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スポットライトリサーチ

化学の力で複雑なタンパク質メチル化反応を制御する

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第160回目のスポットライトリサーチは、連名での登場です。理化学研究所の五月女 宜裕 さん・島津 忠広さんの二人にお願いしました。

五月女さんは本コーナーにおいて2回目の登場です(前回記事:ニッケル錯体触媒の電子構造を可視化)。もともとのバックグラウンドは有機合成化学(触媒開発)ですが、そこで培った経験をもとに生体夾雑系における化学変換に着目した研究を発展させ、今回の翻訳後修飾制御法へと結びつけています。生物学者の島津さんとともに、どちらが欠けても達成できない「有機化学と生物学の融合」が成し遂げた成果です。本成果は、Chem. Commun. 誌およびプレスリリースとして公表されています(冒頭図は理研プレスリリースより引用)。

“Unveiling Epidithiodiketopiperazine as a Non-Histone Arginine Methyltransferase inhibitor by Chemical Protein Methylome Analyses”
Sohtome, Y.; Shimazu, T.; Barjau, J.; Fujishiro, S.; Akakabe, M.; Terayama, N.; Dodo, K.; Ito, A.; Yoshida, M.; Shinkai, Y.; Sodeoka, M. Chem. Commun. 201854, 9202-9205. doi:10.1039/C8CC03907K

プロジェクトを統合指揮された眞貝洋一先生より、お二方についてのコメントを頂いています。今後とも大きな期待が寄せられるお二方の共同成果を是非ご覧下さい!

私が理研に移ってからぜひやりたいと考えていた生物と化学の融合研究は、袖岡さんとの出会いで始まり、様々な発展を遂げています。それを可能にしたのは、今回の登場人物の五月女さんと島津さんがいてくれたから。このタレントな二人のChemistとBiologistが融合することで、新しい研究の芽が作り出されています。これからも、もっともっと面白い反応産物が出来上がることを期待・楽しみにしています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

ヒストンタンパク質のメチル化反応は、転写をつかさどるクロマチン構造の変化に重要な役割を果たします。ヒストン以外のタンパク質(非ヒストン)のメチル化反応も生命現象の制御に関与することが次第に明らかにされていますが、非ヒストンタンパク質を対象とするメチル化阻害剤の開発は重要な研究課題として残されていました。
メチル化阻害剤の開発では、疾患に関与する精製された1つの酵素/1つの基質タンパク質 (ペプチド) のメチル化を指標として、ハイスループットスクリーニングにより阻害剤シードの探索が進められます。一方、本研究は、化学と生物の専門家がタッグを組み、タンパク質メチル化酵素 (Protein methyltransferase: PMT) の検出系を羅針盤として、機能解析が進んでいないタンパク質も含むタンパク質プール中で、阻害剤が「どのタンパク質のメチル化を?、どの程度阻害するのか?」について明らかにすることを目指した研究です。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

五月女: 本研究は、合成化学・生化学を掛け合わせた研究で、共著者の島津さんと文字通り二人三脚で進めてきました。ケミカルバイオロジーという言葉が二人の架け橋でしたが、それぞれの専門や研究背景は全く異なっていました。双方が分かる言葉で問題点を炙り出し、そしてWin/Winの関係を構築することを特に大切にしてきました。

島津: 化合物が有するユニークな活性を利用した生化学的な解析や、化合物の作用機序についての研究は以前から馴染みがありましたが、本研究で行ったような、狙った活性を持った化合物を一から作り出す研究は、私にとって挑戦的なテーマであり、合成化学の専門家である五月女さんとの緊密なコラボレーションが無ければ成し得なかったと感じています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

五月女: 生体内で機能する化合物の多くは、高度に官能基化されており、またメタノールにすら溶けない高極性化合物である場合がほとんどです。また、その反応性の高さから、室温で速やかに分解してしまうことも日常茶飯事です。これらの問題点を乗り越えるためには、もう一つのライフワークとして取り組んでいる触媒反応の開発とは全く別の視点が求められます。学部、修士課程で天然物ケミカルバイオロジー研究に携わり、不安定な内因性生理活性物質の単離・構造決定や、細胞を触っていた経験がとても役に立ちました。特に、モノ取り出身の赤壁麻依さんが本研究に参画してくれて以降、阻害剤評価に欠かせない高純度の検出プローブを供給できるようになったことが鍵でした。

島津: 五月女さんも述べられているように、合成で得られた化合物は安定性がまちまちで、反応条件のみならず、保存条件も往往にして結果に影響を与える事がある点が難しいと思いました。そのような化合物に関しては本研究の間、繰り返し合成をお願いすることになりましたが、毎回品質の安定したサンプルを供給していただき、生化学的な解析の再現性を支えていただきました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

五月女: 他の分野の方にも「おもしろい」と思ってもらえるアイディアを広く発信したいと思っています。こういった知的なワクワク感は、私たち実験科学者に、「何かに使えないだろうか?」と懸命に考えるきっかけを与え、そして突き動かすためのまさに「触媒」になると信じています。

島津: 生命はその誕生と共に絶えず自身の生存や環境に適応するために化学反応を最適化し、進化させてきました。このように生命が長い時間をかけて作り出した生物の化学反応を理解し、上手に模倣していく事で、新たな産業や医療技術の発展に繋がるものと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

五月女: 一人でできることは限られていますが、分野、研究室、世代を超えて仲間を作り、新しいscienceに挑戦してください。そして、「おもしろい」アイディアを発信して、更にChem-Stationを盛り立ててください!

島津:あらゆる分野でこれからますます情報の相互発信が容易になり、また重要になってくることと思います。今回の投稿を通して出会えたChem-Stationの読者の皆さまと、互いに切磋琢磨していくことが出来たら幸いです。

研究者の略歴

五月女 宜裕 (そうとめ よしひろ)
理化学研究所/開拓研究本部/袖岡有機合成化学研究室/専任研究員
理化学研究所環境資源科学研究センター/触媒・融合研究グループ/専任研究員(兼務)
現在のテーマ: 触媒的不斉反応の開発、酸素を用いた酸化的触媒反応の開発、ケミカルメチローム解析

略歴:
2001年3月 慶應義塾大学理工学部化学科 卒業 (上田実 専任講師)
2003年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程修了 (早川洋一 助教授、新家一男 助手)
2006年3月 東京大学大学院薬学系研究科 博士課程修了 (橋本祐一 教授、長澤和夫 助教授)
2006年4月~2008年3月 東京大学大学院薬学系研究科 助手・助教 (柴﨑正勝 教授)
2008年4月~2009年3月 JSPS海外特別研究員 (Yale大学、Andrew D. Hamilton 教授)
2009年4月~2011年3月 東京農工大学工学府 特任助教 (長澤和夫 教授)
2011年4月~2017年3月 理化学研究所 袖岡有機合成化学研究室 研究員 (袖岡幹子 主任研究員)
2018年4月より現職

島津 忠広 (しまづ ただひろ)

理化学研究所/開拓研究本部/眞貝細胞記憶研究室/専任研究員
現在のテーマ: 代謝エピジェネティクス、ミトコンドリア内メチル化酵素、タンパク質メチル化反応の検出系開発

略歴:
2002年3月 東京大学農学部生命工学専修卒業 (発酵学研究室)
2004年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了(同上)
2007年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(同上)
2007年7月 カリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所 博士研究員 (Eric Verdin研究室)
2011年5月 理化学研究所 分子リガンド探索研究チーム 特別研究員
2011年10月 理化学研究所 眞貝細胞記憶研究室 研究員
2016年4月より現職

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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