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スポットライトリサーチ

レーザー光で実現する新たな多結晶形成法

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第159回目のスポットライトリサーチは、大阪府立大学・LAC-SYS研究所山本靖之(やまもと やすゆき)さんにお願いしました。

山本さんの所属する飯田研究室では、光照射によって生じる非平衡過程を活用して、ナノ構造や生体類似分子の挙動を操ることを目的とした研究が遂行されています。下記寄稿文にもあるとおり、山本さんはもともと化学畑の方ではありません。しかし数々の研究者との分野横断共同研究を通じて、見事に新規化学現象の報告を成し遂げています。本成果はScientific Reports誌およびプレスリリースとして先日公表されました(冒頭画像はプレスリリースより引用)。

“Macroscopically Anisotropic Structures Produced by Light-induced Solvothermal Assembly of Porphyrin Dimers”
Yamamoto, Y.; Nishimura, Y.; Tokonami, S.; Fukui, N.; Tanaka, T.; Osuka, A.; Yorimitsu, H.; Iida, T. Sci. Rep. 2018, 8, 11108. doi:10.1038/s41598-018-28311-2

研究室を主宰されている飯田 琢也 准教授より、山本さんについてのコメントを頂いています。実験を通じて着実な成長を経てきた貴重な経験談をご覧いただければと思います。

山本君は学部4年生の当時、光物性理論を元々専門としていた私のラボで実験テーマを始めて間もないころに、私の研究室に自ら進んで配属を希望してくれたことを憶えています。実験が大好きで、気が付くと当時導入したばかりの装置の前にいて、昼夜の別なくアグレッシブに実験している姿が印象に残ってます。今回の成果はラボとしても初めての有機化学の先生との共同研究によるものですが、独自の工夫をしながら課題をこなし、自ら決めたスケジュールを守って迅速に成果をまとめられる点もこれまで指導して来た学生の中でも稀有でした。特に、博士後期課程進学後の成長は目覚ましく、実験中に起こる種々の現象への洞察力を高め、基礎を着実に積み重ねながら山本君自身の持ち味である応用指向のアプローチにも磨きをかけて来ました。現在では、私が所長を務めるLAC-SYS研究所の若手リーダーの1人として国際的にも活躍し、後輩達の指導も熱心にしてくれて感謝をしてます。これまで積み重ねて来た多数の成果も刈入れの時期ですが、博士号取得までに論文が倍増することを期待してます!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

有機溶媒中での局所的なレーザー加熱を利用した、有機分子の多結晶化法(光誘導溶媒熱集合法)を世界に先駆けて開拓し、顕著な偏光異方性を有する花弁状の有機多結晶の大量生成に成功し、次世代マテリアルデザインの新たな選択肢を提示しました。

集光レーザー照射による「光発熱効果」は化学分野では、新たな化学気相成長法の開発や、触媒の小型化などにも応用されてきました。本研究では、有機分子(ポルフィリン系分子)を分散した有機溶媒と金属薄膜の間の固液界面にレーザー照射して光発熱効果で発生した気泡(直径約100μm)を取り囲むように基板間の狭小空間に多数の花弁状の構造体がサブmmの領域に渡って生成することに成功しました(図1)。個々の花弁状構造体を詳細に観察すると細胞と同程度の数十μm程度の大きさで、顕著な偏光異方性を有していることが分かり(図2a)、ラマン散乱解析から、分子配列状態も示唆しました(図2b)。

図1. ポルフィリン系分子がレーザー照射点近傍で析出する様子(透過像).

図2. (a) 作製した花弁状構造体の偏光異方性. (b) 花弁状構造体を形成するポルフィリン系分子の配列モデル.

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるところは研究内容に対してというより、研究の進展や著者間での認識のズレを無くすために、共同研究者である京大の依光先生と怒涛のメールラッシュをしたことが強く印象に残っています。あの徹底的な議論のおかげで、論文投稿を円滑にパスできたと思っております。また、論文の執筆時や投稿後のレフェリーとの闘いにおいて、指導教員の飯田先生、床波先生、ならびに依光先生を始め田中先生や福井先生の的確かつ心強い助言に何度も救われました。この論文は本当に先生方の一致団結したお力添えがあってこそ実ったと強く感じております。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究は私がM1の頃から始め、論文発表までに約3年以上を要し、自分自身の成長を反映するかのように進展してきました。
当初は作製した構造体がすぐさま溶媒に再溶解するため、その構造維持に苦労しました。この課題に関しては、依光先生の「キムワイプで溶媒を吸ってみては?」という大胆かつシンプルな提案のおかげで乗り越えることができました。その後は、作製した構造体の分光測定やラマン測定を漠然と行うだけで目的が不明瞭であったため、何を詳細に調べるべきか分かっていませんでしたが、周囲の先生方の助言や、科学に対する考え方を少しずつ学ぶことで本研究も少しずつ進展していきました。特に偏光分光測定は自分では思いつかなかったですし、光源(ハロゲンランプ)の僅かな偏光性が顕微鏡像の色彩に影響を与えていたことなどの“論文には載らない”知見には驚かされ、1つ1つの結果を慎重に受け止めて吟味していく必要があるということを学びました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

“化学と”というより、“化学者と”交友関係を築きたいと思っています。私自身は電子物理出身で化学出身の人間ではありませんので、化学者としての感性や思考法を少しでも習得して研究を進める上での視野を広げるための近道であると考えているからです。日頃から出来るだけ自身の思考の範囲を狭めないように様々な分野の情報収集も心がけて、化学だけでなく多様な考え方の異分野研究者と触れ合うことで、研究成果を多くの人々に共感してもらえる形で発信できるのではと期待しています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

この研究を通じて私が感じたことは主に3つあります。
【①思いもしないことが結果に含まれている】
1つの結果から多くの情報を引き出せるか、そこから複数の仮説を構築できるかが重要であると学びました。
【②他の研究者と本気で共同研究を進めることは学びが多く楽しい】
本研究において心強く支えてくださった先生方には深く感謝しております。
【③研究成果は発表する時点での自分の最大限までしか出せない】
飯田先生や共同研究者の方々からご指導を賜った私の成長を通して、この研究も成長していったと感じております。これからも、自身の過去の研究を超えていくべく、自分なりの最大限を更新し続けていくことをChem-Stationで誓います。

研究者の略歴

名前:山本 靖之(やまもと やすゆき)
所属:大阪府立大学大学院 理学系研究科 物理科学専攻 生体光物理グループ/ LAC-SYS研究所
研究テーマ:光発熱効果に基づく流体現象を利用した微小物質の濃度測定

略歴:
2014/03 大阪府立大学 工学部 電子物理工学科 卒業
2016/03 大阪府立大学大学院 工学研究科 電子・数物系専攻 博士前期課程修了(修士(工学))
2016/04 – 大阪府立大学大学院 理学系研究科 物理科学専攻 博士後期課程在学
2018/04 – 日本学術振興会特別研究員(DC2)

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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