[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

Stephacidin Bの全合成と触媒的ヒドロアミノアルキル化反応

[スポンサーリンク]

Seth B. Herzon, Ph. Dの講演を聞きました。ほとんどの方がご存じではないと思いますが、それはそのはず彼はまだPIではなく博士研究員(ポスドク)です。現在はアカデミックに就職活動中といったところでしょうか。彼は、ハーバード大A. G. Myers研でStephacidin B(以下参照)の合成研究を行い、世界で先駆けて(単量体であるStephacidin Aはスクリプス研究所のPhil S. Baranが初の全合成)全合成を達成しました。

Seth2

 その後、イリノイ大学のHartwig研へポスドクに行き、新規触媒的ヒドロアミノアルキル化反応を開発しました。この反応はC&E Newsにも取り上げられ(当サイトケムステニュースでも紹介しました。)、新たなアミンの合成法として注目を集めています。

 今回はこの学生時代と現在のポスドクの仕事を講演していました。

?2005年のJ. Am. Chem. Socに掲載された仕事なので、ご存じかもしれませんが簡単に紹介します。

彼は以下のような3環性骨格を合成した後に鍵反応であるビシクロ[2,2,2]ジアゾオクタン(Bicyclo[2.2.2]diazaoctane)の形成反応を行いました。すなわち、t-アミルペルオキシベンゾエート(tert-amyl
peroxybenzoate)を作用させ、下記のようなアミノアシルラジカル中間体を生成させることで、4員環性化合物を収率よく合成しました。合成戦略ははじめからこの反応が鍵反応でしたが、もちろんはじめからうまくいくわけもなく、かなりの検討を行っていました。ちなみにメチルシクロヘキサジエンを利用しているのはアミノアシルラジカルを収率よく生成するためです。

Seth1

 (訂正:、t-アミルペルオキシベンゾエートのOがひとつ多いです。)

 4員環性化合物から5段階でStephacidin Bの単量体であるavrainvillamideを合成を達成し、さらに種々検討の結果、トリエチルアミンを作用させることでavrainvillamideの二量化反応を進行させ、Stephacidin Bの全合成を達成しました。この二量化反応、はじめは種々のルイス酸を作用させることで2つの分子のアミド部位とキレートさせ、近傍によせることを狙っていましたが、うまくいかず、ルイス酸性を抑えるためにトリエチルアミンを添加したところ反応が進行したということでした。

Seth3

 さらに二量化反応の反応機構の考察、またいくつかの類縁体合成を行ったそうです。後半は触媒的アミノアルキル化についての話でした。

 とても話すのが早く、フォローするのでいっぱいでしたが、なかなかいい講演でした。数は多くないものの天然物合成と反応開発ですばらしい結果をあげているので、しばらくすればどこかの大学でPIをやっているのではないかと思います。

【追記】2008年夏過ぎよりポスドク先のYale大学でassistant professorとして独立して働き始めたようです。今後自身のテーマで結果を残せるかということが鍵となります。注目していきましょう(2009.3.4)。

  • 関連論文

・Enantioselective Synthesis of Stephacidin B. Herzon, S. B and Myers, A. G.; J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 5342 DOI: 10.1021/ja0510616

・Herzon, S. B.; Hartwig, J. F.J. Am. Chem. Soc. 2007,1296690.? DOI:10.1021/ja0718366

  • 関連リンク

Andrew G. Myers Research Group

The Hartwig Group: University of Illinois at Urbana-Champaign

The Herzon Group: Yale University 2008年より始まったHerzon研究室

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. シリカゲルはメタノールに溶けるのか?
  2. 鉄触媒での鈴木-宮浦クロスカップリングが実現!
  3. こんなサービスが欲しかった! 「Chemistry Refere…
  4. 元素ネイルワークショップー元素ネイルってなに?
  5. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解卑金属めっきの各論編~…
  6. HACCP制度化と食品安全マネジメントシステムーChemical…
  7. 製薬業界の現状
  8. アルケンの実用的ペルフルオロアルキル化反応の開発

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 最近の有機化学注目論文3
  2. 日本触媒で爆発事故
  3. 日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1
  4. 国際化学オリンピックのお手伝いをしよう!
  5. 野崎 一 Hitoshi Nozaki
  6. ゲルのやわらかさの秘密:「負のエネルギー弾性」を発見
  7. MOF-5: MOF の火付け役であり MOF の代名詞
  8. ウィリアム・ノールズ William S. Knowles
  9. 旭化成ファインケム、新規キラルリガンド「CBHA」の工業化技術を確立し試薬を販売
  10. 基礎材料科学

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2008年2月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
2526272829  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP