[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

メソポーラスシリカ(3)

[スポンサーリンク]

前回(メソポーラスシリカ(2))からの続きです。

Surfactant Templating Methodがもたらした進化はズバリ、FSMが層状シリカをシリカ源とすることと違い、縮合可能なシラノール(Si-OH)もしくはアルコキシシリル(Si-OR)基を持ついかなる化合物でもメソポーラスシリカの前駆体となりうる可能性が拓けたことにあります(※1)。

メソポーラス有機シリカ

というわけでもうお気づきかと思いますが、前回の最後にお見せした


図2. トリエトキシシリル?的なさむしんぐs
という化合物。有機化学をたしなんだことのある人であれば37.5刹那ほどの間に

「あー、檜山カップリングの基質?」

と思う方がほとんどかと思いますが、材料化学の人から見ると(というか筆者の場合)これらは真っ先に有機無機ハイブリッド材料を作る前駆体(precursor)であると認識します。同じ化合物一つでも着想が異なるのは異分野間交流の楽しいところです。(1刹那=1/75秒という説があるそうです。wikipedia)
とりわけ図2の右の分子のようなビスアルコキシシリル(二つのアルコキシシランが有機架橋されたタイプの)化合物有機シリカの壁を構築する前駆体として望ましく、逆に図2の左のようなモノアルコキシシリル化合物は、合成した後のシリカ表面にあるシラノール(Si-OH)基との縮合を利用した表面修飾に利用されることが多いです。
このようなメソポーラス有機シリカ材料の呼び方は研究グループによってマチマチですが、前回紹介したMobilのStucky氏らや豊田中研の稲垣伸二氏ら、この分野の先駆者的研究グループが使っているPMO(Periodic Mesoporous Organosilica、あるいは複数形でPMOsという記述が論文で多々見られます。)という呼称を記事中では使うことにします。

メソスケールの規則性と分子レベルの規則性

有機架橋されたアルコキシシランを用いた最初のPMO合成は、1999年に豊田中研の稲垣らのグループにより報告されたもので、前駆体に1,2-bis(trimethoxysilyl)ethaneを用い、塩基性水溶液中でC18TACl(Octadecyltrimethylammonium chloride)をテンプレートに、縮合時の混合比や温度を変えることで2Dおよび3Dヘキサゴナル構造のPMOを合成しました[1](※2)。このPMOは従来のMCMやFSM同様、規則的なメソ多孔質構造を持っていますが、その壁を構築している有機基の(分子レベルの)構造はアモルファスです。

2002年、またも稲垣らが報告した1,4-bis(triethoxysilyl)benzene(まさしく図2,右の化合物です)を前駆体としたPMOは、それまでのPMOと同様にメソ多孔質構造になっていますが、さらに分子レベルでの規則的構造(つまり結晶構造)も持っています[2]。有機架橋部位の芳香環がface-to-face(π-スタッキング)型の芳香環相互作用(※3)により積み重なっているような構造がシミュレートされ、TEM画像やXRD(X線回折、X-Ray Diffraction、※4)の結果もこの構造を支持する結果となっています(※5)。


関連文献[2]より 新しい単語や概念が盛りだくさんでここまで読むのに疲れてしまった方も多いかもしれませんが(文章のせいでしたらすみませんorz)、これでようやくメソポーラス材料の基礎の基礎といったところです。というわけで、ひとまず基礎編(いま名付けました)はこのくらいにしておいて、後日、応用編として続きをアップしていくつもりです。これまでは専ら有機化学およびITネタと文房具が専門(自分はむしろそういう話を読むのが好きですw)の”化学者のつぶやき”ですが、それら以外の分野のある程度まとまったエントリーも重ねていきたいと勝手に意気込んでいます(きのんさんのこちらのつぶやきもありますし)。
今回の3本の記事は筆者のD論のイントロの一部になる予定の内容を掻い摘んだだけなのですが、応用編まで書き終えて基礎知識を共有し、最新の論文ネタを「共感できる」ようになった(と勝手に筆者が思ったら、もしくはつぶやき内の関連記事を参照することで簡単に補完できるようになった)ら、最新論文ネタも投稿していきたいと考えています。(既に共感どころか筆者よりずっと長く専門でやってきている読者の方もいらっしゃるのでしょうが…)

本文中でばらまいたフラグもとい※の回収

※1. 水と反応して即座に脱水縮合してしまうシラノールやアルコキシシランのワークアップや精製時の扱いにくさ(分液は使えない、シリカゲルカラムも望ましくない)を克服すべく、トリアリル(allyl)シランを用いるPMO合成も報告されています[3]

※2. 前回、前々回で紹介したMCMやFSMは焼成することで界面活性剤を除去しましたが、PMOを焼成してしまうと折角の有機基が分解されてしまいます。よって、大過剰量のエタノールに微量の塩酸を加えたもの(1%と記述されている場合もありますが、筆者の経験的には濃塩酸を適当に一滴垂らせばOK)を用いてソックスレー抽出器(Soxhlet extractor)で洗います。洗い込む時間ですが、数日間という論文もあれば、そもそもソックスレーを使わずにただエタノール中室温で2時間かき混ぜるだけという論文もあり、どの程度厳密に洗い出したいかによるようです。

※3. π共役系の広いナフタレンやアントラセンでは安定にface-to-face型の会合体を作る一方、ベンゼンではedge-to-face型(そのまま積み重なって結晶化するとヘリンボーン/Herringbone型になる)が安定。もっとも上記PMOの場合、ベンゼン部位はシリカ部位に対して垂直ではなく傾いているため、offset型と表現したほうが正しいかもしれません[4]

※4. XRDの原理については省きますが、Bragg反射(2dsinθ=nλ)の式をイメージすると分かりやすいと思います。定数や任意の数をまとめて移項するとdがθの逆数に比例する形になるので、X線の入射角が小さい(薄い)ほど二つの面の間隔が大きな、入射角が大きい(より垂直に近い)ほど間隔の狭いスペクトルに対応します。メソポーラス材料の場合、入射角θ=5o(∴2θ=10o)未満にメソ構造由来のピークが見られ、さらに5o<θ<25o付近にピークがあれば分子レベル(オングストローム(A)サイズ)の規則性をもっているとわかります。

※5. 1999年のCorriuらによる報告で、メソポーラスでない有機シリカ材料における分子レベルの規則的配列(結晶化)が示唆されています[5]

関連文献

  1. Inagaki, S.; Guan, S.; Fukushima, Y.; Ohsuna, T.; Terasaki, O. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 9611. DOI: 10.1021/ja9916658
  2. Inagaki, S.; Guan, S.; Ohsuna, T.; Terasak, O. Nature 2002, 416, 304. DOI:10.1038/416304a
  3. (a) Shimada, T.; Aoki, K.; Shinoda, Y.; Nakamura, T.; Tokunaga, N.; Inagaki, S.; Hayashi, T. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 4688. DOI: 10.1021/ja034691l (b) Aoki, K.; Shimada, T.; Hayashi, T. Tetrahedron: Asymmetry 2004, 15, 1771. DOI: 10.1016/j.tetasy.2004.03.044 (c) Kapoor, M. P.; Inagaki, S.; Ikeda, S.; Kakiuchi, K.; Suda, M.; Shimada, T. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8174. DOI: 10.1021/ja043062o
  4. 小林啓二、林直人著、『固体有機化学』、化学同人(2009).
  5. Boury, B.; Corriu, R. J. P.; Le Strat, V.; Delord, P.; Nobili, M. Angew. Chem., Int. Ed. 1999, 38, 3172. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(19991102)38:21<3172::AID-ANIE3172>3.0.CO;2-3
  6. レビュー論文  (a) Wan, Y.; Zhao, D. Chem. Rev., 2007, 107, 2821. DOI: 10.1021/cr068020s (b)Fujita, S.; Inagaki, S. Chem. Mater. 2008, 20, 891. DOI: 10.1021/cm702271v

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759811435″ locale=”JP” title=”固体有機化学”][amazonjs asin=”4781301894″ locale=”JP” title=”ナノサイエンスが作る多孔性材料 (CMCテクニカルライブラリー―新材料・新素材シリーズ)”]

 

Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. 【緊急】化学分野における博士進学の意識調査
  2. 続・企業の研究を通して感じたこと
  3. ケムステ10年回顧録― 副代表版
  4. SNS予想で盛り上がれ!2025年ノーベル化学賞は誰の手に?【1…
  5. 【9月開催】第1回 マツモトファインケミカル技術セミナー 有機チ…
  6. 有機合成化学協会誌10月号:不飽和脂肪酸代謝産物・フタロシアニン…
  7. ラジカル機構で一挙に環化!光励起PdによるPAHの合成
  8. 最近のwebから〜固体の水素水?・化合物名の商標登録〜

注目情報

ピックアップ記事

  1. 硫黄 Sulfurーニンニク、タマネギから加硫剤まで
  2. マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎
  3. マテリアルズ・インフォマティクスにおける初期データ戦略 -新規テーマでの対応方法をご紹介-
  4. 配位子保護金属クラスターを用いた近赤外―可視光変換
  5. 光化学と私たちの生活そして未来技術へ
  6. 「ソーシャルメディアを活用したスタートアップの価値向上」 BlockbusterTOKYO 2020 第9回 研修プログラムを実施!
  7. 近況報告Part III
  8. 科学とは「未知への挑戦」–2019年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞
  9. 第29回 適応システムの創製を目指したペプチドナノ化学 ― Rein Ulijn教授
  10. ノーベル賞への近道?ー研究室におけるナレッジマネジメントー

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年9月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

酸素を過酸化水素へ!可視光で駆動する有機高分子光カソード

第717回のスポットライトリサーチは、新潟大学大学院自然科学研究科(無機ナノ材料研究室)博士前期課程…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP