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スポットライトリサーチ

光触媒による高効率なCO2還元の実現―まさかの光を弱く当てることが重要だった―

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第709回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 理学院(前田研究室)博士後期課程2年の仲田竜一 さんにお願いしました。

今回ご紹介するのは、光触媒によるCO2変換に関する研究です。

CO2を光エネルギーによって有用な化学物質へ変換する「人工光合成」では、分子触媒と半導体を組み合わせたハイブリッド光触媒が有望視されています。しかし、これらの触媒系では低反応効率となることが報告されており、その根本的な原因は理解されていませんでした。今回ご紹介するのは、ハイブリッド光触媒のCO2還元反応における低効率の要因を実験的に明らかにされたという報告です。低効率の要因を抑えた反応条件を設計することで、CO2からギ酸への高効率変換を実証されました。本成果は、J. Am. Chem. Soc. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されており、supplemetary coverにも選出されています。

Elucidating the Origin of Hidden Limitations in Ru-Complex/Ag/Polymeric Carbon Nitride Hybrid Photocatalysts for Visible-Light CO2 Reduction
Nakada, R.; Nagao, R.; Onodera, J.; Zhang, X.; Oura, M.; Okazaki, M.; Tanaka, T.; Koda, R.; Tanaka, M.; Onda, K.; Maeda, K., J. Am. Chem. Soc., 2026, 148, 10924–10933. DOI: 10.1021/jacs.5c21374

研究を指導されている前田和彦 教授から、仲田さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

やれAIだの何だのといくら綺麗事を並べても、実験科学で最も重要なのは実験量だというのが、頭の古い私の基本的な考えです。y = axの単純な一次関数で成果(y)を考えれば、多少実験の質が悪くても(係数aが小さくても)、実験量(x)が圧倒的ならば大きな成果になりますよね。仲田くんはまさに、このxが圧倒的に大きい学生です(aの大小については言及していませんのであしからず)。今回紹介していただく研究成果は、仲田くんが出した膨大な実験データから、AIなどの助けを借りることなく彼が自分の頭で考えて仮説を立て、CO2還元用の錯体/半導体ハイブリッド光触媒開発の上位概念を導き出したものになります。仲田くんは修士1年次に現在の東京科学大学に進学し、3年以上同テーマで研究を続けています。それだけに抱え込んでいるデータは膨大です。この先、さらに面白い成果が出てくるはずなので、この先も仲田くんの活躍にご注目ください。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

私の所属する研究室では、可視光を使ってCO2を有用な物質へと変換する「人工光合成」を目指した光触媒の研究を行っています。特に、光を吸収して酸化反応を担う半導体と、CO2を選択的に還元する金属錯体(主にRu錯体)を組み合わせた複合光触媒の研究に精力的に取り組んでいます。半導体の強い光酸化力と、金属錯体の高い選択性という、それぞれの長所を取り入れている系です。

今回注目したのは、Agナノ粒子を担持したポリマー状窒化炭素(PCN)にRu錯体を吸着させた複合光触媒「Ru錯体/Ag/PCN」です。Ru錯体/Ag/PCNの反応機構について説明します。まずPCNが光吸収することで正孔と電子を生成し、正孔が酸化反応により消費されます。次にPCN上のAgナノ粒子を介してRu錯体へと電子移動します。そしてRu錯体上でCO2還元反応が進行して、反応が完結します。この複合光触媒はすでにCO2還元に活性があることが報告されていましたが、反応効率の指標であるみかけの量子収率(AQY)(照射した光子数に対してどれだけ反応が進んだかを示す割合)が5〜6%程度と低く、その原因も明らかになっていませんでした。

本研究では、この「AQYが低い原因」を突き止めることと、それを改善することの両方を達成しました。実験の結果、CO2還元反応中にRu錯体自身が光を吸収して構造変化を起こす「光配位子置換反応」が進行していることを特定しました。この反応は光強度が高いほど、照射時間が長いほど起こりやすく、これが効率低下の主因でした。そこで光強度を抑え、代わりにRu錯体の量を増やして反応させたところ、AQYで27.7%を達成しました(図1)。

本研究は、従来重要視されていなかった光触媒反応で進行していた光配位子置換反応の抑制の重要性を示しています。金属錯体触媒の直接的な光励起をより抑制することで、現在報告されている活性を大幅に凌駕する可能性があります。

図1. Ru錯体/Ag/PCN複合光触媒によるCO2還元反応及び光配位子置換反応の様子

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

研究を進める中で「問い」が変わった経験が、この研究の一番の工夫につながっています。当初は、光強度の反応次数を調べることに主眼を置いていました(詳細は私の前の論文をご覧いただけると幸いです URL;https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/se/d4se01488j)。今回2,2’-ビピリジン配位子に別の官能基を導入した、2種類の錯体を用いました(4,4’位にPO3H2;ホスフォン酸とCH2PO3H2;メチルホスフォン酸を導入した2,2’-ビピリジン配位子)。研究を進める途中で、2,2’-ビピリジン配位子にメチルホスフォン酸を持つRu錯体を使った場合に10%以上の見かけの量子収率を記録し、「なぜRu錯体間でこれほど差が出るのか?」という問いが生まれました。一見すると研究の目的が変わったように見えますが、どちらの問いも根底は同じで、「複合光触媒の活性を上げるために何をすべきか」を明らかにすることです。研究中、実験がうまくいかなかったり方向が変わったりするたびに「自分はどこを目指しているのか」と迷うことがありました。「適宜目標や結論を変える柔軟性を持つことの重要性」というのがこの研究をまとめる上で、自分なりに本研究から学んだことです。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

2つあります。1つ目は、実験上のキャラクタリゼーションの難しさです。今回使用したRu錯体は、CO2還元に用いる有機溶媒に浸すだけで、光を当てる前から触媒の構造変化を示すシグナル(赤外吸収スペクトルのCO伸縮振動)がずれてしまうことがわかりました。論文本体のFigure 1を作成する過程で、光照射の前後でシグナルが大きくずれており、「いったい何の構造ができているのか」と長い間悩みました。今思えば、溶媒に浸した場合と浸さない場合を最初から比較する対照実験をきちんとやれば早期に解決できた話です。ただ、何の反応が起きているかを特定できたときは、それだけに喜びもひとしおでした。原因については現時点でも完全には解明されておらず、今後の課題として残っています。

2つ目は、研究を続けるモチベーションの維持です。「この研究から本当に有用な知見が得られるのだろうか」という問いは、研究期間を通じてずっと頭から離れませんでした。そんなときに自分なりに心がけたのは、「キャパオーバーにならない程度に、とにかく手を動かし続ける」ことです。今回ぶつかった壁は、どちらも最終的には実験を続けることで突破口が見えてきました。考えすぎて立ち止まるより、まず動いて結果を見る——それが自分の性分に合っていましたし、「結果を見ないことには何が起きているかわからない」と割り切れたことが、前に進む力になりました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

比較的近い将来だと、本研究の知見を基に半導体光触媒やRu錯体の分子設計を練って、さらに活性を上げたいと考えています。やるのなら、とことん高い活性を出してみたいと思います。ゆくゆくは導入したCO2の定量変換を目指しています。他にもこのRu錯体/Ag/PCN複合光触媒ではまだまだ不明な点が多くあります。そう言った不明な点を、自分のできる範囲で解明できたらと思います。

自分の性分ですが、自分自身や自分自身の知識が何か(誰か)の役に立てることに達成感を感じています。そのため社会人になってからですが、民間企業や公的機関などで自分の専門知識や研究の経験を役立てられたらと思います。その点で、自分自身が持っている化学の知識をエネルギー分野や触媒分野で企業の役に立てたり、研究という形で国に還元できたりしたらいいなと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私自身がエラそうなことはあまり言えませんが、本研究を進める過程で学んだことが1点あります。

それは、「得られた結果と真正面から向き合うこと」の重要性です。人間は色眼鏡をかけてしまうと、どうしてもよいデータ、悪いデータと解釈してしまいます(たとえば触媒活性の大小など)。ですが、一見悪いと見えるデータも、「何が起きているのか」を解き明かす上で重要な手がかりが隠されていることもあります。そのため、「悪いデータだから」と投げやりにならずに、「起きている事象は何だろう?」と見つめなおしてもらえると、見える視点が変わってくるかもしれません。

たとえば私たちの今回の論文では2種類のRu錯体を使い、片方のRu錯体(ホスフォン酸の方)では活性がさほど高くありませんでした。ですが、光触媒反応後の複合光触媒のキャラクタリゼーションをしたところ(具体的にはFT-IRの測定)、2種類の錯体でCO伸縮の顕著な差が表れていました。そこから私なりに「仮説を立てて、何が起きているのかを調べる」という作業を繰り返した結果、「光配位子置換反応が起きているのではないか」と考えるに至り、見事ヒットしました。私自身、実験ばかりしており後回しにしがちでしたが、腰を据えてしっかりと向き合って考え、大量の仮説検証をすることが研究の本質だと思います。起きていることは、些細なことであっても極力拾い上げて、「何故だろう?何が起きているのだろう?何をしたらわかるのだろう?」と思考や格闘していけたらと思います。

本研究でご指導ご鞭撻をいただきました、前田和彦教授、岡崎めぐみ助教、共同研究先の恩田健教授に厚く御礼申し上げます。日ごろから熱心にディスカッションに付き合っていただいたり、サンプル提供および測定の協力をしていただいた論文の連名および研究室の学生の皆様にも感謝申し上げます。自分一人だけでは今回の結果をまとめ上げることはできませんでした。様々な点で協力をいただいたおかげです。また、私にお声がけくだったケムステスタッフの方にも深く感謝いたします。

最後に、私のような泥臭いタイプの学生でも、地道に実験と向き合い続けることで成果を出せる可能性があると、少しでも皆様への参考や励みになれば幸甚の至りです。

研究者の略歴


名前:仲田 竜一 (なかだ りゅういち)
所属:東京科学大学 理学院 化学系 前田研究室 (博士2年)
略歴:
2015年 4月―2018年 3月 群馬県立太田高等学校
2019年 4月―2023年 3月 法政大学 生命科学部 環境応用化学科
2023年 4月―2024年 9月 東京工業大学 理学院 化学系 修士課程 (前田研究室)
2024年 10月―2025年 3月 東京科学大学 理学院 化学系 修士課程 (前田研究室) (大学名の変更)
2025年 4月―現在 東京科学大学 理学院 化学系 博士課程 (前田研究室)

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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