中谷 直輝(なかたに なおき)は、日本の理論・計算化学者である。東京都立大学大学院理学研究科化学専攻教授。密度行列繰り込み群(DMRG)をはじめとする高精度電子状態理論の開発と、遷移金属錯体・触媒反応、分子性固体、星間化学、励起状態ダイナミクスへの応用を研究している。第63回ケムステVシンポ講師。
経歴
2005年 京都大学工学部工業化学科 卒業
2007年 京都大学大学院工学研究科 修士課程修了
2010年 京都大学大学院工学研究科 博士後期課程修了、博士(工学)
2010–2011年 京都大学福井謙一記念研究センター 日本学術振興会特別研究員PD・特定研究員
2011年 Cornell University 博士研究員
2012–2013年 Princeton University 博士研究員
2013–2016年 北海道大学触媒化学研究センター/触媒科学研究所 特任助教・助教
2017–2023年 首都大学東京/東京都立大学大学院理学研究科 准教授
2023年- 東京都立大学大学院理学研究科 教授
受賞歴
2008年 48th Sanibel Symposium Graduate Student Poster Award
研究業績
中谷の研究の特徴は、既存の量子化学計算法を単に利用するのではなく、対象とする化学現象に必要な電子状態理論そのものを開発することにある。特に、通常の一電子描像では扱いにくい強相関電子系を対象として、DMRGや多参照電子状態理論の開発と実在系への応用を進めている。
1. DMRGによる高精度電子状態計算
遷移金属錯体などでは、多数の電子配置が同時に重要となるため、通常の量子化学計算では正確な記述が難しい。
中谷はPrinceton University在籍時、Garnet K.-L. Chanとともに、DMRGを一般化したTree Tensor Network State(TTNS)法を量子化学へ展開した。最大110電子・110軌道という大規模な活性空間を扱い、従来法では困難だった強相関電子系の高精度計算を可能にした。^[1]
その後もDMRGを励起状態計算やCASSCF/CASPT2計算へ拡張し、複雑な電子状態を扱うための方法論開発を続けている。^[2]
2. 遷移金属触媒・分子性材料への応用
中谷は高精度電子状態理論を、遷移金属錯体や触媒反応の機構解析へ応用している。
特にX線吸収分光(XANES/EXAFS)と量子化学計算を組み合わせ、溶液中で形成される触媒活性種の酸化状態や配位構造を解析している。また、周期的QM/MM法を用いて、分子結晶の構造変化と吸収色・電子状態との関係を研究するなど、一分子から固体材料へと計算対象を広げている。
3. 星間化学から励起状態速度論へ
近年は、極低温の星間空間における化学反応にも量子化学を応用している。例えば、アモルファス水氷表面へのC、N、O原子の吸着エネルギーを計算し、星間分子雲における分子生成機構の理解につなげている。[3]
さらに2026年からは、学術変革領域研究(A)「フォトキネティシズム」において、励起状態における電子緩和や項間交差などの速度定数を第一原理計算から予測する理論の開発を進めている。
静的な電子構造の計算から、実際の化学反応や光励起過程が「どの程度の速さで起こるか」を予測する方向へと、研究対象を発展させている。
関連論文
- Nakatani, N.; Chan, G. K.-L. “Efficient Tree Tensor Network States (TTNS) for Quantum Chemistry: Generalizations of the Density Matrix Renormalization Group Algorithm.” J. Chem. Phys. 2013, 138, 134113.
- Nakatani, N.; Guo, S. “Density Matrix Renormalization Group (DMRG) Method as a Common Tool for Large Active-Space CASSCF/CASPT2 Calculations.” J. Chem. Phys. 2017, 146, 094102.
- Shimonishi, T.; Nakatani, N.; Furuya, K.; Hama, T. “Adsorption Energies of Carbon, Nitrogen, and Oxygen Atoms on the Low-Temperature Amorphous Water Ice.” Astrophys. J. 2018, 855, 27.




























