[スポンサーリンク]

一般的な話題

有機アジド(4)ー芳香族アジド化合物の合成

[スポンサーリンク]

さて、本シリーズも第4回目。有機アジドについての講義シリーズですが、今回はようやく有機アジド化合物の合成に突入します。まずは芳香族アジドに限定して、その一般的合成法を述べていきましょう。また、化学者も覚えて欲しいので、有名な化学者も時々登場します。ここで、注意してもらいたいのは、アジドという、学部ではほとんど登場しない置換基を導入する際も、基本的な反応性は学部で習った話と類似しているということです。求核剤と求電子剤の関係を考えながら学んでいきましょう。これまでの本シリーズ記事は記事下にまとめましたので、御覧ください。

アジド基を導入する:導入形式

芳香族化合物をどうやって芳香族アジドに変えるか?様々な反応がありますが、その導入形式に分類して述べましょう。アジド基を導入する形式は導入する窒素の数によって以下の4つがあります。

2016-10-17_00-41-05

A.アジド基N3の挿入反応(置換反応)

B.ジアゾ基N2の挿入反応

C.窒素原子”N”の挿入反応(ヒドラジンやジアゾニウム塩から変換)

D.トリアゼン誘導体の開裂反応

わかりやすいものはAですね。それではまず、Aの形式であるアジド基N3の挿入反応(置換反応、付加反応)について説明します。なお、後々アジドを導入することになった読者の為に出来る限り原著論文のある例を挙げながら説明していきます。

A1. 芳香族求核置換反応: SNAr

2016-10-17_00-46-26

芳香族求核置換反応によってアジド基を求核的(N3)に導入する反応形式です。芳香族求核置換であるため、用いることのできる芳香族は「電子をくれ!」と叫んでいる電子不足芳香族化合物に限られます。例えば、以下の例。ペンタフルオロフェニル化合物に対して、アジ化ナトリウムを作用させると1つのフッ素(F)が芳香族求核置換反応によりアジド化され2になります[1]。Xにエステルやニトロ基がついているものは、数工程で3p-アジドテトラフルオロフェニルアニリンに変換可能です。なお、Fは脱離能は低い置換基ですが、芳香族求核置換反応は、芳香環への求核攻撃が律速段階です。そのため、電気陰性度の高いFを置換した芳香族化合物は根元(イプソ位)に求核攻撃しやすく、かつそこそこ脱離もしてくれるので芳香族求核置換反応には適した置換基になります。

2016-10-17_00-56-59

ピリジン4やフラン7などのヘテロ芳香環もニトロ基やなどの電子吸引基を有していることで、芳香族求核置換反応が起こります[2]。少しマニアックですが1,3,4オキサジアゾール9は電子不足ヘテロ芳香環で2位に脱離基(この場合はスルホナート)がついていると芳香族求核置換が起こります[3]。「イミンへの付加・脱離」のように考えればいいと思います。ちなみに、10の合成は、有機化学の巨匠Woodwardの論文で新しいペプチド合成の原料として用いられています。

2016-10-17_01-06-43

少しだけ、応用した例を示しましょう。以下の原料のピリミジン11にはチオエーテルリンカーの先にポリスチレン樹脂がついています。固相反応をつかって合成するためです。12に変換した後にチオエーテルをジメチルジオキシランで酸化、スルホンとすることで電子求引基に変えて、芳香族求核置換反応を進行させ、アジド基を導入するとともにポリスチレン樹脂を切断して目的の13を得ています[4]

2016-10-17_01-07-32

A2. 有機金属反応剤を用いた反応

2016-10-17_01-08-58

芳香族化合物を有機リチウム反応剤グリニャール反応剤に変えて、アジド基を導入する反応です。前述の芳香族求核置換と異なり、芳香環は求核剤、アジド基はN3*つまり求電子剤として働いていることに注意しましょう。求電子的アジド化剤としては、トシルアジド(TsN3)やトリフルオロメタンスルホニルアジド(TfN3)がよく用いられます。電子豊富で混み合っている芳香環1416も良好な収率で、アジド化合物へと変換可能です[5]。反応は、有機金属試薬がスルホニル基に攻撃したそうなイメージですが、実は最も端のNに攻撃し、トリアゼン塩が生じます。スルホニル基と窒素の結合を切断するために一般的に二りん酸ナトリウム(Na4P2O7)が使われます。この求核剤の攻撃の位置に関してはまた後ほど述べることにしましょう。

2016-10-22_03-07-47

ヘテロ芳香環でも同様。18のような有機リチウム試薬にトシルアジドを加え、トリアゼン塩19とした後、二りん酸ナトリウムで20としています。もちろんベンゾアゾール21も同様です[6]

2016-10-22_03-10-31

2016-10-22_03-11-14

A3. 遷移金属触媒(Cu)を用いたカップリング反応

2016-10-22_03-05-17

「電子不足でない芳香環に、安価で安定なアジド化剤(アジ化ナトリウムなど)を水に不安定な有機リチウム反応剤など使えない方法はないのか?」

と欲張り?な考えからあみだされた方法が銅触媒を使ったカップリング反応です[7]

例えば、芳香族ハロゲン化物や芳香族ボロン酸にNaN3などを銅触媒存在下反応させるだけで、芳香族アジドがつくれます。官能基許容性にも優れており、23のようなアミノ酸もカルボン酸を保護することなく芳香族化合物24へ変換可能です。反応点が沢山存在する25も収率40%前後(1つのアジド化は収率80%)でアジド化合物26へと誘導できます。

2016-10-22_03-15-37

有機ボロン酸の場合は、もう少し温和な温度下で反応できるすぐれた反応です。

2016-10-22_03-15-56

ではこれらの反応はどのように進行しているのでしょうか。一般式を示すと、芳香族ハロゲン化物の場合、Cuに酸化的付加、アジドの求核攻撃を受けた後、還元的脱離で生成物が得られ、銅触媒が再生します。添加しているプロリンは有効なアニオン性配位子として働いています。芳香族ボロン酸の場合は、トランスメタル化の後、アジドの求核攻撃、続く還元的脱離です。銅触媒を酸化するために酸素が必要です。つまり、これらの反応では芳香族化合物が求電子剤、アジドが求核剤ですね。

2016-11-03_15-48-10

銅触媒を使ったカップリング反応による芳香族アジド化合物の合成

まとめ

芳香族化合物の場合は通常は芳香族求電子置換反応が主役ですが、学部で習ったようにベンゼン環は求核剤であるものの、強い求電子剤を用意して挙げないと反応してくれません。アジド基を導入する場合、不安定で高価なN3+を求電子剤として用いるよりも、安価なN3を使う、つまり、求核剤として、芳香族求核置換反応型の方がよく使われれることが特徴です。まとめると

  • 電子不足芳香環の場合=A1
  • 電子豊富な芳香環で低温で反応を進行させたい場合=A2
  • 一般的な芳香環でとにかく楽に合成したい場合=A3

を用いると良いと思います。では次回は、Aグループに属する最新のアジド基導入反応についてお話しましょう。

参考文献

  1. (a) Keana, J.F.W. Cai, S.X. J. Org. Chem. 1990, 55, 3640. DOI: 10.1021/jo00298a048 (b) Chehade, K.A.H. Spielmann, H.P. J. Org. Chem. 2000, 65, 4949. DOI: 10.1021/jo000402p
  2. (a) Barlin, G.B. Aust. J. Chem. 1983, 36, 983. (b) Choi, P. Rees, C.W.; Smith, E.H.; Tetrahedron Lett. 1982, 23, 121. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)97550-6
  3. Confalone, P.N.; Woodward, R.B, J. Am. Chem. Soc. 1983, 105, 902. DOI: 10.1021/ja00342a044
  4. Gibson, C.L.; La Rosa, S.; Suckling, C.J. Tetrahedron Lett. 2003, 44, 1267. DOI: 10.1016/S0040-4039(02)02782-X
  5. (a) Smith, P.A.S.; Rowe, C.D.; Bruner, L.B. J. Org. Chem. 1969, 34, 3430. DOI: 10.1021/jo01263a047 (b) Gavenonis, J.; Tilley, T.D. Organometallics 2002, 21, 5549. DOI: 10.1021/om020509y
  6. Zanirato, P.; Cerini, S.; Org. Biomol. Chem. 2005, 3, 1508. DOI: 10.1039/B500634A
  7. (a) Zhu, W.; Ma, D. Chem. Commun. 2004, 888. DOI: 10.1039/B400878B (b) Schilling, C.I. Bräse, S. Org. Biomol. Chem. 2007, 5, 3586. DOI: 10.1039/B713792C (c) Tao, C.-Z.; Cui, X.; Li, J.; Liu, A.-X.; Liu, L.; Guo, Q.-X. Tetrahedron Lett. 2007, 48, 3525. DOI: 10.1016/j.tetlet.2007.03.107

関連書籍

[amazonjs asin=”0470519983″ locale=”JP” title=”Organic Azides: Syntheses and Applications”]

上級有機化学シリーズー有機アジド

Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. KISTEC教育講座『中間水コンセプトによるバイオ・医療材料開発…
  2. MI-6 / エスマット共催ウェビナー:デジタルで製造業の生産性…
  3. 化学素人の化学読本
  4. 有機合成化学協会誌2021年5月号:『有機合成のブレークスルー』…
  5. 「フント則を破る」励起一重項と三重項のエネルギーが逆転した発光材…
  6. レビュー多すぎじゃね??
  7. アメリカ化学留学 ”立志編 ーアメリカに行く前に用意…
  8. 室温で緑色発光するp型/n型新半導体を独自の化学設計指針をもとに…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 可視光で働く新しい光触媒を創出 -常識を覆す複合アニオンの新材料を発見-
  2. ポンコツ博士の海外奮闘録XXIV ~博士の危険地帯サバイバル 筒音編~
  3. 「2010年トップ3を目指す」万有製薬平手社長
  4. カゴ型シルセスキオキサン「ヤヌスキューブ」の合成と構造決定
  5. Classics in Total Synthesis
  6. 大環状ヘテロ環の合成から抗がん剤開発へ
  7. 名古屋市科学館で化学してみた
  8. 第88回―「新規なメソポーラス材料の創製と応用」Dongyuan Zhao教授
  9. タクミナ「スムーズフローポンプQ」の無料モニターキャンペーン
  10. 医薬品の品質管理ーChemical Times特集より

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

粉末 X 線回折の基礎知識【実践·データ解釈編】

粉末 X 線回折 (powder x-ray diffraction; PXRD) は、固体粉末の試…

異方的成長による量子ニードルの合成を実現

第693回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科(佃研究室)の髙野慎二郎 助教にお願…

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP