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スポットライトリサーチ

超高温の熱分析で窒素ドープカーボンの高感度定性・定量分析を達成

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第676回のスポットライトリサーチは、東北大学 多元物質科学研究所(西原研究室)の吉井 丈晴 先生にお願いしました。

今回ご紹介するのは、炭素材料中の窒素の定量・定性手法の開発についてです。

窒素ドープカーボンはエネルギー関連材料として使われることが多く、含まれる窒素はその材料の特性に影響を及ぼすと考えられています。今回、2100 °Cまで昇温可能な超高温昇温脱離法を開発し、炭素材料中の窒素を従来法では困難であった10 ppmレベルの高感度での定量手法を報告されました。また、得られたガスの種類と温度から、材料中の窒素の結合状態を定性できることを見出されています。
本成果は、Chem 誌 原著論文およびプレスリリースに公開されています。

Quantitative and qualitative analysis of nitrogen species in carbon at the ppm level
Yoshii, T.; Nishikawa, G.; Prasad, V. K.; Shimizu, S.; Kawaguchi, R.; Tang, R.; Chida, K.; Sato, N.; Sakamoto, R.; Takatani, K.; Moreno-Rodríguez, D.; Škorňa, P.; Scholtzová, E.; Szilagyi, R. K.; Nishihara, H., Chem 202410, 2450–2463. DOI: 10.1016/j.chempr.2024.03.029

研究室を主宰されている西原洋知 教授から、吉井先生について以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

吉井さんは、朗らかで協調性に富みながらも、自らの考えをしっかり持ち、周囲と円滑にコミュニケーションできる研究者です。課題の核心を捉える洞察力と、柔軟かつ独創的な発想を併せ持ち、新たな発見へと結実させる力に秀でています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

図1. 超高温TPD装置の模式図

窒素ドープカーボンは、燃料電池の白金代替触媒や各種電池電極として有望視され、次世代のエネルギー材料として盛んに研究がなされています。こうした、カーボン材料中の窒素分析には、これまで“非破壊分析”であるX線光電子分光法(XPS)が主に用いられてきました。しかしながら、XPSは表面近傍の情報しか得ることができず、また分析感度は0.1 %(1000 ppm)程度が限界でした。我々は、新しいアプローチとして破壊分析に着目し、超高温昇温脱離(TPD)装置を開発しました(図1)。本装置では誘導加熱機構を利用しており、室温から2100 ℃まで一定の昇温速度で試料を加熱することができます。その際、試料から脱離したガスを質量分析計により定量する仕組みとなっています。本装置を用いることにより、カーボン材料中に存在する窒素種の全てを、NH3, HCN, N2のガスとして脱離させて定量することに成功しました(図2a)。また、脱離したガスの種類と温度の情報から、カーボン中での窒素の化学結合状態を識別可能であること、すなわち定性分析が可能であることを見出しました(図2b)。さらに、開発したTPD法はXPSなどの従来法よりも 2 桁高い感度を持ち、窒素を10 ppmレベルで定量可能であることが示されました

図2. (a)窒素ドープカーボンのTPD温度プロファイル (b)各窒素ドーパントの脱離ガス種と温度

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

まずは、2100 ℃という高温に試料を加熱しつつ、ノイズの少ないマススペクトルを得ることに苦心しました。というのも、そのような高温下では、試料だけでなくその周辺の装置パーツも伝導熱や輻射熱で加熱されてしまい、装置パーツからの脱離ガスの信号を拾ってしまうためです。試料台をはじめとする装置の全ての素材に拘るとともに、装置設計も改善に改善を重ねて、ノイズの少ないマススペクトルを得られるようにしました。(ここには書ききれません笑)2020-2021年頃、当時学生だった西川銀河君と一緒に、あれこれ頑張ったのをよく覚えています。装置の組み立てですので、力仕事がほとんどでした。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

こうして作製した装置を使って、窒素ドープカーボンの2100 ℃までのTPD測定を行いました。実際にTPD測定を行うまで予期していませんでしたが、窒素ドープカーボンからは多量のHCN(シアン化水素)が脱離しました(図2参照)。質量分析計の信号を物質量に変換し、TPDプロファイルを得るには、純粋なガスをTPD装置内に流して検量線を作成する必要があります。ご存知の通り、HCNは猛毒ですので、HCNの検量線作成に非常に苦労しました。実験室でHCNガスを安全に発生させて、回収し、装置内に導入するために、2ヶ月くらいかけて研究計画を練りました。実際の実験は数時間程度でしたが、緊張しながら行ったのをよく覚えています。これも西川銀河君のお陰で無事成功することができました。

また、COとN2はほぼ同じ分子量を有するので、両者が混ざったプロファイルから純粋にN2のみのプロファイルを抜き出すのも非常に重要な点です。これも一筋縄ではいかずに苦労しましたが、フラグメントイオンのシグナルを使うことで、汎用的なプロトコルを開発することができました。これらを積み重ねて、実際にNH3, HCN, N2のキレイな脱離プロファイルを得られた時の感動は、今でもよく覚えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今回開発した超高温昇温脱離法は、窒素ドープカーボンに限定されません。原理的には、装置上限温度の2100 ℃までに脱離するガス種が観測可能でありますので、酸化物や窒化物といったマトリックス中の「欠陥」や「表面」に存在するあらゆる軽元素が分析対象となり得ます。今は、分析対象を拡張するべく、あらゆる材料の測定を試みています。既に、炭素材料を超えて、ペロブスカイト型酸化物の窒素ドーパントの定性・定量分析に成功しています(論文へのリンク:https://doi.org/10.1039/D4SC01850H)。従来の非破壊な分光分析では判別できなかった測定対象種の化学構造・相互作用を明らかにし、破壊的な手法ならではの「欠陥」や「表面」の新しい評価軸を提供したいと考えています。超高温昇温脱離法が、従来法と並んで一般的な無機材料のキャラクタリゼーション手法として認知されることを、最終目標として頑張っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。上述しましたように、超高温昇温脱離法には、今なお数多くの未踏の可能性が秘められていると確信しております。なかでも、無機材料中に含まれる軽元素種の分析においては、従来法では到達し得なかった新たな知見が得られることが期待されます。その可能性をさらに拓いていくためには、あらゆる材料を積極的に測定してみることが重要です。もし「この材料を測定してみたい」とお考えのものがございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。従来の手法では検出が困難であったり、識別が難しかったりする材料など、大歓迎です。

最後になりますが、本研究の遂行にあたり、多大なるご支援とご助言を賜りました多くの皆様に、心より御礼申し上げます。とりわけ、実験を共に行ってくれた当時学生の西川銀河君、ならびに研究室を主宰される西原洋知教授に深く感謝申し上げます。また、本稿執筆の機会を賜りましたChem-Station編集部の皆様にも、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

研究者の略歴


名前:吉井 丈晴よしい たけはる
所属:東北大学 多元物質科学研究所
略歴:
2020年3月    大阪大学大学院工学研究科 博士後期課程終了(山下弘巳研究室)
2020年4月より  東北大学多元物質科学研究所 助教(西原洋知研究室)
2025年4月より  同 准教授

関連リンク

  1. 東北大プレスリリース
  2. 原著論文(オープンアクセス)
  3. 西原研究室Webページ

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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