[スポンサーリンク]

一般的な話題

NMRの測定がうまくいかないとき(2)

[スポンサーリンク]

本日はNMRの測定がうまくいかないときの対処法(2)についてまとめました。前回の記事についてはこちら

まずはNMRをプロセスするときの注意を2点紹介しておきます。

絶対使ってはいけない機能

NMRプロセシングで認められている機能は、Integration, Peak picking, Baseline correction, Phase correctionのみです。ピークを消すのはもってのほか、溶媒ピークを消したりすることも認められていません。

スペクトルの印刷時の注意

NMRスペクトルを印刷する際は、例えばー0.5 ppm ~ 8.5 ppmまでを常に印刷するように決めておくと、スペクトルどうしを比べる時に便利です。もちろん、アルデヒドなどの場合は11 ppm辺りまで、といった感じで、化合物によってはサイズを変える必要もあります。

 

ではここから、よくある実験的な失敗と、その解決策をご案内します。

1:生成物のシグナルが重なっており、カップリング値や積分値が計算できない。どうすればいいか?

解決策:他のNMR溶媒を試してください。目的のピークがパックから出てくることがあります。特に二重結合領域や芳香族領域に関心がある場合、benzene-d6を用いると良い結果を得られることがあります。

2:化合物がCDCl3に溶けない。どうすればいいか?

解決策:異なる重水素化溶媒、benzene-d6、acetone-d6、またはmethanol-d4がファーストチョイス。DMSO-d6も選択肢ですが、DMSO-d6は簡単に飛んでくれないので、サンプルを溶かしたが最後、測定後にfeeeze dryするか、液液抽出するかしないといけないので、少々面倒。

3:1H NMRを測定したんだが、得られたスペクトルと文献値と一致しない。どんな可能性があるか?

スペクトル間にわずかな違いしかない場合、サンプルの濃度が異なる可能性があります。濃度が濃い場合は、分子間相互作用によるケミカルシフトに反映される場合もあります。また、化合物がアミンなどの場合は微妙なpHの違いによりNH周辺のケミカルシフトが変わる場合もあります。

4:交換可能なプロトン、例えばOHまたはNHを、アサインしたいのだがその方法は?

CDCl3のサンプルに1滴のD2Oを加え、数分間激しく振とうします。プロトンが交換され、ピークがスペクトルから消えるはずです。methanol-d4でスペクトルを測定することもでも交換性のプロトンの消失が観測されます。

5:何時間も高真空でひいたのにも関わらず、酢酸エチルがスペクトルに残っている。何とかしたい。

解決策:化合物によっては、溶媒和物を形成することがあります。溶媒和物はいくら引いてもまずひっぺがすことは不可能です。また、化合物がオイルの場合は、溶媒が残りやすいと思われます。溶媒を取り除く一つの方法として、クロロホルムなどで共沸する方法があります。ただし、しっかり引かないとクロホが今度は残ってしまうので、収率に影響します。

6:CDCl3のリファレンス値が、化合物の芳香族領域と被っており設定できない。芳香族領域の正確な積分を得ることができない。どうすればいいか?

acetone-d6でスペクトルを測定してみてください。若しくはTMSを入れておいてリファレンスを合わせてください。

7:精製後のTLCやLCMSは純品のはずなのだが、1H NMRが複雑化した。どんな可能性が挙げられる?

分離不可能なジアステレオマーの混合物である場合。HPLCなどで確認しましょう。

回転異性体 (atropisomer)である場合。NMRの昇温実験をしましょう。特に二級アミドや中員環化合物などの場合はこの可能性が高いです。

8:細心の注意を払ったにも関わらず、水のピークが大きすぎて困っている。

NMR溶媒は、使用を続けていると水がコンタミすることがあります。解決策として、乾燥剤(Almina、K2CO3、Na2SO4など)でCDCl3を乾燥することができます。もしくは、高いがアンプルの重溶媒を用いて測定する。または、CDCl3の場合D2Oを一滴入れ、振ったのちに測定する。

9:スペクトルにアセトンのピークが残っている。

NMRチューブに洗浄に使ったアセトンが残っている可能性があります。しっかり乾燥しましょう。ディスポのNMRチューブは乾熱乾燥が可能で、風乾後120 °Cオーブンに一日入れておけば十分です。精度の高い測定を必要とするNMRチューブは決して熱をかけず、高真空で溶媒を除去しましょう

10:ピークのbroadningを何とかしたい。

シムの悪さ、均質ではない(化合物の溶解度の低さが原因である可能性がある)サンプル、濃すぎるサンプルなど、いくつかの要因がピークの拡大を引き起こします。これらのどれもが合理的に思えないならば、あなたのNMR技術者と相談してください。機械は調整が必要な場合があります。

11:Crude NMRが汚すぎるもう家に帰ってビールを飲みたい。

Crude NMRは、反応がうまくいったかどうかを判断するための最善の方法とは限りません。例えばByproductが混じっていたり、試薬が残っていたりするほか、ジアステレオマーが生成している場合、DMFなどの高沸点の溶媒が残存している場合などがあります。なので、他の手法(LC-MSなど)を用いて目的物質の生成を確認するようにします。

12 : NMRチューブがきれいに洗えない

恐らく洗い方は研究室それぞれ違ってくると思いますが、いくつかを紹介します。まずはアセトンを入れて超音波処理。二つ目に、たばこのパイプクリーナー(モール)を使ってお掃除。三つ目は、いろんな溶媒を試す。四つ目は沸点の高い溶媒を入れて水浴で100度で加熱、超音波の繰り返し。などでしょうか。使い捨てのチューブならいいですが、高価なチューブは使ったらすぐに洗いましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。この記事もそれなりにPV数が伸びるようでしたら、また同様のネタを紹介したいと思います。

Gakushi

投稿者の記事一覧

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

関連記事

  1. 第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお…
  2. 異なる“かたち”が共存するキメラ型超分子コポリマーを造る
  3. J-STAGE新デザイン評価版公開 ― フィードバックを送ろう
  4. 2013年ノーベル化学賞は誰の手に?トムソンロイター版
  5. 徹底的に電子不足化した有機π共役分子 ~高機能n型有機半導体材料…
  6. 【書籍】10分間ミステリー
  7. 【ケムステSlackに訊いてみた②】化学者に数学は必要なのか?
  8. 日本語で得る学術情報 -CiNiiのご紹介-

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第96回―「発光機能を示す超分子・ナノマテリアル」Luisa De Cola教授
  2. 世界初 もみ殻からLEDを開発!~オレンジ色に発光するシリコン量子ドットLED~
  3. 原子分光分析法の基礎知識~誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)を中心に~
  4. トロスト不斉アリル位アルキル化反応 Trost Asymmetric Allylic Alkylation
  5. 【悲報】HGS 分子構造模型 入手不能に
  6. π-アリルイリジウムに新たな光を
  7. ヘリウムガスのはなし
  8. ダイエット食から未承認薬
  9. 学生実験・いまむかし
  10. Cleavage of Carbon-Carbon Single Bonds by Transition Metals

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年3月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP