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スポットライトリサーチ

アンモニウム構造によりラジカル種の発生位置を完全に制御!

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第710回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の榊原 陽太(さかきばら ようた)先生にお願いしました!

今回ご紹介する研究は、アルキルアミン化合物のγ位(窒素から数えて3番目の炭素)上のC-H結合を選択的に開裂し、様々な置換基で修飾する新規反応です。村上研究室で精力的に研究しているアンモニウム塩の化学がとても綺麗に使われた反応で、幅広い基質適用範囲と各基質に最適化された反応条件は、並大抵の努力ではないことがよくわかります。百聞は一見にしかずということで、皆さん是非、以下の原著論文をご一読下さい。

この研究成果は、「Nat. Synth.」誌に掲載され、プレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Taming distonic radical cations for precise γ-C–H functionalization of alkylamines

Takumi Kinoshita, Kazuki Hirate, Kosuke Hamawaki, Shoma Chiba, Kosuke Terada, Yota Sakakibara, and Kei Murakami

Nat. Synth. 2026 (ASAP).

DOI: 10.1038/s44160-026-01042-3

本テーマを指揮されたと、研究室を主宰されている村上 慧 准教授と、

今回はなんと、いつもとは逆に榊原先生が指導していた学生たちから、榊原先生へたくさんのコメントを頂戴いたしました!

村上慧先生

我々の研究を取り上げていただくのは3回目になります(ありがとうございます!)。その3つの研究のいずれにも榊原くんが中心にいます。私が勝手に榊原三部作と位置付けていますが、一つ目の研究(J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 1554)は学生として、二つ目(Chem 2025, 11, 102366)はポスドク(先輩)として、そして今回は教員として発表した論文になります。

このテーマは2022年に開始してから、論文の公開まで4年近い時間がかかっています。その間に彼が、チームをまとめながら構想を具現化し、研究者として、そして教員として成長していく様を近くで見ることができました。全ての結果は彼と学生たちの頑張りによるものであり、信頼できるメンバーと一緒に研究できた幸運に感謝しています。

実は数年前から、この研究をハイライトいただけた際には、榊原くんが指導した学生からのコメントを入れたいと思っていました。彼の優秀さや人柄については、私からこれ以上言うことはありません。学生から慕われている彼の一面が伝わればと願っています。ケムステの運営の皆様にも快諾いただきましたので、以下ご覧ください。

木之下拓海さん

榊原さんは、化学に対する熱量が誰よりも高く、そしてとても面倒見の良い方です。私がB4で研究室に配属された当時、榊原さんはD3の学生で、それ以来、最も近い立場でその研究姿勢に触れてきました。

当時の村上研究室は、B4が7人、博士課程の学生が4人という、今振り返ってもかなり変わった構成でしたが、榊原さんはその頃から中心に立ち、学生をまとめながらラボを牽引していました。日付が変わるまで研究の議論をしたり、B4だった私にも「最近こんな反応を思いついた」と楽しそうに話してくださったりしたことを、今でもよく覚えています。

時が経ち、研究室の規模も少しずつ大きくなってきましたが、榊原さんが学生を第一に考えてくださる姿勢は今も変わりません。忙しい時期でも、相談したいことや話したいことがあれば親身になって聞いてくださいます。実は私も、「榊原さんに話してみれば、自分では思ってもみなかった価値を見出してくれるかもしれない」と思って、さっき思いついたばかりで粗い研究のアイデアを気軽に話すことが多々あります(笑)。一方で、化学では非常に頼もしいですが、地理が全くできないので地図関連の話題でよくいじられている一面もあります(笑)。それくらい親しみやすく、学生・教員を問わず研究室内外から慕われています。

そのような人柄と、研究に対する真摯な姿勢を間近で見てきたからこそ、村上先生があの日おっしゃっていた「榊原は間違いなく日本トップレベルの化学者になる」という言葉は、決して誇張ではなかったのだと実感しています。榊原さんの存在は、研究室全体にとっても非常に大きなものだと日々感じています。

千葉 将真さん

榊原さんは本当に親しみやすく、多彩な面で頼りになる方です。圧倒的な研究力はもちろん、それ以外にもいろいろなことをそつなくこなしていて、まさに万能な存在です。地理ができないことなんて全く気になりません。研究発表の前には、学生の原稿に加えてスライドまで丁寧に添削してくださり、どれも驚くほど見やすくおしゃれで、さすがホームページデザイナーだと毎回感じます。近年は学生も増え、タスクもさらに多くなっているはずなのに、すべてを高い質でこなしているので、要領が良すぎて「いったいいつ寝ているんだろう」と思うことも多々ありました。さらにイベントでは場を盛り上げ、歌もうまく、ソフトボールやボウリングまで強いので、いろいろな面で尊敬できる、まさにみんなの中心的な存在です。

濱脇 康佑さん

「村上さんを一番にしたい。」これは村上研に入った当時、榊原さんから聞いた言葉です。村上研に在籍した3年間、僕自身がその言葉に感化され、研究と向き合うことができました。気持ちを切らさずに頑張れたのも、熱い志を持った榊原さんの存在があってこそだと思っています。村上研は卒業しましたが、これからも人生の先輩として、様々な経験を生かしたアドバイスをいただけると嬉しいです笑

飲みにもつれて行ってください!!

平手 和希さん

榊原さんには、研究面だけでなく人としても本当に多くのことを学ばせていただきました。研究発表の添削や日々の議論はもちろん、時には個人的な恋愛相談にまで乗っていただき、本当にお世話になりました。榊原さんがいなければ、僕は博士課程への進学を決断していなかったと思います。常に熱い姿勢で研究に向き合う姿に刺激を受け、ここまで成長することができました。これまで育てていただいた恩返しを、これからは研究成果で返していきたいです。これからもたくさんご迷惑をおかけすると思いますが、人生の先輩として引き続きよろしくお願いします!

それでは榊原先生のインタビューをお楽しみ下さい!

【Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?】

第三級アルキルアミンは、医薬品や農薬に広く含まれる重要な構造であり、関連する分子のおよそ26%に含まれています。そのため、この構造をもつ分子のC–H結合を直接変換できれば、医農薬分子の後期段階修飾が可能となり、新たな機能をもつ化合物の創出を大きく加速できます。しかし、既存の第三級アルキルアミン構造のC–H官能基化反応は、カチオンやアニオン、ラジカルといった活性種を比較的発生させやすい窒素原子の a位を官能基化するものがほとんどであり、窒素原子の遠隔位に存在するC–H結合の選択的な変換は長らく難しい課題とされてきました。

このような背景の中、本研究では第三級アルキルアミン構造を一度、ハロメチルアンモニウム構造へと変換し、ここから発生させたa-アンモニオラジカルという活性種が引き起こす分子内1,5-HATを利用することで、窒素原子の  g位C–H結合を選択的に官能基化することに成功しました。本手法の鍵となるa-アンモニオラジカルは、対応するC–H結合の結合解離エネルギーが106 kcal mol⁻¹であり、高い反応性を示します。さらに、かさ高いアンモニウム構造に由来するThorpe–Ingold効果によって、望ましくない分子間での水素原子移動が抑えられ、高い位置選択性が実現しました。その結果、g位のC–H結合が1級、2級、3級のいずれであっても、高い選択性で官能基化できることを明らかにしました。また、 g位に生じたラジカル種に対しチオエーテル基やアミノ基、アルキル基、ヘテロアリール基など様々な官能基を導入可能であり、この手法を利用して複雑な構造をもつ医薬品分子の後期段階修飾も達成しました。

図 1. 今回開発した反応の戦略と実際に合成した医薬品誘導体

 

【Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください】

一番印象に残っているのは、g位の官能基化の後にワンポットでアンモニウム部位の脱メチル化を行うことができる条件を発見したことです。第三級アルキルアミンの官能基化法としてこの研究を成立させるためには、官能基化の後にアンモニウム塩を簡便かつ効率よく第三級アルキルアミンへ戻せることが重要だと考えていました。そのため、この変換条件の検討には特に力を入れました。検討の初期段階では、なかなかうまくメチル基を外すことができず苦労しました。しかし、g位がヨウ素化されたアンモニウム塩に対するSN2反応を調べていた際に、チオールと炭酸セシウムの組み合わせで非常にきれいに脱メチル化が進行することを偶然見いだしました。この発見によって、官能基化から脱メチル化までを一連の流れで進められるようになり、本研究の実用性を大きく高めることができたと感じています。多くの場合、かなり反応が綺麗に進行してくれるので、もしアンモニウム塩の脱メチル化をしたい方がいれば(あまりいないかもしれませんが笑)、是非この条件を試してみてください。

図 2. 脱メチル化条件の発見につながった反応

 

【Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?】

この研究で最も難しかったのは、a-アンモニオラジカルを用いて窒素原子のγ位を選択的に官能基化するという着想を、実際に汎用性のある反応として成立させることでした。アイデア自体は着想した当初から面白いものになるのではないかと感じていましたが、それを本当に使える手法として示すためには、反応条件の最適化、基質適用範囲の検証、さらに反応機構の解明まで、非常に多くの実験が必要でした。

この課題を乗り越えることができたのは、何よりも実験を担当してくれた学生の皆さんの粘り強い努力のおかげです。私が代表してインタビューに答えていますが、実際には共同筆頭著者として、それぞれの反応の最適化、基質適用範囲の調査、メカニズム実験まで膨大な量の実験を進めてくれた木之下拓海くん(博士課程後期課程3年)、平手和希くん(博士課程後期課程2年)、濱脇康佑くん(2024年度修士卒)、千葉将真くん(2024年度修士卒)の貢献があってこそ、この研究は形になりました。また、ヘテロアリール化反応の発見に大きく貢献してくれた寺田昂祐くん(2024年度修士卒)にも大いに助けられました。

最終的には、メインで取り上げているチオエーテル化、アミノ化、アルキル化、ヘテロアリール化に加えて、遷移金属触媒と光照射を組み合わせた官能基化やホスフィン、スルフィドのg位官能基化まで盛り込んだ内容盛り盛りの論文が出来上がっていました(気付いたらSIのページ数は274ページになっていました。)。私自身は思いついたことをあーだこーだと言って無茶振りしていただけで、それを実現してくれた学生さんたちに本当に助けられました。

【Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?】

二年前にスポットライトリサーチで取り上げて頂いた際、「自分が感じている化学の面白さを一人でも多くの学生に伝えていければいいなと思っています。」と書きましたが、この気持ちは今も変わっていません。むしろこの二年間で、その気持ちはさらに強くなったように思います。この間に、私と一緒に研究を進めてくれる学生がさらに増え、自主的に勉強会を開いたり、研究の面白さに引き込まれて博士課程への進学を決めたりする学生も出てきました。そのような姿を見るたびに、化学の魅力は知識として教えるだけでなく、実際に研究を通して共有し、共に考え、共に発見する中でこそ深く伝わるのだと感じています。私はこれからも、単に「教員が学生を指導する」という関係にとどまらず、化学の面白さを一緒に楽しみながら新しい発見を目指す仲間として、学生たちと研究を進めていきたいと考えています。そして、そのような頼もしい仲間たちとともに、世の中をあっと驚かせるような新しい化学を生み出していけたらいいなと思っています。

【Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします】

今回も少し宣伝をさせていただきます。関学に村上研が発足してから6年目を迎え、今年度は初めてD3からB4まで全学年が揃い、教員2人を含めて総勢27人の大所帯となりました。研究も順調に進んでおり、今回取り上げっていただいた内容とは違うa-アンモニオラジカルの使い方をした研究(J. Am. Chem. Soc. 2026, in press.)やアンモニウム塩を活用しつつも少し異なる方向性の研究(ChemRxiv 2026 ①.; ChemRxiv 2026 ②)などどんどん論文化を進めているので、これらも合わせて読んで頂けると幸いです。また、相変わらず村上研の学生はノリが良くて(時には良すぎるくらい)面白い子ばかりなので、学会(飲み会)などで出会った時には引き続き仲良くしてあげてください。

最後になりましたが、本研究を遂行してくれた木之下拓海くん(博士課程後期課程3年)、平手和希くん(博士課程後期課程2年)、濱脇康佑くん(2024年度修士卒)、千葉将真くん(2024年度修士卒)、寺田昂祐くん(2024年度修士卒)、そして日頃から自由に研究を進めさせてくださり、多くの的確なご助言をいただいている村上慧教授に深く感謝申し上げます。さらに、メカニズム解明の実験においてご協力いただいた名古屋大学の斎藤進教授、Jieun Jung講師、森彰吾助教にも、この場を借りて心より御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前: 榊原 陽太

所属: 関西学院大学理学部助教

研究テーマ: アンモニウム塩の反応化学を基盤とした新奇含窒素化合物の合成

略歴:

2019年4月〜2022年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)

2022年3月 名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻 博士後期過程修了 (伊丹健一郎 教授)

2022年4月~2023年3月 関西学院大学理工学研究科 博士研究員 (村上慧 准教授)

2023年4月~現在 関西学院大学理学部 助教

左から、村上慧教授、濱脇康佑くん(2024年度修士卒)、平手和希くん(博士課程後期課程2年)、榊原陽太助教、木之下拓海くん(博士課程後期課程3年)、千葉将真くん(2024年度修士卒)、寺田昂祐くん(2024年度修士卒)

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第643回のスポットライトリサーチ「ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法」

関西学院大学理工学研究科 村上研究室

Macy

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有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

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