有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年10月号がオンラインで公開されています。
6月にご逝去された村井眞二先生の追悼記事が掲載されています。また、5件の総合論文(うち1件は9月号に続いて企業からの報告)に加え、大松先生(慶大)の「MyPR」、中村先生(東京科学大)の「感動の瞬間」が掲載されています。
会員の方は、それぞれの画像をクリックすると、J-STAGEを通じて全文を閲覧できます。
追悼:村井眞二先生を偲んで

「炭素–水素結合の触媒的変換」の第一人者とも言える村井先生の功績、そしてお人柄がとても伝わる記事です。どなたでもご覧いただけます。是非ご一読ください。
巻頭言:進化する研究環境と基礎研究の意義 [オープンアクセス]
今月号の巻頭言は、青山学院大学理工学部化学・生命科学科 阿部二朗 教授による寄稿記事です。
有機合成が「専門家の技術」から「汎用的な手段」に変化する中、基礎研究の意義は何かを問う寄稿です。
アルコールのC–O結合切断による炭素ラジカル生成
菅 拓也*(金沢大学理工研究域物質化学系)
現在世界中で研究が進められているアルコールの炭素–酸素結合切断によるラジカル生成手法、ならびにそれを用いた新反応開発についてまとめられた総説です。多様な試薬を用いた広範かつ最新の知見が網羅的に記載されており、有機合成研究や反応開発を行う研究者にとって大変有用な論文です。
LCAT活性化剤のプロセス開発:光学活性アルコールの新規光学分割法の開発
上田 剛*、倉橋 慧、北川 豊(第一三共株式会社プロセス技術研究所)
新しいLCAT活性化剤の製造プロセスについて述べています。全15工程からなるプロセスをカラム精製なしで、コストを抑えつつ優れた生産性を実現しています。特に、トシルカーバメート基を用いた光学活性アルコールの新しい分割法を開発し、高い光学純度で目的物を得ることに成功しています。本分割法は、様々な光学活性アルコールに適用できる汎用性の高い手法として期待されます。
ボラノホスフェートを基盤とするリン原子含有生体関連分子の合成
佐藤一樹*、和田 猛*(東京理科大学薬学部生命創薬科学科)
新たなモダリティとして核酸医薬品が注目されている背景の中、本総合論文では、酵素耐性をもち、毒性の低いボラノホスフェート核酸の巧みな合成法が論述されています。ボラノホスフェートは、リン原子上にボラノ基を有するホスホン酸誘導体です。さらに、得られた知見を糖の誘導体合成に応用し、グリコシルホスフェートを、グリコシルボラノリン酸中間体を経て効率的に合成しています。これらのリン含有生体分子と化学的に修飾された類似体の合成について詳しく説明されています。
高周期14族元素核置換アリールアニオンの化学
水畑吉行*(京都大学化学研究所)
本総説では、ゲルマニウムやスズといった高周期14族元素を骨格に含む「重いフェニルアニオン」の合成・構造・反応性を詳細に解説。従来の常識を覆す安定性と独自の化学を明らかにし、新たな分子設計の可能性を拓きます。
N-ヘテロ環状カルベンボランを活用するホウ素化反応の開発
谷口剛史*(産業技術総合研究所触媒化学研究部門)
優れたヒドリド供与性・ラジカル源としてのユニークな特性を持つN-ヘテロ環状カルベンボランを利用した多彩なホウ素化反応について,その発見経緯も含めて詳細かつ明快にまとめられています。
Review de Debut
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスです。
・多孔性有機ケージ:金属ナノ粒子とクラスターの合成と活性化への超分子アプローチ(東京理科大学理学部第二部化学科)武重レオナルド隼人
MyPR:果てしないスペースに分子を創造する [オープンアクセス]
今月号のMyPR (Message from Young Principal Researcher)は、慶應義塾大学理工学部 大松亨介 教授による寄稿記事です。
「創造」に対する大松先生の考えが随所に感じられる寄稿です。「できないことを知るためには、外側から眺める」という言葉はとても刺さりました。
感動の瞬間:求核的π-アリルパラジウム錯体との出会い
今月号の感動の瞬間は、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所 中村浩之 教授による寄稿記事です。
求核的π-アリルパラジウム錯体を、単に発見で終わらせるのでなく、そこからどう広げていくか、中村先生のお考えや信念が伝わる寄稿です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズをご参照ください。











































