第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷優樹 先生にお願いしました。現在、亀谷先生は慶応義塾大学 理工学部(緒明研究室)にて助教をされています。
亀谷先生は第156回スポットライトリサーチにもご登場いただいており、今回が2回目となります。
今回ご紹介するのは、新しい種類の共重合体に関する研究です。2 種類以上の異なるモノマーからなる共重合体は、モノマーの組み合わせや組成、結合形式を変えることにより、単独のモノマーからは得られない性質を高分子に持たせます。これまでに様々な共重合体が報告されており、それらはモノマーの配列によって4種類の基本骨格に分類されてきました。本研究では、MOFの細孔を利用することにより、これまでの分類にない、新たな種類の共重合体となる「束状共重合体」の合成を報告されました。本成果は、Nat. Commun. 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。
“Synthesis of bundle copolymers as an emergent class of copolymer architecture”
Kametani, Y.; Yamaguchi, R.; Ando, Y.; Kawasaki, Y.; Uemura, T., Nat. Commun., 2026, 17, 4917. DOI: 10.1038/s41467-026-73978-1
研究室を主宰されている植村卓史 教授(東京大学)から、亀谷先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!
亀谷君は、京都大学の大内先生のもとで学位を取得した後、当ラボに加わり、主に高分子合成に関する研究を牽引してくれました。グループの学生たちと常に和気あいあいと研究を進めていたため、試薬管理や装置トラブルといったラボの課題にもいち早く気づき、責任を持って対応してくれたことが、とても助かりました。彼のメッセージにもある「日々の雑談力」の賜物だと思いますが、一方で、未知との遭遇(外国人や年配の方など)には借りてきた猫のようになる可愛らしさもありましたね。。
また、社会連携講座の一員として、MOFを用いた空調技術の開発にも携わってもらいました。分野や専門の異なる多様な立場の方々から無理難題を突き付けられる場面もありましたが、持ち前のしなやかさで対処する姿が印象的でした。今回の研究も、なかなか着地点が見つからない時期がありましたが、最後にはしっかりとまとめ上げ、成長の証を示してくれました。
この5年間、何かと手厳しいラボで培った経験が、今後の彼の大きな力となることを願っています。緒明研究室でも、さらに視座を高め、本質を追究する仕事を展開されることを期待しています。
Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
一言で言うと、異なる高分子を平行に並べて繋げた新しい共重合体「束状共重合体(bundle copolymer)」を生み出した研究です。
異なるモノマーを一つの分子に組み込んだ高分子である共重合体は、単一モノマーからなる高分子にはない多彩な機能を実現でき、材料として広く利用されています。共重合体はこれまで約70年にわたり「ランダム」「配列制御」「ブロック」「グラフト」という4つの基本骨格を基盤として発展してきており、それぞれの骨格に由来するさまざまな特徴が報告されてきました。一方、高分子がひも状の分子であることを考えると、「異種高分子を束ねたらどうなるんだろう?」という疑問が自然に浮かびます。異なる特性をもつ高分子鎖を並べて束ねた共重合体ができれば、それぞれの鎖の性質が密接に影響し合い、これまでの共重合体にはない特性の発現が期待されます。しかし、溶液中で自由に動き回る高分子鎖を整列させて束ねることは容易ではありません。これまでの束状高分子の合成は、剛直な骨格や密な架橋などの特殊な構造を利用したものに限られており、ブロック共重合体やグラフト共重合体を構成するような一般的な高分子鎖を束ねた「束状共重合体」を合成することは困難でした。
そこで私たちは、金属有機構造体(MOF)の一次元ナノ細孔を鋳型として利用することで、束状共重合体を合成しました。図1に示すように、モノマーがついた高分子AをMOFの細孔内に導入し、さらにモノマーBを導入して細孔内で重合を行いました。細孔内に閉じ込められて引き伸ばされた高分子Aに沿って高分子Bが生成することで、高分子Aと高分子Bが束ねられた高分子、束状共重合体が得られました。具体的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなる「PDMS-bundle-PMMA」、およびPDMSとポリスチレン(PS)からなる「PDMS-bundle-PS」を合成しました。これらの構成要素は、それぞれシリコーンオイル、アクリル樹脂、スチロール樹脂の主成分として広く利用されている身近な高分子です。

図1 本研究の概要:MOFの一次元細孔を利用した束状共重合体の合成
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
思い入れの一つ目は、束状共重合体の合成を最も美しい形で示すための分子設計です。特に鍵となったのは、PDMSを組み込んだことでした。本研究では、異なる2本の高分子鎖が束ねられて至近距離にいることを証明するために、NMR(核磁気共鳴)のNOE(核オーバーハウザー効果)を利用しました。このときPDMSのメチル基のシグナルはNMRで他と重ならない0 ppm付近に現れるため、ここに選択的に照射してPMMA由来のシグナルを観測することで鎖間の近接性について明瞭な解析が可能になりました。空間的にごく近接した原子同士しか反映しないこのNOEを鎖間で初めて観測できた瞬間は、本研究を進めてきた上で特に感動した場面の一つです。さらに、PDMSを用いたことにはもう一つ利点がありました。一度形成した束状構造に対し、フッ化物イオンで処理することでPDMS鎖を分解することができたのです。これにより、MOF内重合前の高分子、生成した束状共重合体、そしてPDMSを切断した後に残るPMMAと順番に追跡し、どのような鎖がどのように束ねられていたかを調べることができました。おまけに、PDMS-bundle-PMMAは構造式そのものがシンプルで無駄がなく非常に美しいところもお気に入りポイントです。初めてこの構造式を描いたときには「額縁に入れて部屋に飾りたい」と本気で思いました。

図2 PDMS-bundle-PMMAの1D NOESYスペクトルと、構成要素の解析
二つ目の思い入れは「束状共重合体(bundle copolymer)」という名前です。実は研究を始めた時からこの名前があったわけではなく、当初は新しい形のブロック共重合体として考えていました。最初に合成できた時、「絶対に面白いものができた!」という確信はありましたが、ブロック共重合体の一種として説明しようとすると、どうも地味でしっくりきません。そのためか、自分では面白いと思っていても分野(や感覚)の違う人にはなかなか価値を理解してもらえませんでした。面白いものができて嬉しかった一方で「これをどう表現すれば響くんだ?」と本気で頭を抱え、引くほど悩みました。何か目立った物性を示そうと、なけなしのサンプル量であれこれ試行錯誤していた時期もあります。そんなとき、植村先生から「これは新しい共重合体の分類として位置付けたらどうか」という助言をいただきました。これをきっかけに急いでIUPACの定義を調べてみると、ブロック共重合体(block macromolecules)は「A macromolecule which is composed of blocks in linear sequence.」1と定義されていました。わざわざ「linear sequence」と書かれており、今回のbundle copolymerは見事に外れるではありませんか。この日から新しい共重合体の基本骨格として扱うことに決め、余計な現象論に頼るのをやめて合成とコンセプトだけでまとめる方針に切り替えて「束状共重合体(bundle copolymer)」を提案する論文として発表することができました。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
上述の研究の位置付けをはじめとして、難しかったところは色々ありましたが、このテーマに取り組んだ学生の皆さんが一つ一つ見事に解決してくれました。
最初に「異なる高分子を束ねる」というコンセプトに挑んだのが山口麟太郎くんでした。当初はMOFの細孔内で二回重合を行うアプローチを試していたのですが、慣れ親しんだ溶液中の重合とMOF細孔内での重合はあまりにも勝手が違い、なかなか思い通りにはいきませんでした。そんな中、研究室のセミナーで「1本目の高分子はMOFの外で作ってから細孔に入れればいいのではないか。」という提案がありました。これをきっかけに今回の合成スキームが立ち、一気に研究が進みました。そしてPDMSとPSが束ねられた「PDMS-bundle-PS」が合成できました。
山口くんからバトンを受け取ったのが、安藤優介くんでした。当時のPDMS-bundle-PSは「運が良ければ合成できる」ような状態で、再現性に課題がありました。そこで安藤くんはラジカル開始剤の種類、重合温度、反応容器など、地味ながら重合に重要なパラメータを一つずつ丁寧に詰めて、再現性よくPDMS-bundle-PSを合成できるプロトコルを確立してくれました。合成が安定したことで、架橋間隔による鎖の近接性の制御といった、束状共重合体ならではの特徴を示す実験にも繋がりました。
さらにメンバーに加わった川﨑悠太くんがPDMS-bundle-PMMAを合成しました。モノマーのメタクリル酸メチルがスチレンより沸点が低いため難しい部分もありましたが、加熱方法を見直すなどの工夫でうまく乗り越えてくれました。また、論文のリバイスではTGA、DSC、ナノインデンテーションといった追加測定も大変でしたが、川﨑&安藤ペアが協力し、驚くようなスピード感で進めてくれました。ちなみに現在、川﨑くんはもっと楽しい高分子を束ねようと研究を進めています。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
実は私は、研究室配属の時期まで博士課程の存在すら知らなかったような、なんでもない学生でした。そんな自分がまさかアカデミアの道に進むことになるとは、当時の自分が一番驚いていると思います。振り返ってみると、ここまで研究にのめり込んだのは、最高の先生や、愉快で優秀で変な学生の皆さんと一緒に研究させていただけたことが本当に大きかったと思います。さまざまな考え方や研究との向き合い方に触れるうちに、気づけば私自身も研究の面白さにすっかりハマってしまいました。一人では到底思いつかないようなアイデアや発見が、皆さんとの何気ない会話の中からたくさん生まれてくる、そんな毎日を過ごす中で、やはり研究というものは個人戦ではなく団体戦なのだなと実感しています。これまでとても環境に恵まれてきたからこそ、私は学生の皆さんにも最高の経験を提供できるような大学教員でありたいと思っています。そして自分自身も研究を全力で楽しみ続けていきたいです。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
私から学生の皆さんに一番伝えたいことは「雑談を大切に」ということです。真面目にあれこれ考えて完璧だと思った理論が、翌日には「なんだこれ」となることは日常茶飯事です。限られた時間で集中して行うミーティングも大切ですが、普段の何気ない会話に費やす時間の方がずっと長く、その中で生まれるアイデアは決して侮れません。みんなでわいわい話しているうちに生まれた謎テーマこそ、誰も思いつかないような面白い結果につながることが多いようにも感じています。
あと、まったく科学的ではありませんが「構造式が美しい研究はうまくいく」というジンクスを共有したいと思います。今回の研究ではPDMS-bundle-PMMAの構造式を初めて描いた瞬間「これは絶対うまくいく」と確信しました。美しいと感じる構造式には無理がなく、どこか魅力があります。うまくいかないときには、「どうしたらもっと美しく描けるだろう?」と考えてみるのも意外と悪くありません。もしかすると、美しさを邪魔しているものが本質的な障害になっているかもしれませんから。
最後になりますが、本研究を力強く支えてくださったすべての皆様に、この場を借りて心より感謝申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
研究者の略歴

名前:亀谷 優樹 (かめたに ゆうき)
所属:慶應義塾大学 理工学部 応用化学科
略歴:
2012–2016 京都大学 工学部 工業化学科
2016–2021 京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻
2021–2026 東京大学大学院 工学系研究科 総合研究機構 特任助教
2026–現在 慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 助教
関連リンク
- Block macromoleculesの定義
- 交互に配列制御された高分子合成法の開発と機能開拓 (亀谷先生の過去のスポットライトリサーチ)




























