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スポットライトリサーチ

狙ったタイミングで分子を変身させる ―オンデマンドでのイソシアネート生成反応を用いたタンパク質修飾法の開発―

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第 672回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室 (金井 求 研究室) で助教として活躍されている、山梨 祐輝 (やまなし・ゆうき) 先生にお願いしました!

直近のスポットライトリサーチでも紹介しましたが、金井研究室では触媒化学とライフサイエンスの融合を追求しており、さまざまな触媒を用いた in situin cellulo でのタンパク質修飾において数々の成果を挙げられています。これまでにも、トリプトファンチロシン選択的なタンパク質修飾法の開発、また化学触媒によるヒストンアセチル化の実現など、さまざまな成果をケムステでも紹介してきました。

今回、山梨先生のグループでは、細胞内で任意のタイミングで高反応性のイソシアネートを生成し、それを用いてタンパク質を修飾する新しいバイオコンジュゲーション反応を開発しました。医薬品開発・生命現象解析などへの幅広い応用が期待される本研究の成果は非常に高く評価され、J. Am. Chem. Soc, 誌に論文掲載されるとともに、東京大学からプレスリリースも行われました。

Induced Bioconjugation via On-Demand Isocyanate Formation

Yuki Yamanashi*, Menghan Xu, Shigehiro A. Kawashima, Motomu Kanai*

J. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 27232–27237, DOI: 10.1021/jacs.5c11603.

研究を統括された、教授の 金井 求 先生より、山梨先生についてのコメントを頂戴しました!

山梨さんは、D1 のときに、企業に獲られる前に中退して、助教になってもらった若手です。頭も手もよく動き、誰が見てもキラキラで、私のような年寄りは眩しすぎて直視できんな、といつもうらやましく思っています。と言いつつ、その実、私も D1 で中退していて、当時は私もこんなだったかもな (だったらよいな)、と彼と話しながら勝手に 30 年くらいフラッシュバックしています。将来、私なんかを大きく超えて、世界の基礎研究の潮流を創り先導する研究者になることを強く期待しています。

それでは、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

生体分子を共有結合で繋ぐ手法であるバイオコンジュゲーションは、生体分子の可視化や、抗体薬物複合体をはじめとしたバイオ医薬品、コバレントドラッグなどに広く利用されています。理想的なバイオコンジュゲーションには、短時間で反応が進行する高い反応性が求められますが、高反応性を有する化学種は一般に不安定であり、合成・保存中の分解や、生体内での非特異的反応を引き起こすリスクがあります。特に、イソシアネートは高い反応性をもつ理想的な化学種であるものの、過剰な反応性のため、バイオコンジュゲーションへの応用例は限られていました(1)。

図 1. イソシアネートの特徴

本研究では、イソシアネートの安定な前駆体を用い、活性化剤の添加によって必要なタイミングでのみイソシアネートを生成する反応を開発しました (図2)。これにより、化合物の分解リスクを回避しながら、目的のタイミングで迅速かつ選択的にタンパク質を修飾できました。さらに、この反応を用いることで、生きた細胞内において、標的タンパク質を選択的に修飾できることを示しました。

図 2. オンデマンドでイソシアネートを生成する新規反応

具体的には、ヒドロキサム酸がスルホニルフルオリドと反応することで C-N 結合と N-O の切断が起こり、イソシアネートを生成するという反応機構で進行すると考えています。似たようなヒドロキサム酸からのイソシアネート生成反応である Lossen転位 とは異なる結合の切断が起こっているのが特徴的です(3)。この反応は、生体内のタンパク質を速やかに修飾する基盤技術として、今後の医薬品開発や生命現象の解析への応用が期待できると考えています。

図 3. 今回の反応と Lossen 転位の比較

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

この研究テーマは、私が学部4年生のときから取り組んでいた、細胞内のヒストンタンパク質をアセチル化する触媒[1]の開発中の予想外の結果から生まれたものです。この触媒は、リジン残基のアシル化触媒活性を持つ部位としてヒドロキサム酸–ピロリジン骨格[2,3]を用いており、この触媒活性部位をヒストン結合リガンドと繋げた構造を持っています。この触媒の活性を、細胞から精製した核の中で調べていた際に、目的のヒストンのアセチル化だけでなく、ヒストンと触媒が共有結合で繋がるという謎の現象が観察されました (図4)。この現象には、核内のタンパク質の分解を防ぐために加えていた PMSF (phenylmethylsulfonyl fluoride) が必要であることがわかり、そこから詳細に反応機構を調べたことで、今回発表した内容に至りました。

図 4. PMSF によってヒストンと触媒が共有結合で繋がる “謎の反応”

この反応を初めて見つけたのは M1 の学生だった 2020 年でした。当時からご指導いただいていた川島先生 (現・金井研 准教授) から「こういう偶然の発見は徹底的にこだわって調べるのが良い」というアドバイスをいただいたこともあり、反応機構の解析に始まり、実用可能なレベルの手法への展開に至るまで、自分なりにこだわって進めた点に思い入れがあります。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

まずは先述の、核内のヒストンと触媒の結合形成のメカニズム解析が難点でした。2020 年当時から、明確に生成物を検出することができず、どのアミノ酸と反応しているのかも含めてメカニズムは数年間謎のままでした。ある日、「全く別の目的で作っていた、触媒とペプチドが繋がった分子で試したら何か見えるのではないか」と思いつきました。研究室内で、触媒を繋いだペプチドを用いたアシル化触媒の活性評価系を報告していた背景[4]もあり、とりあえず試してみることにしました。その結果、リジンと触媒部位が反応して出来た、ウレア結合を持つ環状ペプチドが効率的に得られたことから (図5)、このメカニズムに辿り着きました。

図 5. 触媒とペプチドが繋がった分子でのメカニズム検討

さらに、この反応をバイオコンジュゲーションに実用可能なレベルに発展させるのも重要な課題でした。ここでは、アセチル化触媒で用いていたボロン酸とジオールの間の可逆的なボロン酸エステル形成の仕組みを再利用しています (6)

図 6. 可逆的なボロン酸エステル形成を利用した反応効率化

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

現在は、金井研究室にて助教をしており、金井先生が提唱してきた「触媒医療[5] の実現に向けて、生体内で機能する化学反応の開発に取り組んでいます。人材・設備ともに恵まれた環境で研究できることへの感謝を忘れず、セレンディピティを見逃さない視野を持ちながら、生体内化学反応の開発・それを用いた新たなサイエンスの創出に取り組んでいきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

今回の研究は、研究室の先輩方の努力によって積み上げてきた知見をたくさん活用させていただき、これまでのアセチル化触媒とは全く異なる反応を開発することができました。特に、コアとなるヒドロキサム酸-ピロリジン骨格を持つ触媒開発を中心的に担われた水本真介さん (現富士フィルム)、Chris Adamson さん(現NTU)、山次健三先生 (現千葉大) が残された知見[2-4]なくしては本研究の遂行は不可能であり、改めて感謝申し上げます。さらに、本研究の遂行にあたりご指導いただいた金井先生と川島先生、化学実験を強力にサポートしてくれた Xu さんに、この場を借りて深く感謝申し上げます。

最後に、いつも拝見しているこの企画へお声がけいただき、本研究をご紹介する機会をくださった Chem-Station の皆様と、読んでいただいた読者の皆様に深く感謝申し上げます。

【研究者の略歴】
名前:山梨 祐輝
所属:東京大学大学院 薬学系研究科 助教
研究テーマ:生体内化学反応による治療概念創出
略歴:
2020年3月 東京大学 薬学部 薬科学科 卒業
2022年3月   東京大学大学院 薬学系研究科 修士課程 修了
(金井 求 教授)
2022年4月-
2023年3月 日本学術振興会特別研究員 (DC1)
2023年3月 東京大学大学院 薬学系研究科 博士課程 退学
(金井 求 教授)
2023年4月-現在 東京大学大学院 薬学系研究科 助教
(金井 求 教授)

左: 金井 求 先生、右; 山梨先生

参考文献

(1) Yamanashi, Y.; Takamaru, S.; Okabe, A.; Kaito, S.; Azumaya, Y.; Kamimura, Y. R.; Yamatsugu, K.; Kujirai, T.; Kurumizaka, H.; Iwama, A.; Kaneda, A.; Kawashima, S. A.; Kanai, M. “Chemical Catalyst Manipulating Cancer Epigenome and Transcription”, Nat. Commun. 2025, 16, 887. 東大プレスリリース, “Behind the paper” on Chemistry Community, DOI: 10.1038/s41467-025-56204-2.

(2) Mizumoto, S.; Xi, S.; Fujiwara, Y.; Kawashima, S. A.; Yamatsugu, K.; Kanai, M. “Hydroxamic Acid-Piperidine Conjugate Is an Activated Catalyst for Lysine Acetylation under Physiological Conditions”, Chem. Asian J, 2020, 15, 833–839, DOI: 10.1002/asia.201901737.

(3) Adamson, C.; Kajino, H.; Kawashima, S. A.; Yamatsugu, K.; Kanai, M. “Live-Cell Protein Modification by Boronate-Assisted Hydroxamic Acid Catalysis”, J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 14976–14980, DOI: 10.1021/jacs.1c07060.

(4) Yamatsugu, K.; Furuta, M.; Xi, S.; Amamoto, Y.; Liu, J.; Kawashima, S. A.; Kanai, M. “Kinetic Analyses and Structure-Activity Relationship Studies of Synthetic Lysine Acetylation Catalysts”, Bioorg. Med. Chem. 2018, 26, 5359–5367, DOI: 10.1016/j.bmc.2018.07.009.

(5) Kanai, M.; Takeuchi, Y. “Catalysis Medicine: Participating in the Chemical Networks of Living Organisms through Catalysts”, Tetrahedron, 2023, 131, 133227, DOI: 10.1016/j.tet.2022.133227.

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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