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スポットライトリサーチ

可視光活性な分子内Frustrated Lewis Pairを鍵中間体とする多機能ボリルチオフェノール触媒の開発

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第 625 回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院 工学研究科 有機・高分子化学専攻 有機反応化学講座 (大井研究室) 博士課程一年の 木倉 健翔 (きくら・たける) さんにお願いしました!

木倉さんの所属する大井研究室では、有機イオン対であるオニウム塩を活用した新規有機分子触媒の開発を中心とし、持続型社会への還元に取り組んでおられます。今回、木倉さんらのグループでは、Lewis 酸・塩基対となるホウ素と硫黄を活性中心とする有機分子光触媒を新たに開発し、その多彩な機能を明らかにしました。さらに木倉さんらは、開発した光触媒と青色 LED 照射により、これまで難しかった嵩高い非対称 1,2-ジオールの原子効率 100% での合成を実現しました。本触媒の有用性は高く評価され、Journal of the America Chemical Society (JACS) 誌に掲載されるとともに、名古屋大学よりプレスリリースも行われました。

p-Diarylboryl Halothiophenols as Multifunctional Catalysts via Photoactive Intramolecular Frustrated Lewis Pairs

Takeru Kikura, Yuya Taura, Yoshitaka Aramaki*, Takashi Ooi*
J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 29, 20425–20431.
DOI: https://doi.org/10.1021/jacs.4c06122

Abstract
p-Diarylboryl halothiophenols are developed and unequivocally characterized. Their photophysical properties and catalytic performance are unveiled by experimental and theoretical investigations. This novel class of triarylboranes behaves as a Brønsted acid to generate the corresponding borylthiophenolate that can absorb visible light to undergo intramolecular charge transfer to form a radical pair consisting of a boron radical anion and thiyl radical, which acts as a single-electron reductant while engaging in hydrogen atom transfer to regenerate the parent borylthiophenol. The synthetic relevance of this mode of action is demonstrated by the establishment of unique catalysis that integrates three different yet tunable functions in a single catalytic cycle, thereby allowing borylthiophenols to solely promote the assembly of sterically congested 1,2-diols and 1,2-aminoalcohol derivatives via radical–radical cross-coupling.

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・大学院工学研究科の大井 貴史 教授、荒巻 吉孝 助教、工学研究科の木倉 健翔 博士後期課程学生らの研究グループは、硫黄とホウ素を活性中心とする新たな光触媒を開発しました。
この触媒は、ブレンステッド酸としての機能を果たすと可視光を吸収できる構造へと変化し、青色LEDの照射によって励起され、一電子還元剤としての機能と、炭素–水素結合から水素原子を引き抜いて炭素ラジカルを発生させる水素原子移動剤としての機能を発揮するようになります。

(中略)

本研究成果は、2024年7月8日付アメリカ化学会誌『Journal of the America Chemical Society』オンライン速報版に掲載されました。

名古屋大学プレスリリースより

今回の研究を現場で指揮された、大井研究室 助教の 荒巻 吉孝 先生より、木倉さんについてのコメントを頂戴しました!

木倉くんとは、学部四年生に大井研究室に配属されたときから3年少し研究を共にしてもらっています。彼は、四年生のころから創薬研究を行うために有機合成化学を極めたいという明確な目標と意思をもっており、ストイックに夜遅くまで研究に打ち込む姿は修士以下の後輩たちの良い手本になっています。

彼自身も記事中で書いていることですが、私自身が典型元素や構造有機化学の畑の人間なので物性データに対するこだわりが強く、納得できるような物性データを出してもらうまで何度もダメ出しをしてしまいましたが、木倉くんが丁寧に測定・反応条件を詰めていくことで再現性の高いデータを得られ、論文としてまとめることが出来ました。

また、実はボリルチオフェノールの3つの触媒機能というのは最初から想定していたわけではなく、第二著者である田浦くんの「ボリルチオフェノール合成に使った後の無色のはずのフラスコをアセトンで洗っていると何故かいつもアセトンが黄色になるんですよね」というちょっとした気づきがきっかけでした。当初は、この触媒分子は塩基性条件下で可視光活性なボリルチオフェノラートとなり HAT と還元の機能をもつということを想定して反応開発をしていたのですが、この一言をきっかけにアセトン中では塩基がなくても勝手に黄色いボリルチオフェノラートが発生する、つまりボリルチオフェノールがアセトンに対してブレンステッド酸として機能するということに気づきました。さらにそこからアセトンがプロトン化できるのであれば、ケトンをプロトン化して一電子還元と組み合わせればα-ヒドロキシラジカルが出せるはずで、それを HAT で出したラジカルとのラジカル–ラジカルクロスカップリングができるはずだということになり、最終的に木倉くんが触媒の3つの機能をフル活用した論文中の反応を完成させてくれました。実際に実験を行ってくれた木倉くんと田浦くんのちょっとしたことを疑問に思う観察力と実験科学者としてのセンスがなければこの成果は生まれてこなかったはずです。

現在木倉くんは博士一年で、光物性面からのボリルチオフェノールのユニークな性質の解明と、分子内 FLP のコンセプトを利用した新しい触媒の開発に取り組んでいます。是非、木倉くんの今後の活躍に期待して下さい!

それでは、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

嵩高い Lewis 酸・塩基対 (Frustrated Lewis Pair : FLP) 内での一電子移動 (SET) は、元素固有の性質を示す二種類のラジカルを同時に発生させることができ、合成化学においても近年用いられ始めましたが、その多くが化学量論量の反応にとどまっていました。このような背景の中、私たちの研究室では分子間 FLP 内での SET を光照射により加速できることを見出し、Lewis 酸である B(C6F5)3 を光酸化・還元触媒とした反応系を実現していました。しかし、Lewis 酸・塩基対から発生する二つのラジカルの両方を触媒的に利用するシステムの構築には至っていませんでした。私はこの理由を、FLP の構造上の特徴から光活性な会合状態の Lewis 酸・塩基対の存在確率が低く、反応の促進に十分な濃度のラジカル対の生成が見込めないことにあると捉え、分子内 FLP を用いることでこの問題を回避できると考えました。

具体的には、トリアリールボランの一つのアリール基上のパラ位にチオールを有するp-ボリルチオフェノールを設計、合成しました。この分子はBrønsted 酸として働いた後に可視光を吸収できる分子内 FLP となり、光励起による分子内一電子移動を経て、チイルラジカルとホウ素アニオンラジカルの分子内ラジカル対を与えます。このようにして生じたチイルラジカルが水素原子移動 (HAT) 剤、ホウ素アニオンラジカルが一電子還元剤として働きチオフェノールが再生し、触媒として機能します。実際に、本論文ではベンジルアルコールとベンゾフェノンを用いた反応により、本触媒がBrønsted酸、一電子還元剤、HAT 剤として機能することを実証しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

思い入れがあるのは新たに設計・合成した触媒を評価するための物性測定です。分子内 FLP となるアニオン状態は空気中では不安定なため、測定のたびにグローブボックスで毎回調製しなければならず特に夏は暑くて大変でした。何回も測定し直してやっとデータが完成した時は達成感と開放感でいっぱいでした。また、未発表データも含むので詳細についてここに書くことはできませんが、本触媒は、イリジウムやアクリジニウム、4CzIPNなどの汎用される光触媒とは異なる挙動を示すことが多々ありました。測定した結果が想定と違うことでゴールが遠ざかったと感じる一方で、未知の現象が生まれているのかもしれないという期待感は研究のモチベーションになりました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

カップリング反応の目的物の精製に苦労しました。原料と生成物の官能基が共通しており TLC 上でほぼ同じスポットとして見えるので、カラムでの分離が困難でした。シリカゲルの種類、展開溶媒を変えてスポットが分かれる条件を探すことによってカラムで精製できましたが、中には単離収率が NMR 収率に比べてぐっと下がるものもあったので、何回もやり直してできるだけ NMR 収率に近い単離収率で目的物をとってきました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

創薬研究に携わる仕事に就きたいという思いは大学に入る前から変わっていないので、博士後期課程修了後は製薬会社に就職したいと考えています。会社では研究目的、人員、設備等大学の研究室とは全く異なる環境での研究になると思いますが、研究室で学んだ研究に対する姿勢を大切に、社会が求めているものを創れるような研究者になりたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

研究を続けるうえで苦しいこともありますが、日々の研究室メンバーとの何気ない雑談や学会などで自分の研究に興味を持って下さる人たちとの交流で、「明日は頑張ろう」を続けられています。最後に、本研究を遂行するにあたり多大なご指導を頂いた大井先生、荒巻先生、大松先生、中島先生、日々の研究生活を支えてくれているラボメンバー、友人、家族に深く感謝申し上げます。また、本研究を取り上げて下さった Chem-Station のスタッフの皆様に感謝いたします。

研究者の略歴

名前: 木倉 健翔
所属: 名古屋大学大学院 工学研究科 有機・高分子化学専攻 有機反応化学講座 (大井研究室) 博士一年
テーマ: 光活性な分子内 FLP を用いた新奇触媒の創製

 

木倉さん、荒巻先生、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

関連動画: 大井貴史先生のケムステVプレミアレクチャーご講演動画

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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