[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

内部アルケン、ついに不斉ヒドロアミノ化に屈する

[スポンサーリンク]

不活性内部アルケンとアミンとの不斉ヒドロアミノ化反応が報告された。新規なカチオン性キラルイリジウム触媒とアミノ化剤に2-アミノピリジンを用いたことが成功の鍵である

遷移金属触媒によるアルケンの不斉ヒドロアミノ化

アルケンに対するアミンN–H結合の触媒的不斉付加反応、すなわちヒドロアミノ化は、高い原子効率で有用なキラルアミンを合成できる。これまで、パラジウムやニッケル、イリジウムなど種々のキラル遷移金属触媒が開発され、共役アルケンや末端アルケン、歪んだアルケンの不斉ヒドロアミノ化が達成された(図1A)[1]。しかし、内部アルケンに対する手法の開発は挑戦的な課題として残されている。これは、内部アルケンが遷移金属触媒に対して配位しにくいこと、触媒がアルケンの異性化を併発し、エナンチオ選択性や位置選択性が低下することが原因である。変法としてBuchwaldらは、キラル銅触媒とシラン還元剤存在下、求電子的アミノ化剤を用いる「形式的な」内部アルケンの不斉ヒドロアミノ化を報告した(図1B)[2]。しかし、この手法は原子効率に課題を残す。
本論文の著者であるHartwigらは、これまでにイリジウム触媒を用いたヒドロアミノ化を数例報告している[3]。イリジウム触媒によるヒドロアミノ化は、①N–H結合の酸化的付加、②アルケンの配位挿入、③還元的脱離を経て進行する。2012年に柴田らは、イリジウム触媒をカチオン性にして②を、また配向性効果をもつ2-アミノピリジンをアミノ化剤として①を促進することで、末端アルケンの不斉ヒドロアミノ化を報告した(図1C)[4]。しかし、エナンチオ選択性は中程度であり、さらに不活性内部アルケンには適用できなかった。
今回Hartwigらは、イリジウム触媒による不活性内部アルケンの不斉ヒドロアミノ化を達成した(図1D)。柴田らと類似の戦略に則り、新規二座ホスフィン配位子を用いたことが本成功の鍵である。

図1. (A) 金属触媒による不斉ヒドロアミノ化 (B) 内部アルケンの不斉ヒドロアミノ化 (C) カチオン性イリジウムと2-アミノピリジンの利用

 

“Catalytic asymmetric addition of an amine N–H bond across internal alkenes”
Xi, Y.; Ma, S.; Hartwig, J. F. Nature 2020
DOI: 10.1038/s41586-020-2919-z

論文著者の紹介

研究者:John F. Hartwig 
研究者の経歴:
1986 BSc, A. B. Princeton University, USA (Prof. Maitland Jones Jr.)
1990 Ph.D., University of California, Berkeley, USA (Prof. Richard A. Anderson and Prof. Robert G. Bergman)
1990-1992 Postdoc, Massachusetts Institute of Technology, USA (Prof. Stephen J. Lippard)
1992-1996 Assistant Professor, Yale University, USA
1996-1998 Associate Professor, Yale University, USA
1998-2006 Professor, Yale University, USA
2006-2011 Professor, University of Illinoi, Urbana-Champaign, USA
2011- Professor, University of California, Berkeley, USA
研究内容:遷移金属触媒を用いた反応開発と機構解明: C–H官能基化、ヒドロ官能基化、クロスカップリング

論文の概要

著者らはカチオン性Ir/(S)-DTBM-SEGPHOS触媒存在下、(Z)-オクト-4-エン(2)を用いて、まずアミノピリジン1の効果を調査した(図2A)。その結果、2-アミノピリジン(1a)では反応が進行しなかったが、2-アミノ-6-メチルピリジン(1b)を用いるとヒドロアミノ化が進行し、3, 4, 5の混合物が収率53%で得られることがわかった。アミノ化剤に1bを用いて、次に触媒を検討した(図2B)。触媒の対アニオンをトリフルオロメタンスルホンイミド(NTf2)とし、配位子に新たに開発した(R)-TMS-SYNPHOS(L2)を用いた際に最も高い収率および位置・エナンチオ選択性で3bを与えた。著者らはこれを最適条件としアルケンの基質一般性を調査した(図2C)。対称な鎖状Z-アルケンからキラルアミン3baが高収率かつ高エナンチオ選択性で得られた(3ba)。環状アルケンとしてシクロペント-3-エンを用いても不斉ヒドロアミノ化が進行し、シクロペンチルアミン(3bb, 3bc)を良好な収率で与えた。3bcではトランス体が優先して得られる。極性官能基をもつ非対称アルケンでは、その官能基から遠い炭素にアミンが付加した化合物を優先的に与えた(3bd)。本反応により導入されるピリジルアミノ基は白金/酸触媒条件で水素添加した後、水素化ホウ素ナトリウムを作用させることで一級アミンへと誘導できる(図2D)。

図2. (A) ピリジルアミンの検討 (B) 触媒検討 (C) 基質適用範囲 (D) 一級アミンへの誘導

以上、カチオン性キラルイリジウム触媒を用いた不活性内部アルケンの不斉ヒドロアミノ化が開発された。今後、より高活性な触媒開発により、アルケンの当量の低減やE-アルケンの適用などの進展を期待したい。

 参考文献

  1. Huang, L.; Arndt, M.; Gooßen, K.; Heydt, H.; Gooßen, L. J. Late Transition Metal-Catalyzed Hydroamination and Hydroamidation. Chem. Rev. 2015, 115, 2596–2697. DOI: 10.1021/cr300389u
  2. Yang, Y.; Shi, S.-L.; Niu, D.; Liu, P.; Buchwald, S. L. Catalytic Asymmetric Hydroamination of Unactivated Internal Olefins to Aliphatic Amines. Science 2015, 349, 62–66. DOI: 1126/science.aab3753
  3. (a) Zhou, J. S.; Hartwig, J. F. Intermolecular, Catalytic Asymmetric Hydroamination of Bicyclic Alkenes and Dienes in High Yield and Enantioselectivity. J.Am. Chem. Soc. 2008, 130, 12220–12221. DOI: 10.1021/ja803523z (b) Sevov, C. S.; Zhou, J. S.; Hartwig, J. F. Iridium-Catalyzed Intermolecular Hydroamination of Unactivated Aliphatic Alkenes with Amides and Sulfonamides. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11960–11963. DOI: 10.1021/ja3052848
  4. Pan, S.; Endo, K.; Shibata, T. Ir(I)-Catalyzed Intermolecular Regio- and Enantioselective Hydroamination of Alkenes with Heteroaromatic Amines. Org. Lett. 2012, 14, 780–783. DOI: 10.1021/ol203318z

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 有機合成化学協会誌2019年11月号:英文版特集号
  2. サラダ油はなぜ燃えにくい? -引火点と発火点-
  3. 理論的手法を用いた結晶内における三重項エネルギーの流れの観測
  4. フラーレンの“籠”でH2O2を運ぶ
  5. システインから無機硫黄を取り出す酵素反応の瞬間を捉える
  6. 秋の味覚「ぎんなん」に含まれる化合物
  7. 有機合成化学協会誌2022年10月号:トリフルオロメチル基・気体…
  8. 史上最強の塩基が合成される

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. House-Meinwald転位で立体を操る
  2. 田中耕一 Koichi Tanaka
  3. 化学のちからで抗体医薬を武装する
  4. 遺伝子工学ーゲノム編集と最新技術ーChemical Times特集より
  5. 国際シンポジウム;創薬・天然物―有機合成化学の展望―
  6. リンダウ会議に行ってきた①
  7. 宇宙で結晶化!? 創薬研究を支援する結晶生成サービス「Kirara」
  8. 第2回国際ナノカーレースにてNIMS-MANAチームが優勝
  9. 光・電子機能性分子材料の自己組織化メカニズムと応用展開【終了】
  10. 日本の海底鉱物資源の開発状況と課題、事業展望【終了】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年2月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728

注目情報

注目情報

最新記事

マテリアルズ・インフォマティクスのためのデータサイエンティスト入門

開催日:2022/12/14  申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

工業生産モデルとなるフロー光オン・デマンド合成システムの開発に成功!:クロロホルムを”C1原料”として化学品を連続合成

第450回のスポットライトリサーチは、神戸大学大学院理学研究科化学専攻 津田研究室の岡田 稜海 (お…

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2024卒)

私たちは「楽しい社会を実現する」という経営理念をもとに事業分野を広げ、世界をリードする総合化学企業と…

進む分析機器の開発

がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの芳賀淑美主任研究員、植田幸嗣プロジェクトリーダーらの研究…

無機物のハロゲンと有機物を組み合わせて触媒を創り出すことに成功

第449回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(椴山グループ)5年…

熱化学電池の蘊奥を開く-熱を電気に変える電解液の予測設計に道-

第448回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 工学院 機械系 機械コース 村上陽一研究室の長 …

毎年恒例のマニアックなスケジュール帳:元素手帳2023

hodaです。去年もケムステで紹介されていた元素手帳2022ですが、2023年バージョンも発…

二刀流センサーで細胞を光らせろ!― 合成分子でタンパク質の蛍光を制御する化学遺伝学センサーの開発 ―

第447回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 理学系研究科化学専攻 生体分子化学研究室(キャ…

【12月開催】第4回 マツモトファインケミカル技術セミナー有機金属化合物「オルガチックス」の触媒としての利用-ウレタン化触媒としての利用-

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合…

化学ゆるキャラ大集合

企業PRの手段の一つとして、キャラクターを作りホームページやSNSで登場させることがよく行われていま…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP