[スポンサーリンク]

一般的な話題

ビッグデータが一変させる化学研究の未来像

[スポンサーリンク]

 

GoogleやFacebookのような人類の生活に欠かせないものになりつつある情報の集約と提供を行う企業は、我々の生活を一変させてしまいました。

近年の科学では膨大なデータを扱う事が普通になって来ました。ゲノム情報やタンパク質のX-線構造解析、大気や流体の解析、化学反応の経路探索や化合物の安定配座の検索などデータの塊のような情報がさらりと流れています。

 

筆者が大学生の時に買ったPCはメモリーがせいぜい8メガバイトでした。増設メモリーが8メガバイトで数万円です。さて最近ではUSBメモリーとして1ギガバイトの製品が1000円しないで売られています。ハードディスクは2テラバイトの製品が数万円で普通に売っていますよね。扱う事ができる情報が増えるに従って、様々な事が可能になり、生活や研究環境は大きく様変わりしましたが、これは一体どこまで増えるのでしょうか?ペタバイトエクサバイト

 

Nature Chemistry誌より、そんな加熱する情報化社会と化学者の未来像について議論したTulane大学のBruce C. Gibb教授によるthesisをご紹介します。前回はこちら

 

Big (chemistry) data

Gibb, B. C. Nature Chem. 5, 248-249 (2013). Doi: 10.1038/nchem.1604

 

化学者はこのBig-Dataによってどのような影響を受けているでしょうか。

昔話ばかりで申し訳ありませんが、筆者が学生の頃、ある化合物に関して合成法などを調査する際にはChemical Abstractsケミアブ)が欠かせませんでした。これは発表された論文に記載されている化合物全てをインデックスした言わば検索エンジンでした。しかし、これは書籍であり紙媒体に記録されているものなので、調べたい化合物に関して過去全ての年の巻を調べる必要がありました。一つの化合物を調べるのに丸一日かかります。一冊が広辞苑のような厚さで、それが毎年数冊ですから図書館の一角がChemical Abstractsで占められていたものです。今でも図書館に行けばあると思いますのでぜひ探してみて下さい。

This storage of data is good for the statisticians, epidemiologists and so on. But what about the humble, end-user, chemist?

さて時代は進み、ケミアブの情報が電子化されるのは当然の流れで、今ではSciFinderやReaxysGoogle Scholarなどがケミアブに取って変わられた訳です。化合物の構造や名称、著者の名前を入力してポチッとすれば一瞬で必要な情報がモニタに出てきます。

big_data_1.png

図は論文より引用

そんな技術の延長で将来的には欲しい化合物の構造を入力すると、合成法を調べてくれて、三次元プリンターで実験装置が組み立てられ、試薬が自動的に混合されて合成される。反応条件の検討も自動で96穴プレートでやってくれますし、精製も自動で、出来た化合物が液体であってもX-線構造解析で自動的に構造を決めてくれるのでしょう。

さらには実験手順も自動で書き出してくれる。それだけじゃありません。論文も自動的に書いてくれますのでイントロと結論を書けば終わりです。もちろん必要な引用文献も自動で収集してくれます。
研究費を得る為の申請書も自動です。研究者を測る指標はh-indexではなく、どんな事を思いついたのか、idea index (i-factor)で示される事になるでしょう。申請書を提出すれば、i-factorを基に審査され、あっという間に採否が決定しその場で研究費が振り込まれて研究をスタートできます。よって研究室は化学の知識が重要な役割を果たす実験よりも、知識のマネージメントが重要になってくるでしょう。
As the river of scientific discovery sweeps onward, we need to embrace new and potentially dangerous currents.
益々加速する情報化社会の流れにおいて、化学の世界もそのに乗っていくのでしょう。その流れの全てを知る必要はないですが、基本をおさえ、何がいいアイディアのように見えるのかを知り、あとは水着があればいいのではないでしょうか。いや待てよあなた泳げますよね?

関連書籍

 

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 有機化学を俯瞰する –古代ギリシャ哲学から分子説の誕生まで–【前…
  2. 2007年度ノーベル医学・生理学賞決定!
  3. 研究者のためのCG作成術③(設定編)
  4. (–)-Spirochensilide Aの不斉全合成
  5. グリコシル化反応を楽にする1位選択的”保護̶…
  6. とある農薬のはなし「クロロタロニル」について 
  7. 無保護アミン類の直接的合成
  8. 工業製品コストはどのように決まる?

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 分子模型を比べてみた
  2. 単一分子を検出可能な5色の高光度化学発光タンパク質の開発
  3. ソモライ教授2008年プリーストリー賞受賞
  4. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2018年版】
  5. 生体共役反応 Bioconjugation
  6. たばこと塩の博物館
  7. 第17回ケムステVシンポ『未来を拓く多彩な色素材料』を開催します!
  8. ステッター反応 Stetter reaction
  9. 第23回「化学結合の自在切断 ・自在構築を夢見て」侯 召民 教授
  10. 旭化成ファーマ、北海道に「コエンザイムQ10」の生産拠点を新設

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに…)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

分子のねじれの強さを調節して分子運動を制御する

第602回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科 塩谷研究室の中島 朋紀(なかじま …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP