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化学者のつぶやき

逐次的脱芳香族化と光環化付加で挑む!Annotinolide B初の全合成

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Annotinolide Bの初の全合成が報告された。キノリンの逐次的な脱芳香族化と分子内[2+2]光環化付加反応によりシクロブタン環と歪んだ七員環ラクトンを含む複雑な骨格構築に成功した。

逐次的なキノリンの脱芳香族化と分子内[2+2]光環化付加反応

脱芳香族化反応は、平面的な芳香族化合物から三次元骨格を迅速に構築可能な手法であり、複雑な立体構造を有する天然物の効率的合成戦略として近年注目されている。特に、含窒素芳香族化合物の脱芳香族化反応は、従来では段階的なN-アルキル化などにより構築していた環状脂肪族アミン構造の骨格構築段階を効率化できるため[1]、当該手法を鍵反応としたアルカロイドの全合成研究が多数報告されてきた[2]
Annotinolide A–C(13)は2016年にHuらによってヒカゲノカズラ科植物のLycopodium annotinumから単離されたリコポジウムアルカロイドである(図 1A)[3,4]。これまで、Snyderらによりannotinolide C (3)の全合成は達成されているが[5]、構築難易度の高い小員環と歪んだ七員環ラクトンを含むannotinolide A(1)およびB(2)の合成例はない。小員環を内包した他の類縁体の全合成例として、Wiesnerらによるannotinine(4)の全合成が挙げられる。Wiesnerらは、三環性エナミド5とアレンとの分子間[2+2]光環化付加反応により、4のシクロブタン環の構築に成功している(図 1B)[6,7]。この報告は、分子間[2+2]光環化付加反応により歪みの大きい小員環の構築に成功した好例である。
著者らはキノリンの逐次的脱芳香族化反応と[2+2]光環化付加反応を組み合わせることで、2の初の全合成に成功した(図 1C)。著者らの提案した逆合成解析を次に示す。まず、2はラクトン7の酸化度の調節により合成できると仮定し、7のシクロブタン環と歪んだ七員環ラクトンは、N-アシルジヒドロピリドン8の分子内[2+2]光環化付加により構築できると考えた。次に、8はピリドンアルコール9の酸化的環化により得られるN-アシルピリドンの部分還元により導くこととした。9はキノリン10の光化学的脱芳香族化[8]に続く、ヨードラクトン化およびラクトンの還元により得られると推定した。

図1. (A) リコポジウムアルカロイド (B) Annotinineの全合成 (C) 本研究: Annotinolide Bの全合成

 

Total Synthesis of Annotinolide B via Sequential Quinoline Dearomatization
Duvvuru, B.; Smith, M. W. J. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 39042−39046.
DOI: 10.1021/jacs.5c14142

論文著者の紹介

研究者: Myles W. Smith (研究室HP)
研究者の経歴:
2015                                                    Ph.D., Columbia University, USA (Prof. Scott A. Snyder)
2015–2019                                       Postdoc, The Scripps Research Institute, USA (Prof. Phil S. Baran)
Postdoc, Stanford University, USA (Prof. Noah Z. Burns)
2019–                                                  Assistant Professor, University of Texas Southwestern Medical Center, USA
研究内容:薬理活性のある複雑分子の合成、不斉触媒の開発

論文の概要

2の合成経路を以下に示す(図 2)。まず、ヒドロキノリン11を三工程で脱芳香族化反応の前駆体10とした後、イリジウム光触媒による還元的脱芳香族化により、ジヒドロキノリン12を得た[8]。次に、12のヨードラクトン化と続く脱ヨウ素化によりラクトン13とした後に、ラクトンの還元と二級ヒドロキシ基をTESエーテルとすることでピリドンアルコール9を得た。その後、9の酸化的環化と部分的還元を含む四工程でA環を構築し、N-アシルジヒドロピリドン14とした。
14の[2+2]光環化付加反応を検討した。まず、メタクリル酸メチルとの分子間環化反応を試みたが、所望の立体選択性は発現せず、a面で反応したシクロブタン15を与えた。これはメタクリル酸メチルとアキシャル位のヒドロキシ基との立体障害によりb面での反応が阻害されたと考えられる。またこの際、位置選択性も期待したものとは逆になった。そこで著者らは、アキシャル位のヒドロキシ基にメタクリル酸を導入し、分子内[2+2]光環化付加によりシクロブタンとラクトンを一挙に構築することで、位置および立体選択性の課題を克服できると考えた。実際に、14とメタクリル酸とのYamaguchiエステル化により8を合成し、分子内[2+2]光環化付加を試みたが、所望の環化付加反応は進行しなかった[9]。これは、エステルテザーが構造的に剛直で柔軟性に乏しいため、シクロブタンおよび歪んだ七員環ラクトンの同時形成が困難であったためと考察した。
これらの結果を踏まえ、炭素よりも長い結合長を有し、容易に除去可能なシリルテザーを用いることで、環化時の歪みを緩和し、環化付加反応を促進できると考えた。そこで、b-シリルアクリル酸メチルを用いて14を二置換アクリレート16へと導き、分子内[2+2]光環化付加反応条件に付したところ、所望のシクロブタン17を与えた。続いて、17のラクタムの還元およびシリル基の除去を経てアミン18へ変換した。最後に、18からLDAにより調製した19に対しヨウ化メチルを作用させることで、C15位のメチル化が進行しアルコキシド20となったのち、続くラクトン環形成が一挙に進行し、annotinolide B (2)が得られた。

図2. (A) Annotinolide Bの全合成

以上、キノリンの逐次的脱芳香族化と分子内[2+2]光環化付加反応を鍵とするannotinolide Bの全合成が報告された。歪みの大きい骨格を段階的に構築していく本戦略は他の縮環構造を持つ天然物への応用が期待される。

参考文献

  1. Kim, A. N.; Ngamnithiporn, A.; Du, E.; Stoltz, B. M. Recent Advances in the Total Synthesis of the Tetrahydroisoquinoline Alkaloids (2002–2020). Chem. Rev. 2023, 123, 9447–9496. DOI: 10.1021/acs.chemrev.3c00054
  2. Knight, B. J.; Grigolo, T. A.; Tolchin, Z. A.; Smith, J. M. Azine Dearomatization in Natural Product Total Synthesis. Chem. Eur. J. 2025, 31, e202402413. DOI: 10.1002/chem.202402413
  3. Zhang, Z.-J.; Jiang, S.; Zhao, Q.-S. The Chemistry and Biology of Lycopodium Chem. Biodivers. 2024, 21, e202400954. DOI: 10.1002/cbdv.202400954
  4. Tang, Y.; Xiong, J.; Zhang, J.-J.; Wang, W.; Zhang, H.-Y.; Hu, J.-F. Annotinolides A–C, Three Lycopodane-Derived 8,5-Lactones with Polycyclic Skeletons from Lycopodium annotinum. Org. Lett. 2016, 18, 4376–4379. DOI: 10.1021/acs.orglett.6b02132
  5. Qu, P.; Snyder, S. A. Concise and Stereoselective Total Syntheses of Annotinolides C, D, and E. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 11951–11956. DOI: 10.1021/jacs.1c05942
  6. Wiesner, K.; Poon, L.; Jirkovský, I.; Fishman, M. The Total Synthesis of Optically Active A Can. J. Chem. 1969, 47, 433–444. DOI: 10.1139/v69-063
  7. (a) Peitsinis, Z.; Trauner, D. Synthetic Efforts toward Lannotinidine G based on an Aziridinium-Mediated Ring Contraction and Dienyne Metathesis. Org. Lett. 2024, 26, 3184–3188. DOI: 10.1021/acs.orglett.4c00791 (b) Manasi, R.; Yang, J. K.; Rangel, L.; Pfitzer, C.; Farias, P.; Carta, V.; Kou, K. G. M. A Short Synthesis of the Tricyclic Core Common to Lycopodine-Like Lycopodium Alkaloids: Discovery of a Separable Pair of Keto-Enol Tautomers. Org. Lett. 2025, 27, 7827–7832. DOI: 10.1021/acs.orglett.5c02091
  8. (a) Hu, C.; Vo, C.; Merchant, R. R.; Chen, S.-J.; Hughes, J. M. E.; Peters, B. K.; Qin, T. Uncanonical Semireduction of Quinolines and Isoquinolines via Regioselective HAT-Promoted Hydrogenation. J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 25–31. DOI: 10.1021/jacs.2c11664 (b) Liu, D.-H.; Nagashima, K.; Liang, H.; Yue, X.-L.; Chu, Y.-P.; Chen, S.; Ma, J. Chemoselective Quinoline and Isoquinoline Reduction by Energy Transfer Catalysis Enabled Hydrogen Atom Transfer. Angew. Chem., Int. Ed. 2023, 62, e202312203. DOI: 10.1002/anie.202312203
  9. Fernandes, R. A.; Chavan, V. P. A 12-membered to a Strained 11-membered Ring: First Stereoselective Total Synthesis of (−)-Asteriscunolide Chem. Commun. 2013, 49, 3354–3356. DOI: 10.1039/c3cc00316g

 

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