[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

エノールエーテルからα-三級ジアルキルエーテルをつくる

[スポンサーリンク]

α-オキシラジカルを経るエノールエーテルのa位官能基化が開発された。種々のアルキルエノールエーテルとオレフィンからα-三級ジアルキルエーテルが合成できる。

α-三級ジアルキルエーテルの合成

ジアルキルエーテルは、化合物の水溶性を高め代謝安定性の改善に寄与する[1]。そのため医薬品に多く見られる骨格である[2]。ジアルキルエーテルの構築法は、Williamsonエーテル合成が代表的であるが、嵩高いa-三級ジアルキルエーテルを合成する場合、脱離反応が競合する。この課題を解決する効率的なα-三級ジアルキルエーテル合成法は少なく、導入可能な置換基の種類も限られていた。
近年、優れたa-三級ジアルキルエーテル合成法が開発されたが[3,4]、カルボカチオンを経由するこれら手法と相補的なアプローチとして、α-オキシラジカルを利用したジアルキルエーテル合成法が知られる。BaranShenviらは、金属ヒドリド水素原子移動(MHAT)を利用して、エノールエーテルよりα-オキシラジカルを発生させ、ジアルキルエーテルを合成した(図 1A)[5,6]。一方でDoyleやWangらは、酸性条件下、アセタールにニッケル触媒と亜鉛を作用させることで、ジアルキルエーテルの合成に成功した(図 1B-i) [7,8]。中間体のa-オキシラジカルは、アセタールから得られるオキソカルベニウムイオンの還元により生成する。しかし、α-オキシラジカルを経由するこれらの反応における生成物は、α-二級ジアルキルエーテルに限られていた。本論文の著者であるDixonらは、先行研究において可視光レドックス触媒存在下、アリール基をもつケタールよりα-オキシラジカルを発生させることで、α-三級ジアルキルエーテルの構築に成功した(図 1B-ii) [9]
今回著者らは、エノールエーテルよりa-オキシラジカルを発生させるα-三級ジアルキルエーテルの合成法を開発した(図 1C)。本手法は、全ての置換基がアルキル化されたa-三級ジアルキルエーテルも効率的に合成することができ、広い官能基許容性をもつ。

図 1. (A) MHATを利用したジアルキルエーテル合成法、 (B)SETを利用したジアルキルエーテル合成法、(C) 今回の反応

 

“αTertiary Dialkyl Ether Synthesis via Reductive Photocatalytic αFunctionalization of Alkyl Enol Ethers”

Leitch, J. A.; Rossolini, T.; Rogova, T.; Dixon, D. J. ACS Catal. 2020, 10, 11430–11437.

DOI: 10.1021/acscatal.0c02584

論文著者の紹介


研究者: Darren Dixon
研究者の経歴:
1993–1997 Ph.D., University of Oxford, UK (Prof. Stephen. G. Davies)
1997–2000 Postdoc, University of Cambridge, UK (Prof. Steven. V. Ley)
2000–2004 Senior Assistant, University of Cambridge, UK
2004–2007 Senior Lecturer, University of Manchester, UK
2007–2008 Reader, University of Manchester, UK
2008–present Professor, University of Oxford, UK
2014–present Director, EPSRC CDT in Synthesis for Biology and Medicine, University of Oxford, UK
研究内容:遷移金属触媒を用いた新規反応開発、光化学反応、天然物合成
論文の概要
可視光レドックス触媒とHantzsch ester誘導体、TMSCl存在下、エノールエーテル1とオレフィン2に対し可視光を照射することでα-三級ジアルキルエーテル3を与えた(図 2A)。オレフィンとしては、デヒドロアラニン誘導体(2a)やフェニルビニルスルホキシド(2b)が利用できる他、オキサゾリジノン誘導体(2c)を用いた場合には、高いジアステレオ選択性で対応する3が得られた。本反応はシクロブタン(1d)やフラン(1e)をもつエノールエーテルにも適用できた。
本反応は、以下の反応機構が提唱されている(図 2B)。まず可視光照射によって励起されたイリジウム触媒がHantzsch ester誘導体を酸化する。生じたイリジウム(II)から、オキソカルベニウムイオンへの一電子移動(SET)が起こり、α-オキシラジカルを生成する。その後、オレフィンへのギースラジカル付加反応と続く水素原子移動(HAT)を経て、α-三級ジアルキルエーテルを与える。なお、TMSClはオキソカルベニウムイオンの調製の際にルイス酸として働く。

図 2. (A) 基質適用範囲、(B) 推定反応機構

 

以上、可視光レドックス触媒を用いた、α-三級ジアルキルエーテル合成法が開発された。今後は本反応を用いた医薬品の合成など、より実用的な応用が期待される。

参考文献

  1. Wuitschik, G.; Rogers-Evans, M.; Müller, K.; Fischer, H.; Wagner, B.; Schuler, F.; Polonchuk, L.; Carreira, E. M. Oxetanes as Promising Modules in Drug Discovery. Angew. Chem., Int. Ed. 2006, 45, 7736–7739. DOI: 10.1002/anie.200602343
  2. McGrath, N. A.; Brichacek, M.; Njardarson, J. T.A Graphical Journey of Innovative Organic Architectures That Have Improved Our Lives. Chem. Educ. 2010, 87, 1348–1349. DOI: 10.1021/ed1003806
  3. Xiang, J.; Shang, M.; Kawamata, Y.; Lundberg, H.; Reisberg, S. H.; Chen, M.; Mykhailiuk, P.; Beutner, G.; Collins, M. R.; Davies, A.; Del Bel, M.; Gallego, G. M.; Spangler, J. E.; Starr, J.; Yang, S.; Blackmond, D. G.; Baran, P. S. Hindered Dialkyl Ether Synthesis with Electrogenerated Carbocations. Nature 2019, 573, 398–402. DOI:1038/s41586-019-1539-y
  4. Hibutani, S.; Kodo, T.; Takeda, M.; Nagao, K.; Tokunaga, N.; Sasaki, Y.; Ohmiya, H. Organophotoredox-Catalyzed Decarboxylative C(sp3)–O Bond Formation. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 1211–1216. DOI: 10.1021/jacs.9b12335
  5. Lo, J. C.; Gui, J.; Yabe, Y.; Pan, C.-M.; Baran, P. S. Functionalized Olefin Cross-Coupling to Construct Carbon−Carbon Bonds. Nature 2014, 516, 343– DOI: 10.1038/nature14006
  6. Green, S. A.; Huffman, T. R.; McCourt, R. O.; van der Puyl, V.; Shenvi, R. A. Hydroalkylation of Olefins to Form Quaternary Carbons. J.  Am. Chem. Soc.2019, 141, 7709–7714. DOI: 10.1021/jacs.9b02844
  7. Arendt, K. M.; Doyle, A. G. Dialkyl Ether Formation by Nickel-Catalyzed Cross-Coupling of Acetals and Aryl Iodides. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 9876–9880. DOI: 10.1002/anie.201503936
  8. Lin, Z.; Lan, Y.; Wang, C. Synthesis of gem-Difluoroalkenes via Nickel-Catalyzed Reductive C–F and C–O Bond Cleavage. ACS Catal. 2019, 9, 775–780. DOI: 1021/acscatal.8b04348
  9. Rossolini, T.; Ferko, B.; Dixon, D. J. Photocatalytic Reductive Formation of a-Tertiary Ethers from Ketals. Org. Lett. 2019, 21, 6668–6673. DOI: 10.1021/acs.orglett.9b02273
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 特定の刺激でタンパク質放出速度を制御できるスマート超分子ヒドロゲ…
  2. 原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持N…
  3. フッフッフッフッフッ(F5)、これからはCF3からSF5にスルフ…
  4. お”カネ”持ちな会社たちー2
  5. タンパクの骨格を改変する、新たなスプライシング機構の発見
  6. 【本日14時締切】マテリアルズ・インフォマティクスで活用される計…
  7. ケムステイブニングミキサー2018へ参加しよう!
  8. ビジネスが科学を待っている ー「バイオ」と「脱炭素」ー

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高反応性かつ取扱い容易な一酸化炭素の代用試薬,N-ホルミルサッカリン
  2. 光を吸わないはずの重原子化合物でも光反応が進行するのはなぜか?
  3. ジアリールエテン縮環二量体の二閉環体の合成に成功
  4. コバルト触媒でアリル位C(sp3)–H結合を切断し二酸化炭素を組み込む
  5. 化学は地球を救う!
  6. #環境 #SDGs マイクロ波によるサステナブルなものづくり (プラ分解、フロー合成、フィルム、乾燥、焼成)
  7. 武田や第一三共など大手医薬、特許切れ主力薬を「延命」
  8. 有機合成化学協会誌2023年10月号:典型元素・テトラシアノシクロペンタジエニド・二重官能基化・パラキノジメタン・キナゾリノン
  9. カティヴァ 酢酸合成プロセス Cativa Process for Acetic Acid Synthesis
  10. 人名反応に学ぶ有機合成戦略

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP