[スポンサーリンク]

ケムステニュース

JSR、東大理物と包括的連携に合意 共同研究や人材育成を促進

[スポンサーリンク]

JSRは、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(東大理物)と包括的連携に合意し、4月1日から共同研究を開始したと5月21日に発表した。JSRと東大理物は、東京大学本郷キャンパス理学部1号館に協創オフィス「JSR・東京大学協創拠点 CURIE(キュリー)」を設置し、物理と化学を融合させた共同研究の拠点とする計画。 (引用:自動車タイヤ新聞6月10日)

合成ゴムの分野で高いシェアを持つJSRは、東大理物と包括的な連携に合意しました。具体的には、下記三つの項目について取り組んでいくと発表しています。

  1. 物理と化学を融合させた共同研究拠点の設置:「JSR・東京大学協創拠点CURIE」と名付けられた協創オフィスを設置して共同研究を実施
  2. 博士課程学生への給付型フェローシップ「JSRフェローシップ」の創設:物理学専攻の博士課程学生を対象とした給付型フェローシップである、「JSRフェローシップ」を創設
  3. サイエンスと産業技術の融合による新技術・新材料の創出:非常に高い差別化性能を有する製品開発の推進と次世代の科学と応用の基盤となる成果の発信

まず、化学メーカーが物理学専攻と包括連携を結んだということで率直に驚きました。JSRは、製品のさらなる性能向上には自然科学に基づいた原理原則を理解することの必要性を認識とコメントしていて、それは全く新しいイノベーションを起こして斬新な製品の開発をするには、科学的な現象を原理原則から理解する必要があると読み取れます。その科学的な現象を原理原則から理解するには、数式で表現して数学的に推論することを特徴とする物理学との連携が必要だと判断したと考えられます。化学でも物理でも広く研究されているマテリアルサイエンスを例にすると、化学的なアプローチでは、材料の種類を変えてよりよい性能を持つ材料の条件(特定の元素や官能基を含むことなど)を探そうとします。一方物理学なアプローチでは、条件などを変えることで性能を変化させるパラメーターを探し性能の傾向を数式によって表すことを試みます。どちらのアプローチが良いか一長一短をつけるものではありませんが、企業の開発においてはスピードを重視するため、理屈は置いておいてとりあえず他社よりも良いものを作ることに固執しがちです。そんな中、長期的な製品開発において、他社を圧倒するような製品を生み出すためには、従来の化学的アプローチだけでなく物理学的に科学的な現象を原理原則から理解する必要があるとJSRは考えこの連携を決めたと推測されます。

包括的な連携は単なる共同研究ではないので、特定の研究室だけでなく専攻全体が関連する内容が含まれていることが一般的です。すでに発表されている取り組みについて、博士課程学生への給付型フェローシップについては、分野関係なくすべての物理学専攻の学生に応募資格があるものになると予想されます。また、物理学専攻内にオフィスを設置するということで、両サイドの人員による専門チームが作られて共同プロジェクトが進むと考えられます。連携の要である新技術・新材料の創出については、共同研究の促進のため共同研究を専門に行う研究チームが結成される可能性があります。JSRでは、2017年に慶応義塾大学内に「JSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター」を立ち上げて共同研究を行っており、積極的に大型の共同研究を大学と実施しているようです。

化学メーカーが大学と包括的な連携を行っている事例はいくつかあり、特定の分野について集中的に共同研究を進めることを目的にしていることが多いようです。

各研究室と個別の契約で企業が共同研究を行っている事例はたくさんありますが、他社との関係もあるため、共同研究を行っていることを秘密にしておくことが多く、関係者以外が知ることはほとんどありません。しかしながら包括的な連携では、大々的なプレスリリースを行うため、両者が特定の分野に力を入れていることがアピールされます。開発資金を回収しやすい目先の結果にとらわれず、将来の市場で優位なビジネスを行えるような戦略を持つことは、研究者として良いイメージを持つことができる一方、企業はそれ相応の研究資金を拠出する必要がありリスクも大きく、会社として投資判断の難しさも感じます。日本では、企業からの資金提供が少ないとよく言われますが、このような包括的な連携で大きな成果が得られることがわかれば、多くの企業が乗り出すことも考えられるます。そのためJSRと東大理物の連携から革新的な成果が出ることを期待します。

関連書籍

関連リンクと共同研究に関するケムステ過去記事

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 花王、ワキガ臭の発生メカニズムを解明など研究成果を発表
  2. カシノナガキクイムシ集合フェロモンの化学構造を解明
  3. 第7回ImPACT記者懇親会が開催
  4. 2011年10大化学ニュース【後編】
  5. ケムステニュース 化学企業のグローバル・トップ50が発表【201…
  6. 米ファイザー、感染予防薬のバイキュロンを買収
  7. ホウ素でがんをやっつける!
  8. 2011年日本化学会各賞発表-学会賞-

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 熱分析 Thermal analysis
  2. ピーター・リードレイ Peter Leadlay
  3. ハンチュ ピロール合成 Hantzsch Pyrrole Synthesis
  4. リチウム金属電池の寿命を短くしている原因を研究者が突き止める
  5. トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I) クロリド:Tris(triphenylphosphine)rhodium(I) Chloride
  6. 炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす
  7. 米国の化学系ベンチャー企業について調査結果を発表
  8. トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III):Tris(2,4-pentanedionato)iron(III)
  9. Fmoc-N-アルキルグリシンって何ができるの?―いろいろできます!
  10. 有機合成者でもわかる結晶製品生産の最適化と晶析操作【終了】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

十全化学株式会社ってどんな会社?

私たち十全化学は、医薬品の有効成分である原薬及び重要中間体の製造受託を担っている…

化学者と不妊治療

これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参…

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒で…

紅麹を含むサプリメントで重篤な健康被害、原因物質の特定急ぐ

健康食品 (機能性表示食品) に関する重大ニュースが報じられました。血中コレステ…

ユシロ化学工業ってどんな会社?

1944年の創業から培った技術力と信頼で、こっそりセカイを変える化学屋さん。ユシロ化学の事業内容…

日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

日本化学会の年会も終わりましたね。付設展示会キャンペーンもケムステイブニングミキ…

ペプチドのN末端でのピンポイント二重修飾反応を開発!

第 605回のスポットライトリサーチは、中央大学大学院 理工学研究科 応用化学専…

材料・製品開発組織における科学的考察の風土のつくりかた ー マテリアルズ・インフォマティクスを活用し最大限の成果を得るための筋の良いテーマとは ー

開催日:2024/03/27 申込みはこちら■開催概要材料開発を取り巻く競争や環境が激し…

石谷教授最終講義「人工光合成を目指して」を聴講してみた

bergです。この度は2024年3月9日(土)に東京工業大学 大岡山キャンパスにて開催された石谷教授…

リガンド効率 Ligand Efficiency

リガンド効率 (Ligand Efficacy: LE) またはリガンド効率指数…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP