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化学者のつぶやき

シリリウムカルボラン触媒を用いる脱フッ素水素化

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silylium_1.gif

Hydrodefluorination of Perfluoroalkyl Groups Using Silylium-Carborane Catalysts
Douvris, C.; Ozerov, O. V. Science 2008, 321. 1188. doi: 10.1126/science.1159979

C-F結合は、数多の化学条件下に安定です。しかし見方を変えれば、これは廃棄が難しいということでもあります。たとえば温暖化の一因とされるフロンガスなどは、C-F結合を持ちます。その安定性ゆえ毒性が低く使いやすい化学物質ですが、分解されにくいためそのままオゾン層まで達してしまうという側面を持ちます。できれば分解してから排出したいものです。

このような背景から、C-F結合を分解できる技術、いわゆるC-F結合活性化反応[1]が、学術・応用両面から注目を浴びています。これまでには遷移金属触媒もしくは一電子還元法を用いる方法が、主に研究されてきています。

今回、Brandeis大学のOzerovらは、従来とは全く異なるアプローチ、すなわち、ケイ素(シリリウム)カチオンR3Si+[2]を触媒的生成させる手法でC-F結合活性化→還元(脱フッ素水素化)を達成しました。

シリリウムカチオンは強いルイス酸性を持つ不安定化学種であり、ルイス塩基性を持つアニオンが存在すると、容易に結合を作って失活してしまいます。そこで彼らは、アニオンとしてきわめて安定に存在しうるカルボラン酸アニオン[3]を用い、この問題を解決しています。

sp2結合は反応せず、sp3結合だけが置換されること、Friedel-Crafts型の生成物が取れてくることなどから、以下のようなSN1反応機構を彼らは提唱しています。

silylium_2.gif

 

  • 関連文献
[1] 総説:Kiplinger, J. L.; Richmond, T.G.; Osterberg, C. E. Chem. Rev. 1994, 94, 373. DOI: 10.1021/cr00026a005
[2] Scott, V. J.; Celenligil-Cetin, E.; Ozerov, O. V. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 2852. DOI: 10.1021/ja0426138
[3] Reed, C. A. Chem. Commun. 2005, 1669. DOI: 10.1039/b415425h

 

  • 関連リンク

Ozerov Group

「史上最強の酸」合成さる(有機化学美術館)

カルボラン酸 – Wikipedia

Chemists Break Down Pesky Greenhouse Gas (Wired.com)

Breaking C-F bond (C&EN News)

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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