[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

α-トコフェロールの立体選択的合成

[スポンサーリンク]

Reagent Directing Group Controlled Organic Synthesis: Total Synthesis of (R,R,R)-α-Tocopherol.
Rein, C.; Demel, P.; Outten, R. A.; Netscher, T.; Breit, B. Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 8670. DOI:10.1002/anie.200703268

独アルバート・ルードヴィヒ大学のBernherd Breitらによる報告です。Breit教授は超分子化学的発想や分子認識概念を積極的に取り入れた試薬・触媒をデザインし、オリジナリティの高い合成化学研究を展開しています。

今回取り上げるα-トコフェロール(ビタミンE)の化学合成は、「試薬配向基(Reagent Directing Group:RDG)制御概念」[1]に基づき、数ある不斉点を効率的に構築していることが特徴です。

RDG制御概念は、”試薬(もしくは触媒)を適切な位置に担持しうる保護基”を足がかりとして、化学選択性をコントロールしようとする新しい考え方です。

化学合成で用いられる保護基は、官能基の反応性を下げたり、立体障害にする目的で用いられます。すなわち「反応剤からブロックする・反応性を下げる」ために用いられることがほとんどです。
一方のRDG制御ではその点発想が全く異なり、保護基(RDG)近傍において「反応剤を誘導・反応性を上げる」効果を期待します。すなわち保護基を変換反応へ積極的に関与させることで、試薬が本来持つ反応性を損なうことなく、基質依存的な化学選択性制御(Substrate Control)を行います。加えて、保護基は数工程の変換の間、結合し続けることが常です。この本質面に着目すれば、一種類のRDGを複数の多彩な変換工程に関与させることも可能と考えられます。

まさに”いいとこ取り”な考え方ですが、具体例を見た方がおそらく飲み込みやすいと思います。以下に実例を示します。 今回の合成では、o-ジフェニルホスフィノベンゾイル(DPPB)基がRDGとして働きます。

DPPB基を持つ基質にロジウム触媒を用いるヒドロホルミル化[2]を行うと、上図に示したような中間体から反応が進行し、立体選択的に反応が進行します。これにより三級炭素のうち一つの立体制御に成功しています。

 また、後のフラグメントカップリング反応においても威力を発揮します。DPPBエステルがRDGかつ脱離基の二役として働き、銅アート錯体によるSN2′置換反応が進行します。C-C結合形成を行うと同時に、キラルトランスファーによって三級不斉炭素の立体制御にも成功しています。カップリング体はラネーNiによる接触還元、ベンジル除去によって目的物に導いています。

以上のように、RDG制御は応用範囲の広い優れた概念といえそうです。将来的に反応形式/RDGのバリエーションが増加していけば、既存の手法では難しかった合成が簡単に行える基礎的方針の一つになりうるかもしれません。今後の発展に期待したいです。

 

関連文献

[1] Breit, B. Chem. Eur. J. 2000, 6, 1519. [Abstract] [2] Breit, B. Acc. Chem. Res. 2003, 36, 264.  DOI: 10.1021/ar0200596

 

関連リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ワールドクラスの日本人化学者が語る研究物語―『化学者たちの感動の…
  2. ワサビ辛み成分受容体を活性化する新規化合物
  3. 揮発した有機化合物はどこへ?
  4. 有機アジド(2):爆発性
  5. 酸化反応条件で抗酸化物質を効率的につくる
  6. 常温常圧でのアンモニア合成の実現
  7. 自由の世界へようこそ
  8. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(5年目)(留学中編)…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 熱分析 Thermal analysis
  2. こんな装置見たことない!化学エンジニアリングの発明品
  3. 最長のヘリセンをつくった
  4. ロバート・バーグマン Robert G. Bergman
  5. 「日産化学」ってどんな会社?
  6. ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド:Bis(triphenylphosphine)palladium(II) Dichloride
  7. 【速報】2017年ノーベル化学賞は「クライオ電子顕微鏡の開発」に!
  8. 第23回 医療、工業、軍事、広がるスマートマテリアル活躍の場ーPavel Anzenbacher教授
  9. 浄水場から検出されたホルムアルデヒドの原因物質を特定
  10. ハワイ州で日焼け止め成分に規制

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造 進化する高分子材料 表面・界面制御アドバンスト コース

詳細・お申込みはこちら日時2020年 4月16日(木)、17日(金)全日程2日間  …

光で水素を放出する、軽量な水素キャリア材料の開発

第248回のスポットライトリサーチは、東京工業大学物質理工学院(宮内研究室)・河村 玲哉さんにお願い…

大幸薬品、「クレベリン」の航空輸送で注意喚起 搭載禁止物質や危険物に該当?

大幸薬品は、同社が展開する「クレベリンシリーズ」の航空輸送について、注意喚起を行っている。  (引用…

第58回―「集積構造体を生み出すポリマー合成」Barney Grubbs教授

第58回の海外化学者インタビューは、バーニー・グラブス教授です。ダートマス大学化学科に所属(訳注:現…

サム・ゲルマン Samuel H. Gellman

サミュエル・H・ゲルマン(Samuel H. Gellman、19xx年xx月xx日-)は、アメリカ…

化学実験系YouTuber

一度見始めると、仕事に手がつかなかくなるYouTubeですが、教育的に有意義な動画もたくさん投稿され…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP