前回まで
1. 設定温度と系内の実温度のお話
2. 温度値をどう判断するか
3. 反応操作をしなくても、化合物は変化する
4. わざと失敗する実験
5. 水分はどこにあるのか
6.蒸留操作で水はどう動くのか
水と酸素と試薬
有機合成の分野において、水と酸素はセットで厄介者扱いされます。
禁水、禁酸素条件の取り扱いは有機化学者として必須のスキルにすらなります。
これは水と酸素が、多くの試薬、化合物と優先的に反応してしまうからであり、
- 原料が反応して、別の化合物になり、見かけ収率が落ちる
- 試薬と反応して、試薬が失活し、転化率が落ちる
といった弊害を引き起こします。
そのため、反応性の高い、有機金属試薬を用いた反応などでは水と酸素の除去が必要になります。
酸素管理の難易度の高さ
酸素は管理難易度がとても高い物質です。過去記事で水はどこからでも入り込む可能性があると
記載しましたが、酸素はそれ以上に入り込みやすい物質です。
これは酸素がどこにでもありふれていて、定常的に操作する範囲において、
酸素は必ずガスであるからです。
ガスという特性上、浸透性と密閉性という2点から水以上に管理難易度は高い物質です。
まず、浸透性に関してですが
ガラスは浸透性がほぼありませんが、ポリエチレンやシリコンなどはガスを透過します。
そのため、材質によっては酸素が徐々に侵入します。
そして密閉性に関してですが
密閉して気体混入を防止することはかなり難易度が高いです。
接続部のような、わずかな隙間からでも入り込んでしまいます。
ガス体積が減少する冷却操作や減圧操作が含まれる実験ではガスの混入が防ぎきれません。
特にラボ実験はプラントに比べ、
容積に対して接続部が多く、酸素混入リスクが高いです。
そのためラボスケールでは密閉による酸素完全遮断は事実上不可能です。
実務上、密閉するよりも、不活性ガスで微陽圧を維持する方が有効です。
陽圧にすることで入り込んできた酸素を速やかに系外に押し出します。
図1 酸素混入イメージ図と酸素除外イメージ図

酸素は遮断する対象ではなく、入り続ける前提で扱うべき対象なのです。
酸素と保存安定性
酸素は第3報で述べた化合物の安定性に影響を及ぼすキーファクターになります。
酸素は微量ながら酸化反応を引き起こし、
化合物を変質させる(変換させる)要因の一つであり、
次報で述べますがそれが着色要因となります。
その上で水よりもどこからでも入りやすいため、
保存の視点では酸素は最も厄介な化合物となります。
例えば窒素置換した後にサンプル瓶に存在する若干量の酸素が、
長時間の保管には大きく影響する可能性があります。
そのため、原料や製品、場合によっては試薬を保管する時に
酸素を除去すること、酸素のない環境を作ることが重要になります。
これも水分管理の話と同じですが
酸素がどこにどの程度存在するのか把握することがさらに重要なのです。
酸素の管理方法
入り続ける前提で考えると系内の酸素濃度を測定し、管理することが重要であると言えます。
どこに酸素が残存しているか把握するために酸素濃度計などの機器を用います。
系内気相部には酸素濃度計を用います。
また、測定範囲や精度は機器によって大きく異なるため、目的に応じた選定が必要になります。
液相部にも溶存酸素という溶媒に溶け込んだ酸素が存在し、
それが影響を及ぼすケースもあります。
そのため、酸素にセンシティブな化合物を取り扱う際は溶存酸素計で測定します。
溶存酸素は不活性ガスでバブリングし溶存ガスを不活性ガスに置換することで取り除けます。
(バブリング時は強すぎると溶媒がガス同伴し、減少するので注意が必要です。)
まとめ
酸素はガスという性質上、管理難易度が高く、入り続ける前提で取り扱うべき単体です。
そのため反応での影響は少なくとも、保管という視点では大きな影響を及ぼします。
酸素も定量的に把握し、管理すべき物質の一つです。そして難易度の高さゆえ、
どこまで値を把握し、どこまで管理が必要かという視点が、他の物質よりも求められます。

































