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スポットライトリサーチ

水分子が見えた! ー原子間力顕微鏡を用いた水分子ネットワークの観察ー

第82回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院新領域創成科学研究科杉本研究室塩足亮隼(しおたり あきとし)助教にお願いしました。

杉本研究室では、走査型プローブ顕微鏡により個々の原子を直接観察する技術を用いて、①活性度や電子状態などの様々な物性量を測定すること や、②物質表面の個々の原子を動かして人工的なナノ構造体を組み立て、その物性を評価すること などが行われています。また、走査型プローブ顕微鏡そのものの空間分解能の向上にも取り組まれています。

そんな杉本研究室からこの度、「表面を濡らす水分子が見えた!」というタイトルのプレスリリースが発表されました。プレスリリースとともに論文[1]も拝見して、タイトルに負けないインパクトの大きなお仕事だと思い、筆頭著者かつ責任著者であられる塩足助教にスポットライトリサーチへの寄稿を依頼しました。

塩足助教について、研究室を主宰する杉本 宜昭准教授はこのようにコメントされています。

私は超高真空原子間力顕微鏡(AFM)の技術開発と、それを用いた基礎研究を13年以上行ってきました。AFMは化学の諸問題を解き明かす道具であると常々思っていましたので、表面化学に精通している塩足さんに、新設した研究室に加わってもらいました。塩足さんは、研究者として既に洗練されています。引き続きインパクトがあり視覚に訴える研究成果を出してくれると期待しています。

まだ発足間もない杉本研究室(東京大学では2015年に発足)のますますの発展と、塩足助教の今後のご活躍を期待してます!

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

本研究は、金属表面上において水分子同士が水素結合によって構築するネットワークを、これまでにないほど高い空間分解能で可視化することに成功したというものです。固体表面上の水分子のネットワークの構造を調べることは、表面が水に濡れやすい(または濡れにくい)材料の開発につながる重要な課題です。

今回は、銅の表面上で水分子が一方向に並んだ「水のチェーン」の観測を行いました。金属表面上の水分子のネットワークは走査トンネル顕微鏡(STM)で観察するのが主流でした[2]。一方、本研究では非接触式原子間力顕微鏡(AFM)を用いることで、STM像を上回る空間分解能でチェーン内部の個々の水分子を画像化することができました(図1)。

図1 AFMによる水のチェーンの観察の模式図(左)と実際のAFM像(右)

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究のターゲットである「水のチェーン」[3]は、実は、私が大学4回生のときに研究したものでした。このチェーンには複数の種類の末端構造が存在していることがSTM実験で既にわかっていたので、それらの構造を推定するというのが私の卒業研究テーマでした。しかし、そのSTM像からは個々の分子を判別できなかったので、自分の提唱した構造モデルが本当に合っているのかを確かめることができず、もどかしい気持ちがずっと残っていました。7年の時を経て、AFMという別の手法を用いた本研究によって、ようやくチェーン末端の構造を明らかにできました(図2)。長年の謎を自分の手で突き止めることができたことに達成感と嬉しさを感じています。

図2 水チェーンの末端のSTM像(上)と、原子模型を重ねたAFM像(下)

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

現在所属している杉本研究室は、新設されて2年目の新しい研究室です。最初は実験室のレイアウト決めや装置の組み立てからスタートし、実際に装置が動き出すまでにかなりの時間を要しました。加えて、私自身AFMを使うのはほとんど初めてだったことや、装置の故障などもあり、論文レベルのデータが出るまでに大変な労力を費やしました。それでも、これまでの培った経験や、研究室内外の先生方・学生たちのサポートのおかげで、何とか今回の成果を達成することができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

教科書に載っているような「当たり前」の化学現象も、ナノスケールあるいは単分子レベルではどうして起こっているのかまだ分っていないものがたくさんあります。そのような現象を一つずつ解き明かしていきたいです。

幸いにも、測定結果が「画像」として出力される実験をしておりますので、研究者の方々だけでなく一般の方々にも「一目でわかる」ような、視覚的に化学への興味を抱かせるような、面白い研究を行っていきたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

Q2でお答えした通り、本研究を始める発端となったのは学部4回生のときの卒業研究でした。研究室に配属されて間もない学生の皆さまも、今自分が取り組んでいる研究テーマが、もしかすると後々に重要な意味を持つことがあるかもしれません。あるいはテーマは全く異なっていても、身に着けた研究スキルが役に立つときがきっと来るでしょう。一つ一つのテーマを大事にして、丁寧に研究することが、いい結果を生むきっかけになると信じています。

最後になりましたが、共著者の杉本宜昭准教授をはじめとする杉本研究室の皆さま、そして、学生のときお世話になり、本研究のきっかけを与えてくださった京都大学理学部表面化学研究室の皆さまに、この場を借りてお礼申し上げます。

参考文献

  1. A. Shiotari, Y. Sugimoto, Nature Commun. 2017, 8, 14313. DOI: 10.1038/ncomms14313
  2. J. Carrasco, A. Hodgson, A. Michaelides, Nature Mater. 2012, 11, 667. DOI: 10.1038/NMAT3354
  3. T. Yamada, S. Tamamori, H. Okuyama, T. Aruga, Phys. Rev. Lett. 2006, 96, 036105. DOI: 10.1103/PhysRevLett.96.036105

研究者の略歴

塩足 亮隼 (しおたり あきとし)

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 杉本研究室 助教

略歴:
2010年3月 京都大学理学部理学科 卒業
2012年3月 京都大学大学院理学研究科化学専攻 修士課程修了
2012年4月—2015年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2013年10月—2014年3月 フリッツハーバー研究所(ドイツ) Visiting student
2015年3月 京都大学大学院理学研究科化学専攻 博士後期課程修了
2015年4月より現職

研究テーマ:原子間力顕微鏡および走査トンネル顕微鏡による単分子計測
受賞歴:2012年6月 化学反応討論会 Best Poster Prize、2016年3月 日本表面科学会 講演奨励賞、2016年9月 応用物理学会 講演奨励賞、他5件

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めぐ

めぐ

博士(理学)。大学教員。相変わらず分子の世界に思いを馳せる日々。

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