[スポンサーリンク]

一般的な話題

有機アジド(3):アジド導入反応剤

[スポンサーリンク]

さて、本シリーズも第3回目となりました。まだ講義でいえば、1回分も終わっていません。前回までに、有機アジドの歴史と基本性質爆発性をお話しました。今回は、アジド化合物をつくる反応に入る前に、代表的な試薬「アジド導入反応剤」(アジド化剤)を紹介しましょう。

代表的なアジド導入反応剤

  • アジ化ナトリウム

もっとも一般的で使われるアジド化剤は、アジ化ナトリウム(Sodium azide)。年間約1000トンの生産量があります。古くから知られているのは、1892年に報告されたWislicenusの合成法。ナトリウムアミドを調製し亜酸化窒素と反応させる手法です。その後、1908年にCurtius・Thieleらがエタノールから調製可能な、亜硝酸エチルを使ったアジ化ナトリウムの合成法を報告しています。

2016-10-15_03-13-22

アジ化ナトリウムの合成法

  • トリメチルシリルアジド

トリメチルシリルアジド( Trimethylsilyl Azide: TMSA)は、有機溶媒に「溶ける」アジド化剤。年間10トン生産されています。アジ化ナトリウムなどと比べ非極性溶媒でも使うことができるのが特徴です。合成法は至って単純で、トリメチルシリルクロリドにアジ化ナトリウムを混ぜるだけ。合成法的にもアジ化ナトリウムよりは高価になります。

2016-10-15_03-18-13

トリメチルシリルアジドの合成法

  • ジフェニルリン酸アジド

ジフェニルリン酸アジド(Diphenylphosphoryl Azide: DPPA)は安全に使えるアジド化剤。カルボン酸やアルコールから直接アシルアジド・有機アジド化合物ができます。開発したのは日本人で塩入孝之教授(名古屋市立大学および名城大学名誉教授)DPPAをもちいるトリメチルシリルジアゾメタンの工業的製法やシラン化合物の安全合成法でも有名です。合成は対応するリン酸クロリドにアジ化ナトリウムを加えます。

2016-10-15_03-22-52

DPPAとその合成法

  • トリブチルスズアジドとテトラブチルアンモニウムアジド

上記3つがメジャーなアジド化剤ですが、それ以外にもいくつか使われているものがあります。そのひとつが、トリブチルスズアジド(Tributyltin Azide: TBSnA)。スズの毒性が問題となりますが、年間100トン生産されているアジド化剤です。テトラブチルアンモニウムアジド(Tetrabutylammonium Azide: TBAA)も相間移動触媒反応に使える、THF溶媒を使った反応に適しているためよく使われます。年間1トンほど生産が行われています。

2016-10-15_03-25-42

  • テトラエチルグアニジムアジド

すこし変わったものにテトラメチルグアニジニウムアジド(Tetramethylguanidinium azide:TMGA)があります[4]。テトラメチルグアニジニウム基がカチオンを安定化させ、求核性のアジド化剤として高い活性を示します。

2016-10-15_03-29-21

  • アジド酢酸エチルエステル

ここまで紹介したものはすべて、基本的にアジド基を求核的に導入する反応剤。アジド酢酸エチルエステル(Azidoacetic acid ethylester: AAE)はアジドを導入した化合物をつくるために用いられます。とくに複素環合成法でヘテロ環にアジドを導入する際に便利です。年間約100kgほど生産されています。

2016-10-15_03-29-40

  • N3+”型アジド導入剤

以下の3つはアジドを求電子剤として導入する試薬。アジドヨージナン(Azide iodinane)はR基の違いによって少し反応性が異なりますが、求核剤との反応によってアジド基を導入できる反応剤です。4-アセトアミドベンゼンスルホン酸アジド(4-acetamidobenzenesulfonyl azide)も同様に求核剤と反応します。トシルアジドの誘導体です。最後に、2-アジド-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩(2-azido-1,3-dimethylimidazolinium hexafluorophosphate)は強い求電子アジド化剤です。

2016-10-15_03-30-28

今回は、アジド化剤の紹介で終わってしまいました。ようやく次回からはアジド化反応の話に移っていきましょう。

関連文献

  1. Wislicenus, W. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1892 , 25 , 2084.
  2. (a) Curtius, T. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1890 , 23 , 3023. (b) Thiele, J. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1908, 41, 2681.
  3. Birkofer, L.; Wegner, P. Org. Synth. 1970 , 50 , 107. DOI: 10.15227/orgsyn.050.0107
  4. (a)  Papa, A. J. J. Org. Chem. 1966, 31, 1426. DOI: 10.1021/jo01343a026 (b) Błaszczyk, R. Synlett, 2008, 299. DOI: 10.1055/s-2007-1000842

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 近傍PCET戦略でアルコキシラジカルを生成する
  2. インタラクティブ物質科学・カデットプログラム第一回国際シンポジウ…
  3. メルマガ有機化学 (by 有機化学美術館) 刊行中!!
  4. Anti-Markovnikov Hydration~一級アルコ…
  5. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑥
  6. 初めての減圧蒸留
  7. NIMSフォーラム 「未来のエネルギーをつむぐ新材料・新物質、こ…
  8. マテリアルズ・インフォマティクスにおける初期データ戦略 -新規テ…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【Q&Aシリーズ❷ 技術者・事業担当者向け】 マイクロ波による焼成・乾燥プロセス
  2. 生物活性分子のケミカルバイオロジー
  3. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(4年目)
  4. ウコンの成分「クルクミン」自体に効果はない?
  5. 発想の逆転で糖鎖合成
  6. ケムステイブニングミキサー2016を終えて
  7. ゾーシー・マーベット転位 Saucy-Marbet Rearrangement
  8. ヘメツバーガー インドール合成 Hemetsberger Indole Synthesis
  9. 生命由来の有機分子を見分ける新手法を開発
  10. 白い有機ナノチューブの大量合成に成功

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年10月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

電子のスピンに基づく新しい「異性体」を提唱―スピン状態を色で見分けられる分子を創製―

第614回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(松田研究室)の清水大貴 助教にお願い…

Wei-Yu Lin教授の講演を聴講してみた

bergです。この度は2024年5月13日(月)に東京大学 本郷キャンパス(薬学部)にて開催されたW…

【26卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体験していただく場…

カルベン転移反応 ~フラスコ内での反応を生体内へ~

有機化学を履修したことのある方は、ほとんど全員と言っても過言でもないほどカルベンについて教科書で習っ…

ナノ学会 第22回大会 付設展示会ケムステキャンペーン

ナノ学会の第22回大会が東北大学青葉山新キャンパスにて開催されます。協賛団体であるACS(ア…

【酵素模倣】酸素ガスを用いた MOF 内での高スピン鉄(IV)オキソの発生

Long らは酸素分子を酸化剤に用いて酵素を模倣した反応活性種を金属-有機構造体中に発生させ、C-H…

【書評】奇跡の薬 16 の物語 ペニシリンからリアップ、バイアグラ、新型コロナワクチンまで

ペニシリンはたまたま混入したアオカビから発見された──だけではない.薬の…

MEDCHEM NEWS 33-2 号「2022年度医薬化学部会賞」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎と応用

開催日:2024/05/22 申込みはこちら■開催概要「分子生成」という技術は様々な問題…

AlphaFold3の登場!!再びブレイクスルーとなりうるのか~実際にβ版を使用してみた~

2021年にタンパク質の立体構造予測ツールであるAlphaFold2 (AF2) が登場し、様々な分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP