[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

遷移金属の不斉触媒作用を強化するキラルカウンターイオン法

[スポンサーリンク]

A Powerful Chiral Counterion Strategy for Asymmetric Transition
Metal Catalysis Hamilton, G. L.; Kang, E. J.; Mba, M.; Toste, F. D.Science2007,317, 496. DOI:10.1126/science.1146922

 

金触媒を用いた反応において、キラルなカウンターアニオンを用いると、高い不斉収率で生成物が得られることをカリフォルニア大学バークレー校のDean Toste教授らは発見し、Scienceに報告しました。

近年多くの光学活性(キラル)な触媒を用いた不斉合成反応が開発されています。金属にキラル配位子とよばれる、不斉源として金属に配位する官能基を有する化合物を用いて、不斉を発現させる方法が一般的です。

 

たとえば、2001年にノーベル化学賞を受賞した野依良治氏のBAINAPもルテニウムに大きな光学活性ビナフチル部位を有する、リン触媒をキラル配位子として用いて、ルテニウム触媒に配位させ、片側だけのみ反応させるという手法で触媒的な不斉反応を実現しています。

 

noyori.gif

一方では、最近金属に配位したキラルな触媒だけでなく、キラルなイオンそのものを利用した反応がいくつか報告されています。例えば京都大学の丸岡教授らによるキラルな相関移動触媒やMacMillanやJacobsen、Listによるキラルな有機分子触媒、また学習院大学の秋山らによるキラルなブレンステッド酸触媒などです。

 

chiralion.gif

 しかし、これまで金属の対アニオン(カウンターアニオン)をキラルなものを用いて、高い不斉収率を発現させた例はほとんどありませんでした。カリフォルニア大学バークレー校で金触媒を用いた有機合成反応で最近名をはせているToste教授らはAu触媒を用いたアレーンのヒドロアルコキシ化反応において、対アニオンにキラルなホスファイト触媒を用いることで、つまりキラルな対イオンを用いて不斉を発現することに成功したのです。

はじめは今までと同じ発想のもとに、金触媒の上に、ホスフィン配位子を配位させアレーンのアルコキシ化反応の不斉化を試みましたが、0~8%eeと全くうまくいきませんでした。

しかし、この反応、当量の銀触媒を添加することにより、その銀触媒のカウンターアニオンとして大きく、電子吸引性のものを使えば、はじめに入れた金触媒のカウンターアニオン(この場合は塩化物イオンCl-)と交換反応が進行し、反応性の高い金触媒を作ることができることが知られていました。

そこでに目をつけた彼らは、銀触媒のカウンターアニオンとして、ビナフチルを有するキラルなホスファイトを添加剤として用いて、反応させたところ非常に高い不斉収率で目的物が得られたのです。

これは前述したように、金触媒のCl-とこのキラルなホスファイト触媒が入れ替わって、キラルな金触媒を形成し、そこで反応が進行したということになります。

このような金属触媒のカウンターアニオンとしてキラルなものを用いて、高い不斉収率を発現させた例はいままでほとんどなく、今後不斉触媒を設計する上で、新しい概念につながると考えられています。

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. アザボリンはニ度異性化するっ!
  2. 誰でも参加OK!計算化学研究を手伝おう!
  3. テクノシグマのミニオイルバス MOB-200 を試してみた
  4. 湿度によって色が変わる分子性多孔質結晶を発見
  5. ウコンの成分「クルクミン」自体に効果はない?
  6. 自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を…
  7. 【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解…
  8. Spiber株式会社ってどんな会社?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 人工嗅覚センサを介した呼気センシングによる個人認証―化学情報による偽造できない生体認証技術実現へ期待―
  2. F. S. Kipping賞―受賞者一覧
  3. 台湾当局、半導体技術の対中漏洩でBASFの技術者6人を逮捕
  4. 医薬各社、アルツハイマー病薬の開発進まず
  5. ジュリアス・レベック Julius Rebek, Jr.
  6. シリコンバレーへようこそ! ~JBCシリコンバレーバイオ合宿~
  7. ADC薬 応用編:捨てられたきた天然物は宝の山?・タンパクも有機化学の領域に!
  8. 超音波有機合成 Sonication in Organic Synthesis
  9. 博士号で世界へ GO!-ー日本化学会「化学と工業:論説」より
  10. カルコゲン結合でロジウム二核錯体の構造を制御する!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP