、Baを発見したことでも知られる19世紀のイギリスの化学者ハンフリー・デービー(Sir Humphry Davy)の発明したデービー灯(可燃性ガスで充満した炭鉱での使用に耐える防爆ランプ)のように粗悪品が流通を助長し、発明者の思惑とは裏腹に帰って爆発事故が増えてしまったケース[4]もあります。

デービー灯(画像:Wikipedia

実用新案権

実用新案権とは、物品の物品の形状、構造または組合せに係わる考案について、発明者を保護する権利です。「自然法則を利用した技術的思想の創作」が該当し、特許発明のように「高度」である必要がないことから、特許の下位互換ともみなされます。そのため実用新案は、技術的に十分硬度であるか検証することを目的とした実体審査を重視する特許とは異なり、出願手続きに不備がないか確認する方式審査のみで審査されます。実用新案権に基づく損害賠償を請求するためには、別途技術的な審査を経て技術評価書を提示することが必要です。実用新案権は出願日から10年間存続し、一切の延長が認められていません。

実用新案制度については採用していない国家も多く、日本国内でも是非をめぐって議論されています。このため、今後大きな法改正がある可能性もあります。

このほか、重要な産業財産権に物品の形状や色彩、デザインを保護する意匠権、商品や役務のブランドを保護する商標権があります。巷でよく見かける®やTMのマークはそれぞれ登録商標、商標を示しています。(©は著作権保護されていることを示しています)

早見表

各種資格試験に頻出される法令知識を簡単にまとめました。

特許 実用新案 意匠 商標
登録者 自然人 自然人 自然人と法人
出願書類 願書・明細書・請求範囲・必要な図面・要約書 願書・図面 願書・図面
出願公開 出願日から1年6か月

早期公開請求〇

(取り下げ×)

なし 自動
審査 請求必須(出願日から3年以内)

早期/優先審査請求〇

(取り下げ×)

方式審査のみ 請求不要

実体審査

請求不要

実体審査

優先権 先の出願日から1年以内

公開は先の出願日から

審査請求・存続期間は後の出願日から起算

拒絶理由通知時の対応 ・指定期間内に意見書提出

・手続補正書提出

(新規事項の追加×)

・意見書・手続補正書の提出

・分割/変更

(要旨変更×)

・意見書・手続補正書の提出

・分割

(要旨変更×)

拒絶査定時の対応 ・拒絶査定不服審判の請求

・同時に補正/分割

(前置審査)

拒絶査定不服審判の請求 拒絶査定不服審判の請求
設定登録の要件 ・3年分の特許料納付

(以後も前年までに納付 or 6か月以内に追納)

・1年分の特許料納付

(以後も前年までに納付 or 6か月以内に追納)

・10年分の特許料納付

(5年毎に分割可/5年経過前に残りを納付)

効力の

存続期間

出願日から20年 出願日から10年

(技術評価書提示必須)

出願日から25年(※2019年 法改正) 設定登録更新から10年

(更新しないと失効)

延長 5年(医薬品) なし なし 何度でも更新可

(原則満了6か月前から申請)

無効化する方法 ・3年以上不使用→通常実施権

・特許異議申立

(広報発行から6か月以内、「何人も」)

・特許無効審判

(利害関係人のみ)

意匠登録無効審判の請求 ・3年以上不使用→不使用取消審判

・普通名称化

・登録異議申立

(広報発行から2か月以内、「何人も」)

・商標登録無効審判

(登録から5年以内、利害関係人のみ)

国際条約 ・特許協力条約(PCT)

・特許法条約(PLT)

ハーグ協定 ・マドリッド条約議定書

・商標法シンガポール条約(STLT)

その他 設定登録から3年まで秘密意匠

(短縮可/出願直登録料納付時に請求)

(2021年1月現在)

比較的頻繁に法改正があるため、参考までにご覧いただけますと幸いです。

その他の権利

半導体回路の配線構造などを保護する回路配置利用権、種苗の品種を保護する育成者権などがあります。

その他、広義には営業秘密(営業秘密の保持・不正入手の禁止)、限定提供データ(不正取得、不正使用等の禁止)なども知的財産に含まれます。

参考文献

関連資料

[1]産官学連携ジャーナル 2009年3月号 第2回 特許とは何か

https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2009/03/articles/0903-11/0903-11_article.html

[2]日本経済新聞 2010年10月7日 「鈴木氏、特許出願せず 世界的普及の要因に ノーベル化学賞のクロスカップリング反応」

https://www.nikkei.com/article/DGXNASGG0602D_W0A001C1NN8000

[3]日経ビジネス 2016年7月6日 「3Dプリンターで特許を逃した僕の「失策と教訓」」

https://business.nikkei.com/atcl/report/16/063000051/070500003/

[4]「アイデア活かそう未来へ」(経済産業省 特許庁 2012年)

https://www.inpit.go.jp/jinzai/educate/kyouzai/H24aideaikasoumiraie.pdf

関連書籍

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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