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研究テーマ変更奮闘記 – PhD留学(前編)

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研究をやる上で、テーマってやっぱり大事ですよね。私はアメリカの大学院に留学中(終盤)という立場ですが、PhD課程を通して研究テーマについてはかなり悩みました。特に、初期にやっていたテーマがどうしても好きになれず、研究室を変えようかと迷っていた時期もあります。

今回は前編と後編に分け、学生の誰もが一度は悩む「研究テーマ」について、ちょっと個人的な話を綴ってみようと思います。一般的な話ではないですが、テーマの決定や途中での変更について、悩んでいる人の参考になると嬉しいです。

1. PhD留学 – 最初の研究テーマ決め

アメリカの大学院への進学が決まった後、私は秋の入学に先立ってサマーリサーチをすることにしました。

受け入れ先の教授にコンタクトを取り、開始日を6月に決めた後、疑問に思ったのは「テーマはどんな流れで決めるんだろう?」ということです。教授にメールで聞くと「こっちに来て研究を始める時になったら話そう」ということだったので、とりあえず研究室の過去の論文を読んで勉強しておくことにしました。

現地に着いてから教授にメールをして面談の日程を決め、テーマについて話し合う機会を持ちました。「やる気をアピールするためにも、自分でテーマを提案した方がいいのかな…?」と迷ったものの、学部時代と少し研究分野を変えたため面白いテーマを提案できる自信も無く、とりあえず自分がどういうテーマに興味があるかについてだけでも話せるよう準備しておきました。

教授との面談では、まず「これまでどんな研究をしてきたか、今後どんな研究に興味があるか教えて。」と聞かれました。簡単に説明すると、教授から「こういうテーマはどうかな?」と用意されていたテーマについて説明を受けました。それなりに面白そうだと思った(分野に詳しくないのでその程度の感想しか抱けませんでした;)ので引き受けることにしました。

後になって知ったのは、新入生がいきなり「これをやりたい!」と言って好き勝手なテーマをやらせてもらえることは寧ろラッキーな場合だということです。(あくまで私の研究室の話なので、他の研究室や分野によっては状況が全然違うかもしれませんが)研究室のファンディングや教授の興味、上級生の引き継ぎなどいろんな事情を考慮しつつ、学生側の興味に照らし合わせて教授側からテーマが割り当てられることが多いようです。私がもらったテーマは、ちょうど始まる予定だった大きなグラントのプロジェクトの一部で、教授が担い手を探していたところにちょうど私がラボに加わったので割り当てられた、という事情を後から何となく知りました。

2. テーマが好きになれないと悩む

1学年上の上級生とともに新規テーマを担うことになり、初めのうちは目新しさから楽しく実験を進めていました。今ではroutineのクローニングやタンパク発現も、有機化学系出身の私にはとても面白く感じられました。9月になり大学に正式に入学する頃にはそれなりに結果も出て、プロジェクトは軌道に乗り始めました。

ところが、その頃から「このテーマをPhD課程の5年間やり続けたくはない」という気持ちが芽生えてきました。学部時代に有機低分子を扱う研究をしていた経験から、細胞レベルの研究よりも(マクロ)分子に焦点を置いた研究をやりたいと思ったからです。「何でも楽しい」程度にしか研究を理解していなかった私に、「好き嫌い」ができたのはある意味成長だったかもしれません。

テーマをそれほど気に入っていなくても、研究室の人や雰囲気は良かったので、サマーリサーチからの延長でそのまま研究室に配属することに決めました。正式配属の際に、教授には「できればもう少し化学寄りで、他のメンバーとの共同でない独立のテーマを持ちたい」という気持ちは伝えておきました。「それなら、またディスカッションしよう」という好意的な返事を貰えましたが、1学期は授業やTAに追われ、新しいテーマについて考える余裕も無かったため、とりあえずは現状のテーマを続けることにしました。

そのまま3ヶ月ほど経ち、プロジェクトの方向性が見えなくなってきたため、一度教授と話し合うことにしました。現状のプロジェクトをどこまで完成させれば新しいテーマを始められるのか、明確なゴールを設定するために面談に臨みましたが、現プロジェクトの内容についての話が弾み、結局新しいテーマについての話はできませんでした。(あまり気に入っていないテーマでも、なぜか教授とディスカッションするととても面白いプロジェクトだと感じてしまいます。)そしてまた3ヶ月…。

3. 自分からプロポーザルを出してみる

このままではいけないと思い、もう少し具体的にアクションを起こすことにしました。黙って待っていても教授側からテーマを持ってきてくれることは(当然ながら)無いはずなので、自分からプロポーザルを書いてみることにしました。ちょうど授業の期末課題でプロポーザルが課されたので、それも兼ねて自分がやりたいテーマについてプロポーザルを書きました。新規テーマを始めるためにプロポーザルを書いたと教授に伝えると、とても親身になって読んでもらうことができました。私が研究テーマを変えたいという気持ちもだいぶ理解してもらえたようでした。

プロポーザルを読んだ教授の感想は、「とても面白いアイディアだね!」というポジティブな一言で始まり、私はとても期待しました。ところがその後に続いたのは、アイディアの欠点をつくとてもcriticalな意見でした。教授に見せる前は、自分でも良く書けたと結構自信があったのですが、教授の意見は私にもとても納得のいく鋭い意見でした。結局そのアイディアを基に新規テーマを始めるという方向には話が進まず、私自身もアイディアの欠点を克服する方法を見つけられなかったため、プロポーザルに書いた研究を行うことは断念しました。

次回に続く。

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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