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マイクロ波化学が挑むプラスチックのリサイクル

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マイクロ波化学株式会社は、マイクロ波プロセスを用いた汎用プラスチック分解技術の開発を目的とする小型実証設備を完成させました。汎用プラスチックをはじめ、あらゆるプラスチックに適用可能なマイクロ波によるプラスチック分解技術の開発を独自で進めており、この分解技術を「PlaWave」と名付けました。マイクロ波は、カーボンニュートラル達成のために不可欠である電化技術であり、再生可能エネルギー等の脱炭素電源を用いることでグリーンなプラスチック循環を可能とします。 (引用:マイクロ波化学プレスリリース9月27日)

マイクロ波化学株式会社及び三井化学株式会社は、マイクロ波技術を用いて、これまでリサイクルが難しかったポリプロピレンを主成分とする混合プラスチックであるASR(自動車シュレッダーダスト)やバスタブや自動車部品などに使用されるSMC(熱硬化性シートモールディングコンパウンド)などの廃プラスチックを、直接原料モノマーにケミカルリサイクルする技術の実用化を目指した取り組みを開始しました。 (引用:マイクロ波化学プレスリリース11月18日)

プラスチック類の削減やリサイクルが大きく叫ばれている中、マイクロ波化学よりプラスチックのケミカルリサイクルに関するニュース2件が最近発表されたので、紹介させていただきます。

まず1件目のニュースは、プラスチック分解技術の開発を目的とする小型実証設備を完成させたという内容です。現在の主流は、廃プラスチックをエネルギー源として使用するサーマルリサイクルですが、燃焼によって二酸化炭素が排出されます。そのためポリマーからモノマーを合成してプラスチックの原料にしたり、別の化学製品に活用するケミカルリサイクルの技術開発が進められています。次にマイクロ波化学株式会社についてですが、社名の通りマイクロ波化学プロセスの研究開発及びエンジニアリングを中心に事業を行っている企業です。2007年に創業以来、様々な化学企業と提携を結び、マイクロ波の化学品製造への活用を広げているようです。

マイクロ波と言えば食品を温める電子レンジが有名ですが、化学品を合成する際の熱源としては発展途中の手法です。マイクロ波の長所は、電気エネルギーの90%程度の効率で直接対象物に伝達できることや、急速加熱内部加熱選択加熱といったいくつかの伝熱方法があることで、これにより従来の加熱方法と比較して反応効率の向上や反応温度の低温化、装置のコンパクト化、製品収率向上も期待されます。

従来加熱法とマイクロ波加熱法とでのCO2排出量の比較(出典:ケムステ過去記事

プラスチックの熱分解反応においては高い温度が必要である一方、プラスチックはかさ高く、効率的な加熱にはいくつかの課題があります。そこでマイクロ波化学では、マイクロ波を使いポリエチレンの分解を試行し、短時間でほぼ100%の転嫁率、高収率でエチレンの回収に成功していました。

従来法とマイクロ波法の比較図(出典:ケムステ過去記事

そして今回取り上げたニュースでは、様々なプラスチックの分解反応を研究するための実証設備を完成させたことが報告されました。処理能力は5kg/時間程度であり、ポリスチレンを始めとした様々なプラスチックで実証を重ねていく予定だそうです。

汎用プラスチックを対象としたケミカルリサイクルの実証設備(出典:マイクロ波化学プレスリリース

マイクロ波化学では、開発しているプラスチックの分解技術を「PlaWave」と名付け、スケールを大きくしていくことを検討しています。短期的な目標をロードマップにしており、2024年には一万トン/年の実際の廃棄プラスチックを処理し社会実装することを目標にしています。

PlaWaveのロードマップ(出典:マイクロ波化学プレスリリース

続いて2件目のニュースに移りますが、PlaWaveの具体的な内容の一つとして、マイクロ波化学は三井化学と共同でリサイクルが難しい種類の廃プラスチックを、直接原料モノマーにケミカルリサイクルする技術への取り組みを開始しました。具体的な難しい廃プラスチックとして、自動車シュレッターダスト(ASR)と熱硬化性シートモールディングコンパウンド(SMC)を挙げており、これらに対してリサイクルの取り組みを行うそうです。

自動車シュレッターダストとは、廃棄となった自動車が解体されて工業用シュレッターによって破砕された後に、金属などを取り除いた残りのことです。現状はサーマルリサイクルで処理されており、様々なプラスチックが混ざっているだけでなく、その他の材料も含まれているため、ケミカルリサイクルで処理するには特に難しいようです。

一方、熱硬化性シートモールディングコンパウンドは、シート状の強化熱硬化性ポリマー樹脂で、各種添加剤や触媒が配合された熱硬化性ポリエステル樹脂とガラス繊維や炭素繊維が含まれています。優れた機械的強度、良好な表面外観、および優れた電気絶縁特性を示すため、自動車の車体部品や住宅の浴槽などに使われています。こちらもプラスチック以外のマテリアルが含まれているためケミカルリサイクルを特に困難にしています。

そんなケミカルリサイクルが難しい廃プラスチックに対して、マイクロ波化学の開発するマイクロ波プラスチック分解技術PlaWaveを用いて直接原料モノマーに分解する検討を進めており、すでに初期検討を終え良好な結果を得ており、マイクロ波化学のベンチ設備での検証を行い、今後本格検討を進め、早期に実証試験を開始する予定と発表されております。

マイクロ波化学のケミカルリサイクル分野イメージ(出典:マイクロ波化学プレスリリース

従来の加熱法では反応系全体が加熱されてしまうため、反応に悪影響を及ぼす化学種が含まれている場合は、それを取り除かない限り影響を排除できませんでした。しかしマイクロ波の場合には、加熱したい化学種に合わせてマイクロ波の周波数を最適化できるため、加熱が必要な化学種のみ活性化され、それ以外にはなるべく熱を与えずに反応を進行できるかもしれません。このプラスチックのリサイクルで考えれば、ポリマーや触媒のみが活性化されてモノマーの収率が向上し、不純物は変化せず反応後に分離できる可能性があります。

プラスチックのケミカルリサイクルにおいては、多様なポリマーの種類と添加剤や着色剤がケミカルリサイクルの壁を高くしています。三井化学では、日産自動車と共同で自動車廃プラスチック油化技術の開発を2019年7月から2020年3月まで行いましたが、廃プラスチックの選別をよりも行うことが事業化には必要との見解が示されています。しかし分別を細かく行えば行うほど、コストがかかりますので、純度の低い廃プラスチックへの反応開発は重要であり、このマイクロ波を利用した反応は、ケミカルリサイクルを大きく普及させる可能性があると思います。

化学品の製造において加熱はほぼ必須の操作であり、その温度で収率などが決まることが多いですが、製造スケールが大きくなるほど最高温度と昇温速度には設備的な制限が増えコントロールが難しくなります。そんな中、このマイクロ波による加熱は、従来の制限を打開する可能性があり、自分の関わる製品の製造でもすぐに試してみたいほど興味深い技術だと感じました。一方で原料の変更とは異なり、プロセスの変更には多額の投資が必要であるため、長い目で見た導入のメリットが導入には必要不可欠です。どれくらい製造効率が向上するか、新しい製品を作ることができるかはケースバイケースですが、省エネルギー=二酸化炭素排出削減という大きな課題は導入の追い風にはなるのではないでしょうか。なおマイクロ波化学では、化学への応用だけでなく様々な分野への進出を行っており、例えば、ペプチド・核酸医薬等の合成を用途としたマイクロ波固相合成装置の販売を開始したり、食品の解凍技術の開発に着手しているそうです。上記のプラスチックのケミカルリサイクルだけでなく、いろいろな分野でこのマイクロ波が活躍することを期待します。

関連書籍

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関連リンクとプラスチックのリサイクルに関するケムステ過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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