[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

無保護糖を原料とするシアル酸誘導体の触媒的合成

[スポンサーリンク]

 

第22回目となるスポットライトリサーチは、東京大学大学院薬学系研究科(金井研究室) 博士後期課程3年・魏 暁峰さんにお願いしました。

魏さんが取り組むのは、糖を保護せず、触媒の力でそのまま変換するという大変挑戦的な研究テーマです。糖の合成化学は保護脱保護が煩雑で、簡便供給法に乏しくなかなか進んでいきません。こういった新しいアプローチで糖鎖が自在に得られるようになれば、いずれ未知の糖化学・生命化学を拓く成果に繋がっていくかもしれません。

最近の研究成果がACS Central Science誌に論文としてまとまり、プレスリリースおよびジャーナル表紙選定に至ったため、今回紹介することとなりました。

“An Expeditious Synthesis of Sialic Acid Derivatives by Copper(I)-Catalyzed Stereodivergent Propargylation of Unprotected Aldoses”

Wei, X.-F.; Shimizu, Y.; Kanai, M. ACS Cent. Sci. 2016, 2, 21.  DOI: 10.1021/acscentsci.5b00360

ACSCentSci2016_Wei_cover

筆者の同僚で恐縮では有りますが、アイデアを絶え間なく実験し続ける馬力ある学生で、今後が楽しみな研究者の一人であることは間違い有りません。

また中国人ながら、日本語も英語も大変堪能です。今回依頼して本文を書いて貰ったのですが、その実力は以下にご覧のとおりです。

それではご覧ください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

シアル酸は抗インフルエンザ薬であるザナミビルの合成原料となるなど、医薬品候補化合物として有望な高次糖ですが、様々な誘導体を迅速に合成・供給することは困難でした。

本研究は、安価な銅触媒を用いた無保護糖のプロパルギル化反応を鍵として、簡便なシアル酸合成を実現しました。銅触媒に用いるリガンドのキラリティーによってジアステレオ選択性を高度に制御することができるため、酵素反応を用いた従来の方法では合成出来ない非天然型のシアル酸の合成にも成功しています。入手容易な様々な糖から多数のシアル酸誘導体を迅速に供給することのできる本技術は、新規医薬品の創出に貢献できると考えています。

sr_X_Wei_1

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

自然界に多数の種類が存在する糖は、生体内で様々な働きを担っているため、これを人工的に改変することによって医薬機能を備えた化合物の創出が可能です。しかし、糖には水酸基が多数存在するため、適切な保護基を用いて反応点を制御する方法がとられてきましたが、これでは合成工程数が増加してしまいます。そこで、保護基を使わずに糖の骨格を直接変換することで、生物活性物質を短工程で収束的に合成できれば、合成化学的にインパクトがある研究になると考えました。また、シアル酸の合成では酵素を用いた手法が有効ですが、銅触媒の力量を十分に発揮し、酵素法を超えるためには、触媒による立体選択性の自在制御が重要だと考え、この点に深く興味を持ちながら、研究を行いました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

活性種であるアレニル銅求核剤は塩基性を有しているため、水酸基によるプロトン化が進行してしまい、わずかしか存在していないアルデヒド型の糖へ求核付加することは困難でした。そこで、糖の開環促進剤を種々検討したところ、B(OMe)3の添加が反応促進に有効であることを見出しました。また、糖基質は複雑な立体環境を有するため、リガンドによるジアステレオ選択性の制御は難しい問題でした。ほとんどの市販リガンドでは選択性を制御できなかったため、自らリガンドのデザインおよび合成を行いました。新規リガンドによって、高い反応性を得ることはできましたが、立体選択性を制御することはできませんでした。最後まで希望をあきらめずに、新規リガンド開発と並行して高い反応性に関わるbite angleが大きいホスフィンリガンドに集中して再度詳細に検討したところ、適切なPh-SKP類不斉リガンドを見出し、2種類のジアステレオマーを作り分けることに成功しました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究では保護基フリー合成の概念に従い、天然物(シアル酸類)の短工程合成に成功しました。今後保護基を使わずに、環境に優しく、効率高く、しかも酵素を超える糖類位置選択的反応や立体選択的反応の開発に引き続き挑戦します。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

博士研究をご指導していただいた金井先生、清水先生に深く感謝しております。

研究コンセプトおよび実験計画が正しく、苦労を重ねても結果が中程度にとどまってしまう場合は多いですが、諦めずに努力し、最適のアイデアを生み出しながら研究を進めます。

関連リンク

研究者の略歴

sr_X_Wei_2魏 暁峰 (Xiao-Feng Wei)

所属:東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室) 博士後期課程 3年

研究テーマ:無保護糖類を基質としたジアステレオ選択的触媒的プロパギル化反応を鍵としたシアル酸類縁体の合成

 

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑥
  2. Nature 創刊150周年記念シンポジウム:ポス…
  3. 「フラストレイティド・ルイスペアが拓く革新的変換」ミュンスター大…
  4. Pure science
  5. 第4回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ
  6. 異なる“かたち”が共存するキメラ型超分子コポリマーを造る
  7. ケムステイブニングミキサー2019ー報告
  8. 【書籍】アリエナイ化学実験の世界へ―『Mad Science―炎…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. デヴィッド・ニセヴィッツ David A. Nicewicz
  2. 工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その1
  3. 米デュポンの第2・四半期決算は予想下回る、エネルギー費用高騰が打撃
  4. ケムステイブニングミキサー2015を終えて
  5. エッセイ「産業ポリマーと藝術ポリマーのあいだ」について
  6. キャピラリー電気泳動の基礎知識
  7. 工程フローからみた「どんな会社が?」~OLED関連
  8. 2018年 (第34回)日本国際賞 受賞記念講演会のお知らせ
  9. 【いまさら聞けない?】アジドの取扱いを学んでおこう!
  10. アーント・アイシュタート合成 Arndt-Eistert Synthesis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年2月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
29  

注目情報

注目情報

最新記事

超原子価ヨウ素反応剤を用いたジアミド類の4-イミダゾリジノン誘導化

第468回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学  合成薬品製造学研究室(伊藤研究室)に所属されて…

研究室でDIY!ELSD検出器を複数のLCシステムで使えるようにした話

先日のBiotage Selekt + ELSDの記事でちらっと紹介した、ELS…

第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 〜ADC製造の基盤技術〜」を開催します!

修論・卒論・博士論文で大忙しの2,3月ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。まとめ作業とデスク…

有機合成化学協会誌2023年1月号:[1,3]-アルコキシ転位・クロロシラン・インシリコ技術・マイトトキシン・MOF

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年1月号がオンライン公開されました。す…

飲む痔の薬のはなし1 ブロメラインとビタミンE

Tshozoです。あれ(発端記事・その後の記事)からいろいろありました。一進一退とはいえ、咀…

深紫外光源の効率を高める新たな透明電極材料

第467回のスポットライトリサーチは、東京都立大学大学院 理学研究科 廣瀬研究室の長島 陽(ながしま…

化学メーカー発の半導体技術が受賞

積水化学工業株式会社の高機能プラスチックスカンパニー開発研究所エレクトロニクス材料開発センターが開発…

ラジカル種の反応性を精密に制御する-プベルリンCの世界初全合成

第466回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院薬学系研究科 天然物合成化学教室 (井上研究室)…

Biotage Selekt+ELSD【実機レビュー】

最近では、有機合成研究室には1台以上はあるのではないかという自動フラッシュ精製装置ですが、その中でも…

ケムステV年末ライブ2022開催報告! 〜今年の分子 and 人気記事 Top 10〜

だいぶ遅くなってしまいましたが、年末に開催したケムステV年末ライブの模様を報告いたします。 …

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP