[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス入門⑤ ~ディスプレイ分野などで活躍する化学メーカー編~~

[スポンサーリンク]

化学者のためのエレクトロニクス入門と銘打ったこのコーナーも、今回で5回目となりました。前回はプリント基板の製造にかかわるファインケミカルと、その生産に携わっている企業をご紹介しました。今回はディスプレイやその他の素子に関連する製品・企業を見ていきます。

812492_m

812492_m

スマートフォンのディスプレイにも化学が関連しています(画像:photo AC

スマートフォンの普及に伴って、ディスプレイ(表示装置)も発展しています。代表的な方式に液晶有機EL(OLEDが挙げられます。

液晶ディスプレイ(LCDはネマチック液晶の配向状態が電界によって変化する性質を利用した表示装置です。液晶分子の層を、分子の配列を整える配向膜で挟み、さらに透明電極で挟んだものを偏光板で挟んだ構造をしています。配向膜は微細な溝を刻んだ板ですが、二枚の配向膜をその溝の方向が直角になるようにおきます。すると電圧が加わっていないと液晶分子は二枚の配向膜に沿うように、少しずつ角度をつけて並んでいますが、電圧を印加すると分子は縦方向に配向するようになり、このときに旋光度が変化します。これを二枚の偏光板で挟むことで、明暗の変化として出力することが出来ます。カラーディスプレイにおいては、さらに光の三原色(RGB)に対応したカラーフィルタを被せることで、全ての色彩を表現することが可能になります。以下、構成部分別にみていきましょう。

TN-LCD-schematic-MS-208kB

液晶ディスプレイ(LCD)の原理(画像:Wikipedia

①液晶材料

Liquid_crystal_chemicals

液晶材料(画像:Wikipedia

概要

現在は上記の性質を示すネマチック液晶が主流です。

供給元

メルクチッソDIC旭電化工業など

最近のトピック

電子ブックなど省電力ディスプレイの実現に向けたコレステリック液晶を利用する素素子や、応答性や視野角で優れるスメクティック液晶を用いた素子も開発が進められています。

②配向板

概要

ポリイミドなどのフィルムに溝を刻む(ラビング)ことで製造されています。

供給元

JSR(旧:日本合成ゴム)と日産化学がシェアをほぼ二分しています。

最近のトピック

透過率・応答性の向上と高精細化を目指した研究が日夜行われています。

③偏光板

polarizer

偏光板(画像:Flickr

概要

ポリビニルアルコール(PVA)などのフィルムにヨウ素化合物などを添加して染色し、一方向に圧延します。これにホウ酸を加えて架橋を施すことで製造されます。

供給元

日東電工住友化学LC化学(韓国)が三強です。その素材となるPVAフィルムはクラレ日本合成化学が大手です。

最近のトピック

薄型化フレキシブル化、タッチセンサーの偏光板内側への配置などの需要にこたえるための研究開発に、各社がしのぎを削っています。

④カラーフィルタ

color filter

LCDの顕微鏡写真(画像:Flickr

概要

液晶そのものは光の透過量の変化しかできないため、色彩を表現する上では光の三原色に対応したカラーフィルタが必要です。優れた発色性を得るためには特殊な顔料を用い、適切に分散させる必要があります。分散剤にはブロックコポリマーが使用されており、リビングラジカル重合で製造されています。

 供給元

顔料:東洋インキDICなど

顔料分散剤:大塚化学など

有機ELはOLEDともいい、有機半導体で構成されていることを除けば基本原理は発光ダイオード(LED)と同一です。

⑤有機EL

OLED_screen

OLEDを採用したスマートフォン(画像:Wikipedia

概要

有機ELは、p型半導体に相当し陽極から正孔を輸送する正孔輸送材料と、n型半導体に相当し陰極からの電子を輸送する電子輸送材料の間に、正孔と電子を再結合させて発光させる発光層材料を配置した構造となっています。さらに、耐久性や発光効率の向上を目的に添加されるドーピング色素材料も必要です。

供給元

出光興産MerckUDCダウ・デュポン住友化学など

最近のトピック

電子と正孔との再結合により発光層の分子が励起されるとき、一重項状態と三重項状態になる分子の割合は1:3で一定です。ここで、一重項状態の励起分子は直ちに蛍光としてエネルギーを放出しますが、三重項状態の励起分子は燐光や無放射遷移などでエネルギーを放出しますが、有機分子で燐光を示すものは稀で、この場合エネルギー効率は最大でも25%にとどまります。燐光を発生させるには重金属錯体などが利用されますが、高い駆動電圧を要する点や青色に発行する材料の実用化が遅れているなどの課題もあります。

そこで、熱活性化遅延蛍光(TADFと呼ばれる現象を用いた打開が試みられています。TADFは熱によって三重項状態から一重項状態へとさらに励起する現象で、これを用いることで効率はほぼ100%まで向上します。現在TADF材料の開発が競われており、一部は実用化に至っています。

ほかにも、CPUはクロックと呼ばれるパルス信号に合わせて動作しており、これを一定のリズムで正確に刻む素子も重要です。この、いわば電子機器の心臓とも呼べる役割を担っているのが水晶振動子です。

⑥水晶振動子

16MHZ_Crystal

水晶振動子(画像:Wikipedia

概要

CPUの駆動に使われるクロックを発生させる素子です。コンピュータの心臓といっても過言ではありません。

水晶(圧電体)には電圧に応じて変形する/変形に応じて電荷を生じる性質があります。これを電極に挟んで適切な回路(発振回路)に接続すると、固有振動数に従って高い精度で安定した正弦波を出力することが可能です。精密に加工された純水晶の結晶を用いると、誤差をppmオーダー以下に抑えることができます。この精度を活かし、吸着した物質などの微少な質量を測定する水晶振動子マイクロバランス(QCMと呼ばれる分析法もあり、表面化学分野で活躍しています。QCMについては別途記事で触れる予定ですのでお楽しみに。

供給元

日本電波工業リバーエレテック京セラ三田電波など

最近のトピック

PC、スマホなどのモバイル端末などの用途向けに一定の需要がありましたが、デジタル家電の普及やIoT化の進展によってさらに需要が高まる可能性があります。また、5G通信の実用化などにより高周波帯域の発振を目的とした製品も登場しています。なお、より優れた利点を有するMEMS発振器が猛追していることから、先行きは不透明です。

ソルダーレジストや金属めっきをはじめ、このあたりの分野は非常に奥が深く、一回の投稿では十分に記すことができませんので、別途シリーズを作るかもしれません。

長くなりましたが、今回はこのあたりで区切ります。次回はエレクトロニクスの今後についてご紹介する予定です。お楽しみに!

関連リンク

グローバルニッチトップ企業の5年後の現状と課題(令和元年6月 経済産業省製造産業局総務課)

2019年9月11日付 日経新聞朝刊全国版 スマートフォン特集

関連書籍

[amazonjs asin=”406257084X” locale=”JP” title=”図解・わかる電子回路―基礎からDOS/V活用まで (ブルーバックス)”] [amazonjs asin=”4798027979″ locale=”JP” title=”わかる!電子工作の基本100″] [amazonjs asin=”4774130788″ locale=”JP” title=”作る・できる/基礎入門 電子工作の素”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. π電子系イオンペアの精密合成と集合体の機能開拓
  2. 第18回次世代を担う有機化学シンポジウム
  3. 材料開発における生成AIの活用方法
  4. 触媒的C-H活性化型ホウ素化反応
  5. フロリゲンが花咲かせる新局面
  6. ユーコミン酸 (eucomic acid)
  7. 誰でも使えるイオンクロマトグラフ 「Eco IC」新発売:メトロ…
  8. ハイブリッド触媒系で複雑なシリルエノールエーテルをつくる!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その1
  2. 第45回―「ナノ材料の設計と合成、デバイスの医療応用」Younan Xia教授
  3. オゾンホールのさらなる縮小を確認 – アメリカ海洋大気庁発表
  4. ケムステV年末ライブ2022開催報告! 〜今年の分子 and 人気記事 Top 10〜
  5. 大学院から始めるストレスマネジメント【アメリカで Ph.D. を取る –オリエンテーションの巻 その 1–】
  6. 【Spiber】新卒・中途採用情報
  7. 塩基の代わりに酸を使うクロスカップリング反応:X線吸収分光が解き明かすルイス酸の役割
  8. 向山 光昭 Teruaki Mukaiyama
  9. 実験の再現性でお困りではありませんか?
  10. 第68回―「医療応用を志向したスマート高分子材料の開発」Cameron Alexander教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年7月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

梶 弘典 Hironori KAJI

梶 弘典(かじ ひろのり)は、日本の化学者・材料科学者である。京都大学化学研究所教授。固体NMR・D…

宮田 潔志 Kiyoshi MIYATA

宮田 潔志(みやた きよし、1986年-)は、日本の物理化学/分析化学者である。九州大学大学院理学研…

三ツ沼 治信 Harunobu MITSUNUMA

三ツ沼 治信(みつぬま はるのぶ)は、日本の有機化学者である。神戸大学大学院理学研究科化学専攻准教授…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年7月版】

2026年7月にケムステでは26本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

MEDCHEM NEWS 35-1 号「創薬の未来を担う若き研究者へのメッセージ」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、オープンアクセスと…

そのピーク、本当に原料ですか?【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

収率予測モデルが反応機構を語る!

第716回のスポットライトリサーチは、京都大学化学研究所(中村研究室)道場貴大 助教にお願いしました…

電気化学の勘どころ 対話でつかむホントの姿

概要対話形式で本質に迫る,電気化学の入門書.勘どころを押さえれば,複雑に見える現象の要点…

ペプチド合成におけるエピメリ化 Epimerization in Peptide Synthesis

概要ペプチド合成におけるエピメリ化(epimerization)とは、アミノ酸残基のα炭素の立体…

第63回Vシンポ「フォトキネティシズム:励起現象のマルチスケール速度論と革新的光機能」を開催します!

今年も夏本番の季節になってきましたね! さて、本記事は、第63回ケムステVシンポジウムの開催告知です…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP