[スポンサーリンク]

一般的な話題

ご注文は海外大学院ですか?〜渡航編〜

[スポンサーリンク]

渡航準備に悩殺されてしまい前回から日が空いてしまいました.準備編出願編に続いて今回の渡航編で最終回です.この記事では出願後に合格がもらえ,渡米に至るまでの一般的な手続きを紹介します.今回も大体時系列に書いていきますが,それぞれのイベントが起こる時期が人によってまちまちで,一般化しづらいので見出しはイベントごとにしてあります.

 

面接

2015-06-10_08-09-46

大学によって実施しない場合があります.実施する場合は12月から遅くても2月中に大学に呼び出される(だいたい渡航費は負担してくれます)もしくはSkype面接があります.聞かれることは

大学院に合格したらどんな研究がしたいのか

現在どんな研究をしているのか(+研究に絡んだちょっとした質問)

他にどの大学院に出願しているのか

など,当たり障りのないことです.聞かれることが決まっているのである程度答えを用意しておくとスムーズにいくと思います.面接のかわりに教授から直で(アポなしのこともあり)電話がかかってくることもあります.知らない番号や非通知の電話でも受ける心づもりをしておきましょう.面接ない場合は別途と合格通知のメールだけきます.なんとも味気ない.

 

合格通知

通知時期はまちまちです.優秀だと判断された学生から連絡をしていくので早い人では12月末あたりから(出願締め切りが終わってないのに!)通知が届き始めます.遅いところだと4月頭に補欠繰り上がり合格で滑り込んだという話も聞いたことがあります.

また,合格の通知方法がちょっと変わっていて仮通知と本通知があります.まずはじめに教授(多くの場合は自分がエッセイに名前を出した教授)から「なんか受かったっぽい(^ω^)」とメールがきます.しかしこの段階では合格確定ではありません.この後1週間くらいの間に事務から学科長のサイン入り合格通知メールが届き,これで晴れて正式合格です(なので個人的に前者のメールの意味が理解できない!).前者のメールだけ受けとって合格を錯覚し,他の大学の合格を全部断るようなことは絶対しないでください.後日教授から「ごめんやっぱ不合格だわテヘペロ」メールが届き,どこにも行くところがなくなったという大事故案件を聞いたことがあります.

 

大学選び

初めから第一志望が決まっていればよいですが,いろいろ調べたり周りの話を聞くうちに迷いが生じてくることもあるでしょう.そんなときの判断基準としてVisitation weekend(名前はいろいろ)を利用しましょう.これは2-3月に合格者を対象として大学が主催し,合格者が大学や研究室に足を運んで様子を知ることのできるイベントです.内容は大学によって異なりますが,教授と会って話したり,一緒にご飯を食べたり,大学院生に話を聞いたりと楽しい内容盛りだくさんです.他の合格者と触れ合うこともできるので情報交換するチャンスでもあります.大学側も優秀な学生に来てもらおうと躍起になっていますので,渡航費や宿泊費が支給されるなど,基本的に大盤振る舞いです.

しかし注意したいのは,国外の学生には案内を出さない大学もあります.留学生は旅費がかさむからでしょう(ケチ!!!).事務の人に聞けば案内を送ってくれます.しかしこのイベント自体,そもそも国外の学生は来ることをあまり想定されてないのかもしれません(筆者は「え?来んの?いいけど,わざわざ日本から?」みたいな対応をされました).

また,渡米するときはESTAを申請しましょう.正直言ってやる意味あんのかと思うのですが,個人情報を入力して,怪しい者じゃないですよという質問に答えればOKです.最後に出てくるフォームを印刷して持って行きましょう.入国審査の時に見せるよう求められます.

多くの大学は4/15を合格を受けるか蹴るかの締め切りにしていますが,どの大学へ行くかなるべく早く決めましょう.最後まで迷っていてぎりぎりに返事をしたら「なんかもう,いっぱいですわ」と言われ,行くところがなくなったという大事故案件を聞いたことがあります(ただし古い情報なので今は違うかも?).

また,大学によっては合格の段階では研究室が決まってないところがあります.入学を断られることはないにしろ,教授側としては熱意のある学生をとりたいでしょうからなるべく返事を早くしたほうが印象が良いでしょう.早い者勝ちで学生を配属する教授もいます.逆にTexas at Austinなどは教授が学生を指定してスポンサーする仕組みらしく,こういった大学ではラボが合格の段階で決まります.

 

VISA

2015-06-10_08-10-04

これが一番面倒臭くて時間がかかります.VISAは日本アメリカ大使館のHPに必要書類から申請方法まで詳しく記載があります.VISAには色々な種類があるのですが,大学院生で留学する場合はF-1 VISAというタイプを取ることになると思います.基本的にはI-20という書類が大学の事務から送られてこないと話が進みません.以下にVISAを申請するに必要なもの(こと)を示します.

DS-160ビザ申請書

ビザ申請料金支払

SEVIS支払証明書

パスポート(有効期限>滞在期間+6ヶ月のもの,ただし協定国へ行く場合は免除される場合があります.アメリカは協定国の一つです.)

顔写真(5 cm四方)

I-20

基本的には大使館のHPに沿って入力していれば問題なく完了します.ご親切にわかりやすい動画まで用意してくれていますので参考にしてください.

面接の予約が激混みで取れないという話を聞いたことがありますが,筆者の場合は予約状況スカスカで前日に予約すれば余裕でした.

渡航準備はいろいろしなくてはいけないことがあり忙しいので計画性が大切です.大学の事務にいつI-20が送られてくる予定なのか確認し,それに合わせて他の準備を進めましょう.筆者の場合は4月中ばに届きましたが,周りの話を聞いていると5月の段階で届いてない人もいるみたいです.

 

予防接種

筆者の場合はこれに関する言及が大学院側からなかったのでよくわからないというのが正直なところですが,多くの大学はいくつか予防接種を受けることを要求してくるそうです.どの予防接種が必要なのかは大学によります.ワクチンの種類によっては2,3回の注射を期間をおいて受ける必要があるため,結構な時間がかかります.どの予防接種が必要なのか,事務からなるべく早く情報をもらって病院に通いはじめましょう.

 

住まい

アメリカの大学院生の間ではルームシェア,シェアハウスは一般的です.場所にもよりますが一人暮らしでアパートを借りるよりも安上がりです.ルームシェアすることが新しい友達をつくるきっかけにもなったり,初めての土地での色々を教えてもらえたりと,持つべきはルームメイトといったところです.しかしたまにクレイジーな奴もいるのでルームメイトがどんな人かきちんと知ってから部屋を決めましょう.ルームメイトを探すには,地方ごとのにちゃんねるweb掲示板があるのでそこに書き込んで探したり,大学のメーリングリスト,ルームメイト募集リストに追加してもらうなどするのが効果的でしょう.これも事務の人に聞けば教えてくれます.

さて,住まいを決めるにあたってまず最初にすることは大学に寮があるか問い合わせることです.寮のクオリティはまちまちで,ひどいところだとアパートの100人住んでいるフロアにキッチンが1個共用のものがあるだけ,なんてところもあるそうです.また1人部屋は数が限られており,早いもの勝ちの時もあるので早めに確認しましょう.いずれにしろはじめの1年は寮に入って同じ大学の友達をつくり,その土地の様子を伺ってから2年目以降の住まいをどうするか考えることをお勧めします.

大学に寮がない場合はちょっと面倒です.アメリカで家を借りるにはSocial Security Numberなる,個々人の識別番号のようなものが必要なのですが,普通の人はこんなもの持ってません.この場合は誰か現地にいる人とルームシェアをし,Social Security Numberが発行されるまではその人名義での賃貸にしてもらうしかありません.

渡米まで急いでいて渡米前に家が見つからなかった場合はホテルを転々としている人も結構いるそうです.でもそこまでするなら研究室の居室に寝泊まり道具くらいあるはずでしょうからラボに泊めてもらえばいいですよね.え?ラボ泊なさらない?!

 

保険

2015-06-10_08-11-05

アメリカへ留学する場合は保険への加入が必須になります.大学によってはどこの保険会社でないとだめだとか,大学がまとめて申し込んどくから心配しなくて大丈夫だとか,事情が様々なようなので早め事務に確認しましょう.AIUなどはweb申込みが可能な上に,英語の仮certificateは即時発行,本certificateは1週間以内に郵送してくれるので万が一忘れていた場合でも素早い対応をしてくれます.

アメリカの医療費はバカ高です.なれぬ風土,食事で病気になることも少なくないでしょうし,万が一向こうで事故にあったら大変です.多少高くてもしっかりした保険に入っておくことを強くお勧めします.

 

研究室前入り

学期が始まるのは9月からですが(8月からオリエンテーションがある場合もあります)教授との交渉次第ではその前から研究室に行ける場合があります.所属研究室が合格の段階で未定な場合は早めから研究室に入れてもらい,自分を売り込みましょう.単にベンチがないからという理由で断られることなどもあるので,前入りを拒否されてもへこむ必要はありません.

ここで1つ注意したいのが9月より前の身分がどうなるのかです.研究室に入っている以上,労働扱いで給料が出でるのか,出ないのか.前者の場合はVISAの有効期限が早まるのか確認が必要です.後者の場合はVisiting Student(もしくはただのemployee)からGraduate Studentへ,9月前に登録変更が必要かもしれません.いずれにしろ事務にきちんと確認しましょう.VISAがまだ有効でないのに実験していては不法滞在になってしまいます.

 

おわりに

ここまでつらつらときて矛盾するようなことを書きますが,大学院留学は必須ではありません.分野にもよりますが日本の化学は世界レベルで見てトップクラスです.実験設備も日本の研究室のそれは海外の研究室に比べて圧倒的に充実しています.意気揚々と留学したはいいが思ったよりたいしたことなかった,満足に実験ができなかったという話をよく聞きます.過度な期待は禁物です.

一番大切なのは目的意識だと思います.”留学そのもの”にあこがれるのではなく,この化学をやりたいからこの研究室に行くんだ!それがたまたま海外だった,というのが理想的です.その目的意識をはっきり持てば,日本にも素晴らしい研究室がたくさんあることがすぐにわかると思います.

いずれにせよ,留学する手続きやテストのめんどくささで法隆寺が建つくらいめんどくさいのでこの記事を書きました.これを読んだ方々の留学準備が少しでもスムーズにいくことを願っています.

 

関連書籍

[amazonjs asin=”B00NM9TTIA” locale=”JP” title=”留学ジャーナル別冊2015-2016「海外の大学・大学院留学完全ガイド」”][amazonjs asin=”4757418566″ locale=”JP” title=”理系大学院留学―アメリカで実現する研究者への道 (留学応援シリーズ)”]

関連記事

  1. 製薬会社のテレビCMがステキです
  2. 吉野彰氏が2021年10月度「私の履歴書」を連載。
  3. 有機合成化学協会誌2018年2月号:全アリール置換芳香族化合物・…
  4. 合成小分子と光の力で細胞内蛋白質の局在を自在に操る!
  5. 芳香族求核置換反応で18Fを導入する
  6. ハイブリッド触媒系で複雑なシリルエノールエーテルをつくる!
  7. 結晶格子の柔軟性制御によって水に強い有機半導体をつくる
  8. 目指せ化学者墓マイラー

注目情報

ピックアップ記事

  1. カルベン転移反応 ~フラスコ内での反応を生体内へ~
  2. 「次世代医療を目指した細胞間コミュニケーションのエンジニアリング」ETH Zurich、Martin Fussenegger研より
  3. 学振申請書を磨き上げるポイント ~自己評価欄 編(前編)~
  4. 病理学的知見にもとづく化学物質の有害性評価
  5. 2007年文化勲章・文化功労者決定
  6. アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-:関東化学
  7. 産総研 地質標本館
  8. 芳香族求核置換反応で18Fを導入する
  9. 平尾一郎 Ichiro Hirao
  10. 有機レドックスフロー電池 (ORFB)の新展開:オリゴマー活物質の利用

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP