[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

C-CN結合活性化を介したオレフィンへの触媒的不斉付加

[スポンサーリンク]

“Asymmetric Intramolecular Arylcyanation of Unactivated Olefins via C-CN Bond Activation”
Watson, M. P.; Jacobsen, E. N. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 12594. doi:10.1021/ja805094j

“Intramolecular Arylcyanation of Alkenes Catalyzed by Nickel/AlMe2Cl”
Nakao, Y.; Ebata, S.; Yada, A.; Hiyama, T.; Ikawa, M.; Ogoshi, S. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 12874. doi:10.1021/ja805088r

以前Chem-Stationでも、「炭素-炭素結合を切る触媒」と題し、檜山・中尾らによるニッケル触媒化学[1]を特集しました。切断がきわめて難しい炭素-炭素結合を切って組み替える反応形式であり、有機化合物(炭素骨格)の短工程合成に向け強力な手法になると期待されています。

今回その不斉触媒化が、中尾・檜山、およびJacobsenらのグループによって同時に報告されました。Received Dateが全く同じ7月2日であり、激しい競争があったものと推測されます。

Jacobsenらによる論文は、不斉触媒化に完全にフォーカスを当てています。不斉配位子としてはTangPHOSが有望だったようですが、オレフィンの異性化などが併発し、収率の向上にやや苦労した模様です。ニッケル源と添加ルイス酸を検討することで、この副反応の抑制に成功しています。シンプルなストーリーにまとめています。

一方で中尾・檜山らによる論文では、不斉触媒化の記述に割かれているスペースは比較的少ないです。その分、反応機構(下図)に関する詳細な議論、および有用生理活性物質合成への応用を交えることで、優れた論文にしています。特に反応中間体の結晶を取ってきて、疑いなき証拠としている点は、化学の質を格段に高めていると思えます。あまりに盛りだくさんな内容で、JACSコミュニケーション一報に納めてしまうのが勿体ないぐらいです(結晶構造は論文より転載)。

Asym_C_CN_2

同じ化学でも、アプローチや表現の仕方がそれぞれかなり異なっています。読み比べてみると面白い論文の典型だと思います。

関連文献

  1. (a) Nakao, Y.; Oda, S.; Hiyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 13904. DOI: 10.1021/ja0448723  (b) Nakao, Y.; Yada, A.; Ebata, S.; Hiyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 2428. DOI: 10.1021/ja067364x (c) Nakao, Y.; Hiyama, T. Pure Appl. Chem. 2008, 80, 1097.

関連書籍

[amazonjs asin=”3540648623″ locale=”JP” title=”Activation of Unreactive Bonds and Organic Synthesis (Topics in Organometallic Chemistry)”][amazonjs asin=”B00RZJL120″ locale=”JP” title=”C-C Bond Activation (Topics in Current Chemistry)”]
Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 「ソーシャルメディアを活用したスタートアップの価値向上」 Blo…
  2. 2009年ノーベル化学賞は誰の手に?
  3. 100年前のノーベル化学賞ーリヒャルト・ヴィルシュテッター
  4. 2012年ケムステ人気記事ランキング
  5. 地球温暖化が食物連鎖に影響 – 生態化学量論の視点か…
  6. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(5年目)(留学中編)…
  7. 新規重水素化触媒反応を開発―医薬品への直接重水素導入を達成―
  8. Gaussian Input File データベース

注目情報

ピックアップ記事

  1. ケミカル・ライトの作り方
  2. 実験を加速する最新機器たち|第9回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)
  3. 乙卯研究所 研究員募集
  4. 胃薬のラニチジンに発がん性物質混入のおそれ ~簡易まとめ
  5. 【速報】2022年ノーベル化学賞は「クリックケミストリーと生体直交化学」へ!
  6. フェノールのC–O結合をぶった切る
  7. Zoomオンライン革命!
  8. 日本プロセス化学会2019 ウインターシンポジウム
  9. アメリカ大学院留学:卒業まであと一歩!プロポーザル試験
  10. α-トコフェロールの立体選択的合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年9月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP