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地方の光る化学企業 ~根上工業殿~

Tshozoです 前回から随分間が空いてしまったのですが、再び企業シリーズを載せていこうと思います。 お付き合いください。

今回ご紹介するのはこちらの企業 「根上工業」殿です。

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根上工業殿ロゴ 同社HPより引用

【以下、同社HP及び、日刊工業新聞殿の「元気印中小企業の同社記事を参考にいたしました】

 

【根上工業・・・どんな企業?】

もともと、「小松精練」という会社(こちら/金属加工会社のようなお名前ですが、実際はファブリック製品製造会社です)と、アクリル系エマルジョン製品で著名な新中村化学工業(こちら)の共同出資により、繊維類や布、フィルム類への防水加工と目的としたアクリル系コーティング樹脂材料の製造に端を発した企業です。しかし現在はその供給先は大きく変化し、より特殊性の要求される電子材料、機能材料、化粧品材料、歯科用材料、塗料添加剤、皮脂表面改質剤など極めて広い技術的裾野と顧客を持つようになっています。

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同社の2013年時点での売上製品用途内訳(数字は%です)

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同社の製品(微粒子ポリマ・表面改質剤・粘着剤・硬化性樹脂など)が応用された商品群のごく一例
いずれも同社HPより引用

設立は筆者が生まれた10年後の1972年、現在の従業員数は100名強と小規模ではありますが、その社員の3割近くが研究開発をしながら多品種少量の製品を販売する顧客の現場に向かい、現場のニーズを吸い上げるという、「ニッチ・トップ」に必要な会社像を体現されている企業で、その高い利益率に基づいて上下一致・フラット&オープンをキーワードに、新幹線が繋がった石川県を根城にその活躍のフィールドを広げようとしています。

 

【何を作っているのか?】

創業がアクリル系樹脂材ということもあってその応用製品が中心ですが、その中でも面白いものが「ポリマー微粒子」。よく論文などでは見かけるアレですが、実際にキログラム~トンスケールでこれを安定的・連続的・高品質に作ろうと思うと相当の技術的蓄積とコツが必要になることは、経験された方ですとよくご理解いただけると思います。現在ではアクリル系よりも柔軟性の高いウレタン系の微粒子ラインナップを拡充されているようです(ラインナップはこちら)。

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同社の主力品「アートパール(PMMA・ポリメチルメタクリレート架橋樹脂)」
表面改質剤、アンチグレア剤、色素固定剤として使用される

Web情報レベルでも材料、粒径、表面状態など多様でとんでもない種類がある模様

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ビシィっと粒径がそろったバージョンも存在 一体どうやって合成してるのやら・・・

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最近ではこんなものも 特許上は組成と合成順序を変えているだけだが
相当ノウハウが存在するもよう(同社特許より引用)

しかも合成するだけではなく、実際に製品として売るためには温度変動や湿度変動、振動などの外乱に対しても高い分散性、安定性を維持しなければならないのは言わずもがな。加えて顧客の要求に応じ細かく作り分けなければならないという、およそ想像できない難しさを伴うことになります。焼鳥屋で言うと材料にモモ、カワ、ツクネ、カシラ、・・・・があったりして、焼き加減、塩かタレか、子供が食べるのか、高齢者が食べるのか、云々を即座に作り分けられるようなことをやっていることになりますでしょうか。

もちろんこれ(ポリマー微粒子)だけではなく、半導体パッケージングなどに使用される反応性硬化樹脂(商品名「アートレジン」)の売行きも好調で、広く浅く様々な種類に適用されており、アクリル樹脂合成から蓄積されたその技術力を如何無く発揮しています。ただし今回はトピック的な意味も含め、上記の「アートパール」にポイントを置いて記述を続けます。

 

【どうやって作っているのか?(アートパールについて)】

アートパールの1ラインナップであるポリメチルメタクリレート樹脂(下図の分子構造のもの)は同社HPの説明に記載されている通り「懸濁重合」が主に用いられるようです(基本的にウレタン系も同じ製法が適用されることが多いが、用途や粒径に応じ乳化重合も適用されるもよう)。

懸濁重合というのは、アレです、料理で言うとドレッシング的なもの。ドレッシングをほっとくと油と酢(水系)に分離しますが、振り続けていると油の微粒子が酢の中に浮かんだようになります。乱暴な言い方ですが、基本的にはこの原理を利用し、油→モノマー+重合開始剤、酢→水などに入れ替えたものが懸濁重合です(粒の安定化のため、更に色々な材料を加えるのが通常の方法)。水の温度をコントロールしやすかったたり、かき混ぜながらUVを照射したりするなどして合成条件を安定化出来ることから精密高分子の代表的な合成方法となっています。

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代表的なポリメチルメタクリレートの分子構造

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懸濁重合のイメージ このOil側がモノマーに相当し、
球状のままうまく固めれば微粒子ポリマーが出来る

 なおこの分家の代表的な合成方法として界面活性剤を適用した乳化重合という方法もあるのですがコンタミ除去が苦手な筆者が嫌いなので内容の簡単化のため今回は割愛します。

 

【何に使われているのか?】

アートパールについて見てみると、インク、化粧品、歯科材料へ応用・商品化が既に為されているようで、特に化粧品、ファンデーション中の皮脂吸着成分としての用途の製品はほぼ独占しているもようです(具体的にどのメーカに使われているかについては残念ながら明らかに出来ませんでしたが・・・)。インクについては現在でも市販されているゲルインク用のボールペンに適用されているとのことです。ボールペンもそのインク担持物、つまりボールの間をねり出てくる樹脂系微粒子によって、書き味や見栄えなどが大きく異なってきます。またボールの大きさ、色、メーカによってもその要求は様々であり、上記の焼き鳥のたとえを持ち出すまでもなくその作り分けが迅速かつ高い再現性で出来ることが非常に重要になってくるわけです。

このように、ひとくちに微粒子と言っても様々なメーカがあり、例えば三井化学殿では“グロスデール”というポリスチレン系の材料で同様の形状・粒径の材料を上市しています。しかし、弾数が出る製品ならともかく、顧客の要望は千差万別。特に化粧品のような「多品種少量」「高速流行サイクル」「感覚が最重要」な商品に対しては迅速かつ感覚的な作り分けが出来ることが必須の条件になります。今回化粧品の場合はポリウレタン微粒子の「柔らかさ」を活かしたことが独占につながったようですが、その基礎には顧客からの要求をより正しく製品に反映させる同社の実力があったのだと思います。

 

【今後の展開は?】

取り急ぎ根上工業殿の特許動向を見てみますと、実は同社から数的にはあまり出ていない。少量多品種を作り分けるノウハウに足場を置いて製品を売ることが同社の立ち位置であり、特許で稼ぐというスタンスではないのかもしれません。しかし2012年あたりに、シクロデキストリン包接体を吸着させた微粒子の合成特許を出していました(シクロデキストリンの繊維への固定化に使ったもようです)。これはDDS(ドラッグデリバリーシステム)のように、体内に入って所定の位置で薬効剤を放出するような材料に適用していると面白いんではないか、同社の技術力を持ってすれば生態内で毒性の低いポリマーを応用した興味深い材料を合成出来るのではと期待しています。

あと、意外だったのが農業(アグリ)関係への開発をあまりされていないこと。以下は筆者の憶測ですが、アグリ関係の製品はその性質上なかなか高く売れないこともあり、たとえば農薬の場合だと原体とセットでないとビジネスとして成り立たないのかもしれません。しかし、たとえばそうした農薬でも同社の技術を活かして薬効が長く、高い付着性を持ち、生分解性があり、しかも最低限の分量しか必要ない製品が実現し得るのではないかという気がしています。

 

【まとめ】

同社のように様々な業界で広く浅く「本当に必要な」材料を作り、世界に広がる製品に搭載されているということは言うまでもなく非常に素晴らしいことです。地方に居ると地の利が乏しく、特に生活などで色々どうにもならんケースが多々あるのですが、今回のように新幹線で東京に1本で出られるようになったりしており、現存する小松空港に加えて利便性が上がるなど、確実に交通事情も改善されていっています。それに伴い根上工業殿のように光る技術を持つ企業のプレゼンスも上がっていくであろうことを期待して、今回の記事のシメとしたいと思います。

それでは今回はこんなところで。

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メーカ開発経験者(電気)。54歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。
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