[スポンサーリンク]

B

バーチ還元 Birch Reduction

[スポンサーリンク]

 

概要

芳香族化合物は液体アンモニア/アルコールの混合溶媒中、アルカリ金属(Li, Na, K)もしくはアルカリ土類金属(Ca, Mg)で処理すると、1,4-シクロヘキサジエンに還元される。一置換ベンゼンの場合、置換基が電子供与性(EDG)か求引性(EWG)かで得られる生成物が異なる。

α,β-不飽和カルボニル化合物、共役ジエン、アルキンなども還元対象になる。特にアルキンを基質として反応させると、E-オレフィンが選択的に得られる。ベンジル基アリールスルホニル基の脱保護条件としても用いられる。

よりマイルドな還元条件としてLi/DBB(4,4′-di-t-bulylbiphenyl)Na/naphthaleneなどが知られている。 アンモニアBirch条件よりも官能基受容性に優れる。

液体アンモニアの代わりに低級アルキルアミンを用いると、アミンがプロトン源となり、より高温で行なえ還元力も強くなる(Benkeser還元)。

基本文献

  • Birch, A. J. J. Chem. Soc. 1944, 430.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1945, 809.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1946, 593.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1947, 102, 1642.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1949, 2531.

<Benkeser reduction>

  • Benkeser, R. A.; Robinson, R. E.; Landesman, H. J. Am. Chem. Soc. 1952, 74, 5699. DOI: 10.1021/ja01142a041
  • Benkeser, R. A.; Robinson, R. E.; Sauve, D. M.; Thomas, O. H. J. Am. Chem. Soc.1955, 77, 3230. DOI: 10.1021/ja01617a025
  • Benkeser, R. A.; Belmonte, F. G.; Kang, J. J. Org. Chem.1983, 48, 2796. DOI: 10.1021/jo00165a003

<review>

  • Watt, G. W. Chem. Rev. 1950, 46, 317. DOI: 10.1021/cr60144a003
  • Birch, A.J. Quart. Rev.1950, 4, 69.
  • Birch, A.J.; Smith, H. Quart. Rev.1958, 12, 17.
  • Kaiser, E. M. Synthesis1972, 391. DOI: 10.1055/s-1972-21889
  • Caine, D. Org. React.1976, 23, 1.
  • Hook, J. M.; Mander, L. N. Nat. Prod. Rep.1986, 3, 35. DOI: 10.1039/NP9860300035
  • Schultz, A. G. Acc. Chem. Res.1990, 23, 207. DOI: 10.1021/ar00175a001
  • Mander, L. N. Comprehensive Organic Synthesis1991, 8, 489.
  • Rabideau, P. W.; Marcinow, Z. Org. React.1992, 42, 1.
  • Birch, A. J. Pure Appl. Chem.1996, 68, 553. doi:10.1351/pac199668030553
  • Schultz, A. G. Chem. Commun.1999, 1263. DOI: 10.1039/A901759C
  • Subba Rao, G. S. R. Pure Appl. Chem.2003, 75, 1443. [PDF]
  • Donohoe, T. J.; Thomas, R. E. Nat. Protoc.2007, 2, 1888. doi:10.1038/nprot.2007.245
  • Zimmerman, H. E. Acc. Chem. Res.2012, 45, 164. DOI: 10.1021/ar2000698

 

開発の歴史

1944年オーストラリアの化学者であるBirchによって発見された。その後1952年にBenkerserらによって液体アンモニアの代わりにアミンを加える変法が報告されたため、Birch redcctionもしくはBenkeser reductionと呼ばれる。

Arthur John Birch

Arthur John Birch

反応機構

生じるオレフィンの位置選択性は、アニオン性中間体が安定化されるかどうかで決まる。EDG置換基では、根元にアニオンが出る中間体が不安定化され、EWGの場合は安定化される。 (参考:J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 2205, Acc. Chem. Res. 2012, 45, 164.)

アルコールを添加しておくことで、系中で生成する強塩基NH2による望まぬ異性化が抑えられる。

ベンゼンを還元する反応の相対速度は Li(360)>Na(2)>K(1)である。

birch_2.gif

 

アルキンをBirch還元すると、E-アルケンが選択的に得られる。Lindlar還元ジイミド還元ではZ-アルケンが得られるため、相補的に用いられる。還元的に生成されるジアニオン種は、電子的反発を避けるように生成する。このため、E-アルケンが選択的に生成してくる。t-BuOHを加えておくことで過剰還元などの副反応を抑制できる。

yne-en3

 

反応例

Birch還元中に生成する電子求引基で安定化された炭素アニオンは、さらにアルキルハライドやアルデヒドなどの求電子剤と反応して炭素-炭素結合を形成できる。一例[1]を以下に示す。

birch_3.gif

末端アルキンは脱プロトン化を受けるためBirch還元の適用外である(内部アルキンのみを選択的に還元することが可能)が、硫酸アンモニウム共存下に行えば還元することが可能。[2]

alkyne_birch_3

実験手順

ピロール類のBirch還元[3]

birch_4.gif

 

実験のコツ・テクニック

※アンモニアの沸点は約-33℃なので、ジムロートではなく低温濃縮が行えるDewer冷却器を用いる。
※テフロン被覆の攪拌子はBirch条件で侵され、黒ずんでしまう。ガラス製攪拌子を用いるのがベター。
※リチウムワイヤーは、付着する油分をあらかじめペンタンで洗い落とし、ハサミで小さく刻んで用いる。
※活性種が生じていれば深青色の溶液になっているはず。
※イソプレンは一電子還元剤のクエンチ目的でしばしば用いられる。

参考文献

[1] Schultz, A. G.; Pettus, L. J. Org. Chem. 1997, 62, 6855. DOI:10.1021/jo9707592
[2] Henne, A. L.; Greenlee, K. W. J. Am. Chem. Soc. 1943, 65, 2020.
[3] Donohoe, T. J.; Thomas, R. E. Nat. Protoc. 2007, 2, 1888. doi:10.1038/nprot.2007.245

関連反応

 

関連書籍

知っておきたい有機反応100 第2版

知っておきたい有機反応100 第2版

¥2,970(as of 12/05 09:05)
Amazon product information
Birch Reduction of Aromatic Compounds

Birch Reduction of Aromatic Compounds

A.Akhrem, A.
¥8,831(as of 12/05 12:33)
Amazon product information

関連動画

 

関連リンク

関連記事

  1. ジュリア・リスゴー オレフィン合成 Julia-Lythgoe …
  2. 有機銅アート試薬 Organocuprate
  3. ブンテ塩~無臭の含硫黄ビルディングブロック~
  4. フィッシャー インドール合成 Fischer Indole Sy…
  5. シャープレス・香月不斉エポキシ化反応 Sharpless-Kat…
  6. ディールス・アルダー反応 Diels-Alder Reactio…
  7. エヴァンスアルドール反応 Evans Aldol Reactio…
  8. ヒドロシリル化反応 Hydrosilylation

注目情報

ピックアップ記事

  1. 毎年恒例のマニアックなスケジュール帳:元素手帳2023
  2. 常圧核還元(水添)触媒 Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)
  3. 有機化学者のラブコメ&ミステリー!?:「ラブ・ケミストリー」
  4. CRISPRの謎
  5. 固体型色素増感太陽電池搭載マウスを買ってみました
  6. パラジウム触媒の力で二酸化炭素を固定する
  7. 【書評】続続 実験を安全に行うために –失敗事例集–
  8. 交差アルドール反応 Cross Aldol Reaction
  9. さあ分子模型を取り出して
  10. DNAが絡まないためのループ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP