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スポットライトリサーチ

有機ホウ素化合物を用いたSNi型立体特異的β-ラムノシル化反応の開発

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第166回目のスポットライトリサーチは、慶應義塾大学理工学部博士課程・西 信哉(にし のぶや)さんにお願いしました。

西さんの所属する戸嶋・高橋研究室は、糖鎖の合成法を研ぎ澄ませることで、生物応用・環境応用へと導くための分子化学の樹立を目指した研究に精力的に取り組んでいます。今回とりあげるのは、糖鎖をつなぐ「グリコシル化反応」を触媒制御下に行なうことで、複雑糖鎖の簡便合成を達成したという成果になります。本成果は先日Angew. Chem. Int. Ed.誌上原著論文およびプレスリリースとして公開されています。

“Stereospecific β‐l‐Rhamnopyranosylation through an SNi‐Type Mechanism by Using Organoboron Reagents”
Nishi, N.;  Sueoka, K.; Iijima, K.; Sawa, R.; Takahashi, D.; Toshima, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 13858-13862. doi:10.1002/anie.201808045

研究室を主催されている戸嶋一敦教授高橋大介准教授から、西さんについて以下の様な評を頂いています。今後とも様々な分野で活躍していくポテンシャルを備えた人材像がうかがえるかと思います。それでは今回も、成果をお楽しみ下さい!

西信哉君は、明るく、穏やかな性格で、研究室でも人気者です。また、研究に対して真摯に向き合い、努力を惜しまない頑張り屋でもあります。その結果の一つとして、通常は、2年間の修士課程を1年半で早期修了し、昨年の9月から博士課程の1年生として、研究に取り組んでいます。今回の成果は、まだ通過点ですが、一つの区切りとして、研究成果を発表し、高い評価を頂いたことは大変嬉しく思っています。今後は、次世代の有機合成化学を切り開く研究者の一人として、さらに活躍することを期待しています。(戸嶋一敦)

西信哉君は、素直で明るく、協調性にも長けた学生です。また、基本的に勉強が好きで、意欲的な性格なため、有機合成化学だけでなく、計算化学にも興味を持ち、地道かつ前向きに取り組んできました。この努力が今回の成果に結びついたと思います。現在は、薬学・生物学にも興味を持って日々勉強しています。今後、西君が目指す“有機合成化学を基軸とした複合領域で活躍する研究者”に成長することを期待しています。(高橋大介)

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

立体選択的な合成が困難であったβ-L-ラムノピラノシド(以下、β-ラムノシドと略す)を、立体特異的に合成する新手法の開発に成功しました(図1)。β-ラムノシドは、肺炎球菌および大腸菌をはじめとする様々な病原菌の抗原として含まれていることから、ワクチンへの応用が大きく期待されています。
本研究では、1,2-アンヒドロラムノース糖供与体と有機ホウ素化合物である芳香族ボリン酸およびボロン酸を用いることで、多様なβ-ラムノシドを立体特異的に合成可能にしました。さらに、速度論的同位体効果の測定およびDFT計算を用いた反応機構解析を行った結果、本反応が協奏的なSNi型の反応機構で進行することが示唆されました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究のすべてに思い入れがありますが、その中でも、芳香族ボロン酸触媒3を用いた1,2-アンヒドロラムノース1と4,6-ジオール糖受容体2とのグリコシル化反応を検討し、主生成物のNMRを見た瞬間の感動は忘れられません。具体的には、2が有する2つの水酸基のうち、反応性が高いのは、一般的に一級水酸基の6位ですが、私は、事前に分子模型レベルで、本反応の遷移状態を予想し、反応性が低い二級水酸基の4位に配糖化されるのではないかと仮説を立てていました(図2)。その後、実際に反応を検討した結果、本当に、4位にしかもβ立体特異的に配糖化が進行したことが分かり、大変喜びました。さらに、今回得られたβ(1,4)ラムノシド構造は、種々の病原菌に含まれていますので、様々な研究展開が期待できるのではないかと思い、ワクワクしました。このように、自分で作業仮説を立て、実証できた喜びは、現在の私の研究の原動力になっていると思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

反応機構解析です。速度論的同位体効果の測定やDFT計算による反応機構解析は、私にとって初の試みで、すべてが勉強になりました。論文を読んだだけの知識では、実際に解析を行うことは難しく、多くの方の助けを頂き、やっと論文にまとめられるだけのデータを得ることができました。速度論的同位体効果の測定に関して多くのご助言を賜りました微生物化学研究所の澤竜一博士、飯島希昌子博士、およびブルカージャパン株式会社の堤遊博士、DFT計算に関して多くのご助言を賜りましたシュレーディンガー株式会社の吉留大輔氏に深く御礼申し上げます。また、本研究を含むこれまでの研究において研究指導およびご助言をして下さった戸嶋一敦教授、高橋大介准教授、共同実験者の末岡和博君をはじめとする戸嶋・高橋研究室の皆様に深く御礼申し上げます。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学合成を用いて、新たに価値のあるものを生み出し、社会に貢献することが目標です。したがって、合成法を開発するだけでなく、ワクチンをはじめとする医薬や界面活性剤をはじめとする有用な物性を有する化合物の開発も合わせて行っていきたいと考えています。博士課程を修了した後も、国内外で研鑽を積み、化学の可能性を追求していきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究は、ほとんどがうまくいかないことばかりで、心が折れそうになることもあると思います。10回試して1回上手くいったら良い方だと、研究室に入った当初に言われていましたが、なかなかうまくいく1回が来ず、私もつらい思いをした時期がありました。そんな時に、私は、「失敗を繰り返し、苦労した方が、実験して得られた元々考えもつかなかったことがプラスされるから、より価値のある研究になる。むしろこれはチャンス。」と自分に言い聞かせて頑張りました。1つの考え方として参考にして頂けると幸いです。
最後まで、読んで頂きありがとうございました。
最後に、この研究を紹介する機会を下さったケムステーション運営の方々に深く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:西 信哉
所属:慶應義塾大学・理工学部・分子生命化学研究室(戸嶋・高橋研究室)
研究テーマ:有機ホウ素化合物を用いた立体選択的1,2-cis-β-グリコシル化反応の開発と応用

略歴
2016/03 慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 卒業
2017/09 慶應義塾大学大学院 基礎理工学研究科 前期博士課程 修了
2017/09- 慶應義塾大学大学院 基礎理工学研究科 後期博士課程 在学

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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