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ゲームを研究に応用? タンパク質の構造計算ゲーム「Foldit」

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画像はhttp://fold.it/portal/より転載

実験科学としてのイメージの強い化学ですが、未知分子の構造予測や、反応の遷移状態の推定には「計算化学」の力が不可欠です。巨大なスーパーコンピュータを使ってゴリゴリと量子化学計算をすることの多い計算化学ですが、最近この分野に、全く新しいアプローチが登場しました。

タンパク質分子の生体内での立体構造を予測することは、創薬等に直接応用できる重要な計算化学のテーマです。以前この「化学者のつぶやき」でも紹介したことがありましたが【記事:ゲームプレイヤーがNatureの論文をゲット!?】、ワシントン大学のDavid Baker研究室は、このタンパク質構造の最適化問題をコンピュータで解くのではなく、ネット上にいるゲーマーたちの力で解いてもらうという、タンパク質構造予測ゲーム「Foldit」を開発しました。

 

筆者はよくWindows付属の「マインスイーパー」で1日を潰してしまうことがあり、「ああ、この集中力を研究に応用できないものか」と自己嫌悪に浸っていたものですが、それを地でいったのがこの「Foldit」となります。

foldit_playing2.png

「Foldit」プレイ画面

タンパク質の立体構造は、内部での水素結合、疎水性結合など多くの力の相互作用で決まりますが、このゲームではそれらを分かりやすく色分けし、生化学の専門知識が無い人でもプレイできるようになっています。出来た構造はサーバーにアップロードます。他プレイヤーのデータを引き継いでプレイすることも可能です。

筆者も勉強の一環として2~3時間ほどプレイしてみましたが、パズルゲームとしては今一歩足りないものがある、という印象でした(苦笑)。研究用ゲームという都合上、プレイヤーがある程度正解に近づくと、残りはコンピュータが勝手に解いてしまうからです。大雑把な骨組みづくりは人間の洞察力や想像力が有効でも、細かい調整はやはりコンピュータのほうが得意なのでしょう。

さてこの斬新な発想のゲーム、決してよくある「ジョーク研究」ではありませんでした。タンパク質の構造予測コンテスト「CASP9」で、他のスーパーコンピュータによる計算結果を押しのけて1位を獲得したり、10年以上にわたって未知だったAIDS関連のタンパク質M-PMV PRの構造を3週間のプレイ期間で解いてしまったりと、実際の研究に数多くの貢献しています。

なぜ大型コンピュータに出来ないことが、専門家でもないゲーマーに出来るのでしょうか。開発者らによると、コンピュータは計算の途中で頻繁に「local minimum」と呼ばれるトラップに陥ってしまうことが多いのですが、人間のプレイヤーの洞察力が、そこから脱出する「トンネル」を作ってくれる、ということです。あくまで主役はコンピュータのようですね。

科学の難問をゲームで解いたということは、一般のニュースでも話題になりました。「科学者が10年以上解けなかった難問を、ゲーマーが3週間で解いてしまった」などのセンセーショナルな見だしが目立ちましたが、実際は10年以上にわたる科学者たちの努力と、ゲーマーの洞察力をコラボした成果だと言ったほうがいいでしょう。

インターネットが普及し、最近はtwitterやfacebookの流行で「ソーシャルの時代」と言われていますが、こういった新しい社会のツールがどのように科学の世界に取り入れられていくのか、今後の展開に注目したいところです。

関連文献(両文献ともしっかりと著者名にFoldit players, Foldit Contenders Group, Foldit Void Crushers Groupとある)

foldit4.png

Nature 2010, 466, 756. DOI: 10.1038/nature09304

foldit3.png

Nat. Struct Mol Biol, 2011, 18, 1175 DOI:10.1038/nsmb.2119

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湯葉

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修士課程の学生です。proteinの研究をしています。筋トレの研究はしていません。好きな食べ物は納豆です。

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