[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

学術論文を書くときは句動詞に注意

[スポンサーリンク]

動詞の後に副詞や前置詞などが付く 句動詞 を使いこなすのは難しいものです。英語などの会話では、2-3語から成る句動詞(phrasal verb)がよく使われますが、もとの動詞と違う意味になることも多い上、より広い意味で解釈されることもあるので、誤った意味に取られる可能性もあります。そのため、学術論文では句動詞より、単体動詞(single verb)を使うほうがよいとされているのです。

句動詞と単体動詞の違い

例えば、「carry」という単語は、「何かをある場所から別の場所に運ぶ」ことを意味します。そして、「out」という単語には、「ある場所から出て行く、どこかから一定の距離離れている、明らかになる、終わる」など、いくつかの意味があります。しかし、この2つがつながって「carry out」という句動詞になると、それは「実行する、成し遂げる」という、別の意味になります。

また、句動詞になることで意味が広がったり強調されたりすることもあります。一方の単体動詞は限定的に意味で使われることから、誤解されるのを避けることができます。

会話では、句動詞を上手に使いこなせたほうが、表現力がアップするとも言われますが、学術論文では、句動詞がインフォーマル(くだけた)な印象を与えるのに対し、単体動詞のほうがフォーマル(改まった)な印象を与えることも、

論文で句動詞を避けて単体動詞で表現することが推奨される理由でしょう。多数の名言を残した第3代アメリカ合衆国大統領のトーマス・ジェファーソンが”The most valuable of all talents is that of never using two words when one will do.”と述べているように、一言で言えることを二言で言わないようにすることは大切です。

学術論文は、シンプルかつ、簡潔明瞭な言葉で書くことが望ましいのです。
以下に句動詞の特徴を整理します。

句動詞の種類と使い方

動詞に自動詞と他動詞があるように、句動詞も同じで目的語を持たずに成り立つ句動詞と、目的語を伴う句動詞があります。同じ前置詞が付く句動詞でも動詞によって自動詞的に使われるものと、他動詞的に使われるものに分かれます。さらに、他動詞的な句動詞が使われる文章では、動詞と副詞が離れることもある、というように使い方も異なります。

複数の意味を持つ句動詞

前述したように、句動詞になることで複数の意味を持つことがあります。そのため、学術論文で句動詞を使うと、文の意味が不明確になることがあります。例えば、”cut out”という句動詞は、使用される文脈によって、複数の異なる意味を持ちます。例文とその中での意味を書き出してみます。

  • The irrelevant paragraph was cut out. (不適切な段落は削除された。)
  • The DNA model was cut out using scissors. (そのDNAモデルは切り出されたものだ。)
  • She was not cut out for the task. (彼女はその仕事に向いていなかった。)
  • The engine cut out. (エンジンが急に止まった。)
  • Group 2 had sugar cut out of their diet. (グループ2は断糖した。)

このように多くの意味があるので、学術論文では、文意を正確に伝えるために、単体の類義語に置き換えて表現すべきなのです。

ただし、前置詞になじみの薄い日本人は、句動詞をイディオム(英熟語)や熟語と混同していることも多いと言われるので注意しましょう。

学術論文で避けるべき句動詞、使える句動詞

次に、学術論文で使用するとくだけすぎた印象となる句動詞の例と、言い換え可能な単体動詞を挙げてみます。

  • Get up (rise or increase)  (起きる、増える)
  • Put into (contribute)   (寄与する、投資する)
  • Find out (discover)   (発見する)
  • Get together (merged) (集まる、団結する)
  • Bring about (caused)   (引き起こす、もたらす)
  • Cut out (deleted, cleaved, suited)  (切り抜く、切り離す、省略する、やめる、断つ、削除する、止まる)

これらは、ごく一部に過ぎないので、他の句動詞についても意味が限定的な単体動詞に書き換えられないか注意しましょう。

とはいえ、学術論文での使用が認められている句動詞もあります。その一つが”carry out”です。成し遂げる、実行するという意味で”do”よりも明確になるため、論文の中でもよく使われています。

他に、冒頭の文章や、研究の主旨を説明する序論のような部分での使用される句動詞もありますが、使用できる句動詞かどうかの判断ができない場合は、単体動詞に書き換えておくことをお奨めします。そして、正式な文章あるいは研究の詳細を示す本文では句動詞の使用を避け、明確な単体動詞による表現とするよう心がけましょう。分かりやすい学術論文こそ、読者の信頼を勝ち取ることができるのです。

出典元:エナゴ学術英語アカデミー

化学論文に見られる”carry out”文例

  1. Little, Zeng, and co-workers developed a mediatory system to carry out the aziridination reaction under simple constant current conditions with inexpensive electrode materials; tetrabutylammonium iodide was found to be the optimal mediator. (DOI: 10.1021/acs.chemrev.7b00397)
  2. Similarly, various conditions to carry out the desired enol ether formation at the quinomethide stage (compound 132/15-epi-132) also failed. (DOI: 10.1021/ja506472u)
  3. A few years later, Jamison and Beaver reported that by using alcohols directly as the source of the requisite hydride, air-stable Ni(II) salts (reduced under the reaction conditions) could be used to carry out reduct- ive couplings between epoxides and tethered alkynes (75) (DOI: 10.1038/nature13274)
  4. Cross-couplings developed for small-scale use are often carried out in solvents poorly suited to industrial or large-scale use. (DOI: 10.1038/nature13274)
  5. In this report, investigation of solvent extraction of protonated tyramine into nitrobenzene by means of a synergistic mixture of cesium dicarbollylcobaltate and derivative 54 was carried out (DOI: 10.1021/acs.chemrev.6b00144).

関連書籍

[amazonjs asin=”4422810863″ locale=”JP” title=”最新 英語論文によく使う表現 基本編”][amazonjs asin=”4061531530″ locale=”JP” title=”できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)”]%e8%8b%b1%e6%96%87%e6%a0%a1%e6%ad%a3%e3%82%a8%e3%83%8a%e3%82%b4

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 対決!フタロシアニンvsポルフィリン
  2. 男性研究者、育休を取る。
  3. イオンのビリヤードで新しい物質を開発する
  4. 2009年イグノーベル賞決定!
  5. エッセイ「産業ポリマーと藝術ポリマーのあいだ」について
  6. iPhone/iPodTouchで使える化学アプリケーション
  7. Reaxys Prize 2011発表!
  8. 科学予算はイギリスでも「仕分け対象」

注目情報

ピックアップ記事

  1. 学問と創造―ノーベル賞化学者・野依良治博士
  2. 炭素繊維は鉄とアルミに勝るか? 1
  3. 井上 佳久 Yoshihisa Inoue
  4. 藤沢の野鳥変死、胃から農薬成分検出
  5. 技術セミナー参加体験談(Web開催)
  6. マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎
  7. ナザロフ環化 Nazarov Cyclization
  8. 微少試料(1 mg)に含まれる極微量レベル(1 アトグラム)の放射性ストロンチウムを正確に定量する分析技術開発!
  9. トップリス ツリー Topliss Tree
  10. シラフルオフェン (silafluofen)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

水-有機溶媒の二液相間電子伝達により進行する人工光合成反応

第662回のスポットライトリサーチは、京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 阿部竜研究…

ケムステイブニングミキサー 2025 報告

3月26日から29日の日本化学会第105春季年会に参加されたみなさま、おつかれさまでした!運営に…

【テーマ別ショートウェビナー】今こそ変革の時!マイクロ波が拓く脱炭素時代のプロセス革新

■ウェビナー概要プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波…

予期せぬパラジウム移動を経る環化反応でベンゾヘテロールを作る

1,2-Pd移動を含む予期せぬ連続反応として進行することがわかり、高収率で生成物が得られた。 合…

【27卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体験していただく場…

熱がダメなら光当てれば?Lugdunomycinの全合成

光化学を駆使した、天然物Lugdunomycinの全合成が報告された。紫外光照射による異性化でイソベ…

第59回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、全国の有機化学を研究する大学院生を中心とした若手研究…

多環式分子を一挙に合成!新たなo-キノジメタン生成法の開発

第661回のスポットライトリサーチは、早稲田大学大学院先進理工学研究科(山口潤一郎研究室)博士課程1…

可視光でスイッチON!C(sp3)–Hにヨウ素をシャトル!

不活性なC(sp3)–H結合のヨウ素化反応が報告された。シャトル触媒と光励起Pdの概念を融合させ、ヨ…

化学研究者がAIを味方につける時代―専門性を武器にキャリアを広げる方法―

化学の専門性を活かしながら、これからの時代に求められるスキルを身につけたい——。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP